第15話 逃げ込んだ公園の短い一幕

 公園から冷治と菅原涼が飛び立ったとき、すでに空は暗くなっていた。

 風を遮るものが完全になくなって、十月の冷たい空気が体を包み込んだ。少しだけ、体が震えたのは寒さのせいだろう。

「あいつ、俺たちを殺す気はなかったよね。だって、ぶつけられたのってペイントボールみたいだし、爆発は煙がたくさん出てるだけで、なにか壊れたわけじゃない」

 それに冷治を止めようとしたときも武器のたぐいは使わなかった。まあ、世の中には武器なんかなくても人を殺せる人がたくさんいるのだろうが。

「うーん……うん。私を、捕まえようとしてるってことかな」

「たぶんね。今日はうちの親、帰ってくるって連絡が来てたけど、今日も泊まってく?」

 手をつかんでいる菅原涼を見上げて、冷治は問いかけた。

「そうしたほうがいいかな……二日続けて外泊したら、冷治くんの家でもさすがに怒られちゃいそうだけど……」

「怒られるなら、やめておいた方がいいよ。顔は見られたけど、名前は知られてないし……何日かは平気だと思う」

 冷治は首を横に振った。

「隣の駅から乗るようにすれば、駅を見張られてもたぶん大丈夫。上着を着てるから、制服もはっきりとは見えてないはずだし」

 もちろん、子供の小細工など大人はいずれ見破るだろう。

 どうにかしなければならない。

 その『どうにか』は今のところ何も思いつかないのだけれど……。

 いつまでも飛んでいたら誰かに見つかる。どこかで降りなければならない。

 ただ、逃げる先について話し合うことはなかった。そこまで気が回らなかったからだ。

 やがて、馴染みの公園が見えてきた。

 冷治の家の近くにある公園。

 昨日の夜、火事のあと待ち合わせたのも、菅原涼が最初に告白してきたのもここだった。

 ここでデートみたいなことをしたこともあった。

 特に相談はしなかったけれど、人を運んで疲れていたこともあって、彼女はこの公園に着地することを選んだのだろう。

 冷治も別にそれに反対はしなかった。

 近所の子供たちも、日が暮れているからとっくにいなくなっているはずだ。

 公園の端、木がたくさん植えられているあたりに、まず冷治が降りた。

 ぶつからないように避けて移動しようとして……そして、公園内にもう一人の人物がいることに冷治は気づいた。

「紫村……?」

 朝、駅で会ったときと同じ格好をした紫村赤音は、空から降りてきた二人を見て目を丸くしていた。

「……レイちゃん」

 聞き慣れた幼なじみの声が、耳に届いた。

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