第11話 いつも通りの昼休み

 余計な時間を使ったせいで、その日は危うく遅刻しそうになった。

 退屈な午前中の授業を聞き流し、そして昼休み。

 冷治と菅原涼は、いつものように連れ立って食堂に向かった。

 二人が通う高校には、学食と売店の両方があるが、売店で買うか、弁当を持ってきて教室などで食べる生徒が多くを占める。

 もっとも学食には、少数派の生徒しかいなくとも十分に狭く感じられる程度のスペースしかないのだが。

 三階にある学食を目指して、二人は階段をあがっていく。

「午前中考えてたんだけどさ」

 冷治は言った。

「うん」

「朝のあの男って、ホントに記者なのかな」

「うーん……違う気がするけど。だって、カメラとか持ってる様子なかったし」

 それに、話を聞くときにメモを取り出す様子もなかった。いや、メモする価値のある返答は期待されていなかったのではないかとも思うが。

 食堂に入った二人は、食券の販売機に並ぶ列に加わる。

「政府とか警察とか自衛隊とかの、秘密なんとか機関の人なのかも」

 特に声を潜めようとはしなかった。内緒話をしていれば聞き耳を立てる者がいるかもしれない。しかし、普通の声で話している会話に荒唐無稽な内容が含まれていれば、ドラマか映画かゲームかアニメの話をしていると思うだけだ。

「空飛ぶ少女をつかまえて、実験動物にしようとしてるとか? 円筒形の入れ物に閉じ込めて、電気を流したりするんだ」

「ええっ、やだなー。私がそうなったら、助けてくれる?」

「もちろん、世界を敵に回してでも戦うさ」

 淡々とした声で答えると、菅原涼が笑った。

 券売機の順番が回ってきた。

 学食のメニューはおおむね炭水化物のみが並んでおり、そして実際に出てくるものは質より量を重視した料理ばかりである。

 冷治はカツ丼の大盛り、菅原涼はたぬきうどんのボタンを順番に押した。

 今度はおばちゃんたちが忙しく働いているカウンターの列に並ぶ。

「しばらく、外で練習するのはやめたほうがいいね」

「また昨日みたいなことがあったら、どうするの?」

「なにもしない。優秀な日本の消防士の皆さんが解決するのを見守るよ」

 迷うことなく冷治は答える。

「……そうだね」

 菅原涼は、そう言っただけだった。

 ほどなく、トレーを手にして二人はテーブルの間へと歩き出していた。

「牧野先輩は?」

「あっちの端にいるよ」

 菅原涼がアゴでテーブルの一つを示す。長テーブルの端に、二人がいつも昼食時に押しかけていく先輩がいた。

「開いてるから今日も行こうか。いつも、周りに人がいないよね」

「先輩が近づくなオーラを出してるからね」

 ぶつからないように気をつけながら歩き出す。

「今日は話してくれるかな、先輩」

「たぶん無理じゃない?」

 移動していく二人に気づいた先輩が、不愉快そうに眉を寄せてこちらをにらんでくるが、二人は気にもとめなかった。

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