memory:126 〜〜暁の出陣〜〜

 蒼き地球衛星軌道上より――

 無数の影が、巨大な対魔結界たった一つの欠損部である、太平洋上空へと降り立って行く。しかしそれらは、地球のあらゆる場所へ広がる事なく一点を目指して降下していた。そこには異形らが憎悪してやまない、生命の希望が集結した場所――


 対魔討滅機関アメノハバキリ有する巨鳥施設アメノトリフネが存在していたからである。


「アメノトリフネ、防衛システム起動。全対空兵装展開と同時に航空戦力を上げて。海自の叢雲そううんからもF‐35Xフツノミタマ・スーパーファイターを全機発艦。ミサイル・フリゲート全艦の指揮は工藤二佐へ一任し、黒龍こくりゅう及び轟龍ごうりゅうは潜水航行のまま、遠隔起動にて潜水艦発射型弾道ミサイルSLBM・フツノミタマ改による迎撃準備を。ヤクサイカヅチ各機、準備はいいですか?」


『問題ありません!』


『妹に同じく。』


『カカッ! なんや戦い方は専門外も甚だしいが、血がたぎるのぅ!』


『慎め、零善れいぜん。こちら伯豹はくひょう……いつでも。』


「防衛線死守は任せます。ヤクサイカヅチ全機……出撃!」


 その一点からただ流れ落ちる様に侵入する異形は、衛星画像で数百体を超える個体が群を成す。小悪魔級グレムリンタイプに始まり、それらを運用する攻撃艦級クルージェルまでが一処を目指して舞うは、まさに地獄のフタが空いた光景か。


 それら衛星画像確認により厳戒態勢にある巨鳥施設アメノトリフネでは、霊装機隊出撃に先立ち道を開くためと、機関が現在持ちうるあらゆる戦力を洋上及び上空へ展開。接敵の瞬間を待つばかりとなっていた。


炎羅えんら……出撃したら我らに構わず、皆をアメノミハシラまで直行させて下さい。』


「ああ、分かっている。ここは頼んだ……麻流あさる。」


『ええ……ご武運を。』


 そんな鬼気迫る事態に、戦いの中で最後となる会話を交わすは覚醒の当主炎羅聡明な令嬢麻流。互いに命を懸け、そして決して負けられぬ戦いの陣頭指揮のため、覚悟を決める夫婦の心情は機関に属する誰もが想像できた。


 これより二人はそれぞれ、


麻流あさる嬢よ聞け! わらわ達が事前に張り巡らせた超広域魔量子縛壕壁ラージナル・マガクオント・シェイル・ディメンショナで、少しの間は異形共の侵入を阻止できる! じゃがそれらでも、湧いて出てくる雑兵をすべては防ぎきれぬゆえ、数段に渡る戦力展開と消耗に備えよ!』


『助かります、紫水しすい閣下。ではそれらを考慮の上、最終防衛ラインの守りを固めたいと。』


 そこで前もって、彼らの過酷極まる状況を緩和せんがために張られた防衛戦。魔界協力勢を代表する妖艶な幼将紫水よりの、僅かばかりの支援の旨が伝えられる。彼女達も当然影の惑星ニュクスへ赴く戦力ではあるが、そこで魔蝿の王ベルゼヴュードを打ち破るのに梃子摺てこずれば本陣が先に墜ち命運尽きる――


 そこまで読み切る鋭い先見性こそ、魔族種が戦闘に長けた存在である裏付けでもあった。


 そして、ついに出撃の準備は整った。水平線より暁がまばゆく太平洋を照らす。その神々しき光景を汚す有象無象はすでに、行く手を阻む虚空の超広域防御障壁空マガ・ディメンショナを食い破りにかかっていた。


「各ストラズィール、及び魔界勢旗艦ドレシュナイダー……アメノトリフネより出撃! 、我らは地球と人類の未来を守り抜く! 最終防衛作戦名〈アメノムラクモ〉……暁の出陣だっっ!!!」


 それでも蒼き地球で生まれ、磨かれた暁の志士達太陽は舞い上がった。三神守護宗家は草薙家当主、草薙 炎羅くさなぎ えんらの大号令が大気を切り裂くや、六機の霊装機神ストラズィールと魔界協力勢が天空へと羽撃く。次々降り注ぐ異形の有象無象を掻き散らし、まずは地球の成層圏にある八塩折天元鏡アメノミハシラへ。そこより古の技術体系ロスト・エイジ・テクノロジーに基づく、時空高次元跳躍クロノ・サーフィングを経て影の惑星宙域へと向かうのだ。


 分断された戦い。どちらの敗北も地球の未来潰える背水の陣。だからこそ彼らは蒼き大地と人類の明日のために征く。



 共にあるライバー知識神オモイカネの心さえも熱く、熱く滾らせる最後の戦いが幕を開けた。



 †††



 巨鳥施設アメノトリフネより飛び立った魔王討伐陣営は、形振り構わず各機の機関出力の限り飛翔した。が、現状大半が未解明である超古代技術は限られた範囲の運用であり、それで地球の重力を振り切るには時間も要する所。そこで魔界勢力による力添えを加えた、第一宇宙速度までの加速を実現していた。


『現状そちらの古代技術解明精度では、地球の重力の枷は相当なもの……ゆえにこのドレシュナイダーによる重力相殺を用いアメノミハシラまで誘導する! 分かっておるな……そこで悠長に停止してミハシラのシステム起動を待つ猶予はないぞ!』


「ああ、理解している! すでにミハシラへのシステム起動を、遠隔にて行う方向で動いているよ! だがあちらの、衛星軌道の静止レベルまで速度を落とす必要もあるため、シャルーアの護衛を頼みたい!」


『言わずもがなじゃて! お主らの力は、可能な限り温存してかねばのぅ! シザ、ロズ……聞いた通りじゃ! 魔界勢の真価を、とくと見せてやる時じゃ!』


『『御意!!』』


 重力さえ無きものとし、地球の大気圏を駆ける魔軍の巨艦ドレシュナイダー。全長で有に500mはあろうその刺々しい出で立ちが切り裂く空域には、すでに星の護りアメノミハシラを超え漏れ出た異形で溢れかえる。それらを対空砲撃の弾雨で散らし、後方より追従する霊装機隊を導く様にただ、目的となる成層圏を目指した。


 本来地上からロケットの類を飛ばすよりも速く、しかし異形迎撃により制限を受けながらの時間を一気に駆け抜ける魔王討伐陣営。やがて高次元座標へ星の守りアメノミハシラを捉えるや、討滅の大翼シャルーアが動きを見せた。


雪花ゆっか君はここから、シャルーアとミハシラとの相対速度差異を予定値まで近づけるんだ! ウルスラ君は至急、アメノミハシラとの霊量子通信によるリンクを開始!」


「はい! 相対速度を既定値へ合わせます!」


「こちらも了解でやがります! アメノミハシラ・メイン・システムとのイスタール・クオンタム・リンク開始……繋がったでやがりますよ!」


「よし! なら姫乃ひめの君はすぐに、クロノ・サーフィング航行に必要なデータ座標をミハシラへ! 解析済みの施設状況からしても、一回は間違いなくサーフィング可能のはずだ!」


「出たとこ勝負感は、拭えないでありますね! けれど……了解、データ座標送信を開始するであります!」


 討滅の大翼シャルーアへ7日間の間に備えられた急造全体指揮システムを介し、覚醒の当主炎羅自らが魔界宙域に於ける総指揮を可能とする構え。そもそも三人のサポート含めた搭乗者を持つ霊装の機体は、調


 故に前線での戦闘の有無に関わらず、本部総指揮官に当たる当主を中心に、メインパイロットである討滅の妹嬢雪花を操舵、通信及び各種システム運用をポニテ姉ウルスラへ。そして火器管制含めたそれ以外の担当へ、自衛官嬢姫乃を据えた運用が成り立つのだ。


 そうした本部まるまるを運ぶ大翼は、高次元座標上でみるみる近付くアメノミハシラとの相対速度差異を最小へ。次元的に静止している様で、その実は高次元上でも地球の自転に合わせた一定速度による、衛星軌道上静止を実現している。そのため、ただ近付くのとは大きく異なる高次元跳躍サーフィングのためには、相対速度差異を縮める必要があるのだ。


「ストラズィール各機へ! クロノ・サーフィングに入る注意点を再度確認しておく! アメノミハシラ中心部を通る事でサーフィングに入るが、各機は必ず可能な限りの密集陣形を取るんだ!」

「現状のミハシラが有する霊量子エネルギー総量では、一度のサーフィング……それも限定された空間にいる物体しか跳躍できないと弾き出されている! そこで輪から外れてサーフィングをしくじれば、ここまで大挙したイレギュレーダの袋叩きにあうぞ!」


 次いで飛ぶ覚醒の当主の言葉は、高次元跳躍サーフィング失敗は文字通りの死を意味するもの。味方の支援も届かぬ敵のど真ん中へ放り出されれば、それは免れ得ない。彼の言葉の意味を察した子供達も、首肯と共に覚悟を決めた。


 押し寄せる異形の群れは、巨鳥施設アメノトリフネを目指しつつ、魔王討伐陣営をもすれ違いざまに攻撃していく。それを掻き分け、尻目にしながら前へと進む彼らは後ろ髪を引かれながらも家族を信ずる他なかった。


 そして――

 陣営を感知し三次元物理空間上へと姿を顕現させ始めた星の守りアメノミハシラは、データリンクも終え跳躍前段階である空間歪曲も同時に開始する。その歪む景色へと突入すれば、あとは影の惑星ニュクス宙域へと直行するのみ。


 暁背負う討滅の志士達に、躊躇する時間など存在していないのだ。


「魔王討伐陣営全機…… アメノミハシラの中央、時空歪曲部へ突入! これより我らは、ニュクスD666へと跳躍する! クロノ・サーフィング……開始!!」


 響く大号令が、討伐陣営全員へと届くか否か。三次元空間上へ完全な姿を現した星の守りアメノミハシラ中央が、一層の輝きを始めた時。大挙し押し寄せる異形を振り切った彼らは、時空高次元跳躍クロノ・サーフィングを敢行。



 そこより太陽系は遥か最遠での、最後の戦いが始まる事となる。

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