第17話 幼馴染みの少女との記憶、続き

 幼稚園で出会って、親しくなった紫村赤音は……たぶん、彼女が冷治を好きになったことで、噛み合わなくなった。

 さすがに六年生まで上がれば彼女の気持ちが察せないはずもなかったけれど、成長するにつれて関わる回数はどんどん減っていった。

 四年生の夏に彼女がミニバスを始めたのも理由の1つだ。

 冷治が親に言われて、空手をやり始めた直後だった。

「ねえ、レイちゃぁん」

 帰り道で近づいてきて、紫村は話しかけてきた。

 甘えるような声だ。

「……どうかしたの、あーちゃん?」

「あたしも空手がやりたくて、スポーツがしたいって言ったの。でも、危ないからミニバスかバレーにしろって言われて……」

 気落ちして、彼女は肩を落としていた。

「まあ、しょうがないんじゃないかな。格闘技は危ないだろうし」

「……そうかなあ」

 後から考えると、たぶん自分と一緒に空手をやりたかったから不満げだったのだろうとわかったが、この時点では親が言うなら仕方ないだろうと思っただけだった。

 そもそも、冷治も別に空手をやりたかったわけではなく、『ゲームばかりしてないで少しは体を動かせ』という指示に従っただけだったという事情もある。

 憂鬱なときに人の感情を察せるほど大人ではなかったのだ。

「ま、やるだけやってみたら、少しは楽しめるんじゃない?」

 という言葉は半ば自分に言い聞かせているもので、紫村への忠告では、なかった。

「レイちゃんがそういうなら、ちょっとがんばってみようかな」

 言葉通り紫村はがんばり、中学ではバスケットボール部に入ることになる。

 冷治のほうは段も級も取らないまま、小学校卒業とともに空手をやめた。

 中学に入ってからは普通に遊ぶことはほぼなくなったけれど、夏祭りやクリスマス、バレンタインといったイベントでは、必ず紫村は冷治を誘いにきた。

 ただ、この頃になって、冷治は自分から彼女を誘いに行こうと考えたことが一度もないことに、やっと気づいた。

 誘われるのが、関わってこられるのが嫌だと思ったことはない。

 でも、紫村赤音の自分に対する『好き』と、自分の彼女に対する『好き』には隔たりがあるのだ。

 五年生か六年生のいつくらいからか、彼女のことを『あーちゃん』と呼ばなくなったが、たぶんそれは、彼女の『好き』から距離を取りたかったからだろう。

 きっと紫村も気づいている。

 だから、冷治の気持ちが変わるのを、彼女はずっと待っていた。

 いつかは自分のことを好きだと言ってくれる日が来ると、信じていたんだと思う。

 好きだというそぶりを見せつつも、紫村は自分から気持ちを伝えてきはしなかった。

 待つことで人の気持ちが変わるはずがないと、彼女は気づかなかったのだ。

 たぶん……だからこそ、冷治ははっきりと気持ちを伝えてきた菅原涼と、付き合ってみてもいいかと思ったのだろう。

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