第31章 12月15日

事件当日12月15日



絹代はいつも通り採取を終えて、後片付けをしていた。


シールに日付と番号を書いてシリコン容器に貼り付け、保冷バッグに入れる。


2時間コースの終了予定時刻まで残り5分。客と共にホテルを出れば終わりだ。


客の男性から

「春花ちゃん、この後用事があるから、先にホテルを出ても良いですか?チェックアウトも覚えました。」


と話し掛けられた。


絹代が


「わかりました、どうぞ。」


と答えると


「また必ず春花ちゃんに会いに来ます。待っていてください。」


そう言って客は部屋を出て行った。


絹代は身支度を整えるとライに貰ったサプリメントを飲んだ。


そして部屋を出て、エレベーターホールに向かう。


【今日もこの後、ライに会える。】

絹代はこの後の事を考えながらエレベーターのボタンを押した。


ところが間違えて上へ行くボタンを押してしまった。


【仕方ない】そう思うと同時に、上へ行くエレベーター到着の音が鳴り、扉が開いた。


すると中には男女二人が乗っていた。一瞬女の方と目が合う、男と女はすでに身体を密着させている。


絹代はすぐに目をそらして【気まずいなぁ】と思いながら、


「すいません、間違えました。どうぞ行って下さい。」


と言った。


その瞬間


「絹代か?何してるんだ!こんな所で!」


そこには唖然とした顔で突っ立っている父親の姿があった。


絹代は立ちすくみ、足が動かなかった。血の気が引いていく。


父親はエレベーターを降りると絹代の腕を掴み、手からカードキーを奪った。


よく見ると中にいた女にも見覚えがある。講習会で何度か会った事がある組織会員の女だ。


女は


「私、帰るわ…。」


そう言ってそのままエレベーターの扉を閉めた。


父親はカードキーの部屋番号を見ると、絹代の手を引いて歩き出した。


さっきまで絹代達が居た部屋に絹代を連れて入ると


「何してるんだ!こんな、こんな派手な服を着て…お前!」


父親は部屋の中を見渡して、


「誰といたんだ!あ、フロントにいた外人だな?そうか、そうなんだな?」


と声を荒げた。


「お父さんこそ、どうしてこんな所にいるの?さっきの女の人、会員の人じゃないの!」


「セミナーだ!セミナーがあって…。」


「身体をくっつける必要があるの?」


絹代の声が震える。


「お前こそ。なんだ、親の見えない所で!」


「そう、そういう事…お父さんとあの人、そんな関係なんだ!」


「そんな関係ってなんだ。」


「自分は病気だって言って仕事もしないで、こんな事してたの?お母さんは知らないでしょ?」


「お前はどうなんだ!何をしてたのか言え!!」


父親は絹代の両肩を激しく揺らす。


「バイトよ!少しでもお金の良い仕事をしないと、大学のお金を払えないでしょ!お父さんが病気になったから!だから!」


「なんだ!俺のせいだって言うのか?お前、身体で稼いでるんだな?そうだろう?なんて事してるんだ!母さんに知れたら、どうするんだ。」


「お父さんこそ、お母さんが知ったら発狂するんじゃないの?しかも、相手は組織の人って、最低!コレも組織のお導きですかっ…ぁ…。」


父親の手が絹代の首をキツく締める。


「黙れ、黙れ、黙れ…」

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