memory:128 魔神帝ルシファー
『宇宙って、何もないせいで全然進んでる気がしないっぽい……。』
『ほんとだぜ……。あまりに進まないせいで、俺達はここから抜け出せないんじゃないかって思えてくる。』
『本当に進んでいるかは、このモニターの自機体座標頼み……か。確かにこれは、とてつもない恐怖だね。』
『ああ、違いねぇ。俺も流石にこれを前にしちまったら、ブルッちまう所だ。』
『おにーちゃんが怖いを言葉にするのって、よっぽどだよね。けど……ゆーちゃんも右に同じだよ。』
静寂が続けば、恐れで機体の制御にさえ支障がでかねない事実を理解する子供達。ただ思うままを口にしながらも、その会話により互いを意識し正気を保つ方向でモニター越しの視線を合わせる。その彼らと同じく宇宙初体験ながら、己の意識を同調させてそれ以上の次元を感じ取る
「すんげー……宇宙、ガチやばいじゃないですか。ここが私の世界って考えたら、なんだかわくわくして来ました。」
ただ一人、恐怖を超えたスペースハイとでも呼称しそうな独特の高揚に包まれる
光学視界に捉えられる位置へ徐々に大きくなる存在を指し、魔の若衆らが言葉で場を引き締めにかかった。
『おしゃべりで心が紛れた所悪いが、あれが我らの現在の故郷だ。』
『みなくれぐれも粗相のない様に。光をほとんど反射しないため、光学映像では存在が確認し難いニュクス……その衛星軌道上へ建造された世界。それこそが、ロズ達魔の勢力が社会生活の基盤を打ち立て生存する大地――』
『『天楼の魔界 セフィロトだ。』』
魔の若衆が揃って口にした通り、主惑星である影の牢獄星は現時点の彼らの距離でも光学的にほぼ観測不可能。しかしその衛星軌道上にあるとされる地は全く異なっていた。幾重にも伸びた大樹の如き有機鉱物を彷彿させる枝分かれの先で、折り重なって建造されるいくつもの界層を有する御姿。そこへ申し訳程度に漏れる光でさえも、人類が目にする様な明々としたものではない淡き灯火。
それは
「すんげぇでやがります! 主惑星が見えない中でこのサイズ感は、これ……まるで宇宙に咲く、大輪のバラみたいでやがりますよ!」
「圧巻であります。周囲が無限の漆黒であるだけに、その美しさは際立っているでありますね。」
『ふむ……この我らが故郷の美しさを解する光の子らには、なかなかに美学的な素養を感じるのぅ。さあこのまま進め。じき、セフィロトの持つ外宇宙防衛結界圏を通過するでな。こちらの話はすでに付けておる――』
『直ぐ様、魔の勢力の最高権力者との謁見も叶う。ロズも言うた通り粗相なき様頼むぞ。』
程なく――
宇宙に咲く大輪のバラの名が相応しき世界へ、
やがて討伐陣営は光学視界全面へ、宇宙の大輪のバラを捉えられるほどの宙域へ。それを察した様に、指揮官である
『ようこそ、光に属せし地球の子ら。我らがセフィロトへの出向……歓迎する。いや……歓迎と言うのも少々おかしな話か。すでに
その存在は、高貴なる黄金の長髪の奥へ憂いに満ちた双眸を湛えていた。
†††
古来より、歪められた嘘の中では醜悪にして悪逆非道と言われた、闇の頂点たる存在。けれどオレ達の眼前へ姿を現したのは、それこそ光の化身と見紛うほどの高貴さと、慈愛から来る労りさえ乗せた視線を有した存在だった。
その存在こそが疑う余地もない、あの
『なんかこう、もっとおどろおどろしい感じを想定してたっぽい?』
『失礼ですね、サオリーナは。様々なサブカルチャーでも、魔の頂きにある方々はそれはもう美しき姿と、神々しさを兼ね備えると言うのは常識ですよ。』
『それはナルナルの常識だろうが(汗)。つか、このタイミングで駄弁ってたらシザあたり――』
『貴様らっ!! 大兄者の御前でなんという態度だ! そこに直れ!!』
『ああ、シザ君に点火してしまったね……(汗)。』
されど、我がアメノハバキリの誇る子供達は平常運転。いや……むしろ、この宇宙と言う絶望すら感じる世界で、眼前に君臨する魔の頂点を前にしてこの度胸。評価してもいいのではとの称賛すら浮かんで来た。
そうしたら、まさかの魔神帝閣下からもそこへの言及が飛ぶ事になった。
「
『上等だ。魔神帝だか知らないが、こんな育ち方しか選択できなかったのが俺らだしな。このままで行かせてもらおうぜ。』
『おにーちゃん、それ正論パンチだけど自粛、だよ! ルシファーさん、すみません……うちのおにーちゃんにおねーちゃん達が。』
「よい。気にするな、光の子らよ。いや……いつまでもそれでは流石に礼を失しているな。すまない、君達簡単な紹介も兼ねた、光の志士達に相応しき御名を教えて頂けるか?」
そこから続くのは、子供達のいつも機関で過ごす様なやり取りへ、柔軟に対応するどころか己の無礼さえ頭を下げて謝罪する頂きの姿。もはやそれを視界に入れただけでも、魔の存在すべてが如何に歴史による歪みで迫害されて来たのかが想像に難くなかった。
つまる所――例え思考や存在が神々の世界にシフトしようと、人の世と同じ因果が当たり前の様に渦巻くは宇宙の真理と言う現実だった。
『お初にお目にかかります、ルシファー閣下。私は地球を代表する光の戦力である彼らを、導く先導役を努めております、日本国 三神守護宗家は草薙家当主、
「……そうか。
「世界のあらゆる腐敗を背負わざるを得ない、魔王ベルゼヴュードと言う定めの子へ……瞬く刹那の安らぎを与えてくれて感謝している。本当に、ありがとう……。」
すでに砕ける雰囲気は、あの
すると、オレが言葉にした
彼の姿が醸し出す神々しさに言葉を奪われる、我がアメノハバキリが誇る子供達。ほどなく頭を上げた魔界の代表者へ、機関が誇る光の勢力が名乗るべき言葉を宣言する。その名がこのお方の心を……そして親友の魂を救い上げられる未来を信じて。
「守護宗家にて我が機関はアメノハバキリとの名を冠し、そして現在魔王討伐……いえ、その魂を救済するための作戦名〈アメノムラクモ〉を遂行中――」
「そして彼らは、日本国より舞い上がった希望の灯そのものであり、それを踏まえた彼らは以後、日の都の暁〈ライジングサン〉と呼称頂けたらと存じます。」
ここでの主役は自分ではない。すべての希望を託さざるをえない子供達を誇る様に、オレは彼らを日本国救世の使者として紹介した。自分達の名乗るべき名誉を耳にし、いつしか勇敢な顔付きとなる子供達を一望した後、魔神帝閣下へ視線を移す。
そこには、歪められた捏造の歴史にある悪意の権化などではない、それこそ慈愛の頂点かと思える神々しきお方が慈しむ様な微笑を讃え――
ほどなく、誇らしき子供達みなの自己紹介へと進んで行く。
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