memory:125 ライジングサン
時は2020年代――
蒼き星は、異形の存在による脅威により震撼させられた。だがそれを迎え撃った者達……日本国が誇る三神守護宗家の組織する対魔討滅機関 アメノハバキリが辛くも、その脅威を抑えていた。
しかしそれも、不逞なる同胞の起こす事態により急変する。事件をキッカケに突如として守護宗家が管轄する宗家特区へ、魔蝿の王と名乗る存在が現れ――
地球に住まう、全ての人類へ向けた警告を発したのだ。
あらゆる情報網を通して、それは全世界の知る所となり、しかしそこで彼らは神々の如き戦いを目の当たりにする。それこそが、
ほどなく彼らが、
――
†††
「現在、元防衛長官の潜伏地域は把握。すでに政界から遠のいた彼ならば、警察組織で拿捕する事も容易でしょう。
『ええ、感謝の極み。こちらでも手配を掛けておりますが、我々守護宗家の
内閣府建物の一室。国家の対異形事変と銘打たれた一件に対し、遂に新たな国家組織が産声を上げていた。今まで影の立役者としてしか任をなせなかった三神守護宗家は、草薙当主が
それは言うに及ばず、かの魔蝿の王 ベルゼヴュードが滅亡を仄めかす言葉を世界に発したのが多大に影響していた。その尖兵となる異形の巨大機動兵装を、日本国より選び出された子供達が屠って見せた。そして彼らを育て上げた者こそが、他ならぬ
ソファーに座し、時は来たとあらゆるデータ端末閲覧を開始したのは、表立った国家防衛の要である防衛省長官
その時代、日本国は古く忌まわしき悪習でのさばる老害が、国家政府の内外と言わずあろうことかその代表まで結託して、長きに渡り国民を
「
「それを指導し支える側の大人が、こんな井の中の蛙で腐っている訳にはいかない。過去の歴史のあらゆる大罪は、先達たる我らがすべて引き受けて彼らには未来を託す。それこそが、人類の継承すべき大人の責任と言うものだ。」
三神守護宗家と
国家権力と言う刃の矛先を誤った不逞の輩を、義を以って断罪する武士道は確かに、彼の中に存在していたのだ。
†††
その日は慌ただしくも、決意新たな旅立ちとなった。言うに及ばず、これより太陽系は影の惑星と称されるニュクスD666への出発の時。すでに機関員すべてへ周知済みである、戦力分断の中での総力戦の始まりだったから。
『各員へ通達。これよりアメノトリフネは三神守護宗家指揮の元、国家防衛組織である海上自衛隊の力添えを糧とし、以後に訪れるイレギュレーダの大群掃討作戦を開始します。しかし今回、主力であるストラズィール隊は異形発生の中枢――』
『魔王 ベルゼヴュードが封印された、ニュクスD666への遠征となり……このトリフネにおける戦力は、施設対空兵装群に航空迎撃戦力と海上自衛隊戦力。そして、四機のヤクサイカヅチのみが要となります。』
そのアメノトリフネ内へ、全体通信として飛ぶは凛々しい
各種モニターへ、その声を受けて奮起する機関員の姿が移り、改めてオレのパートナーの秘めたる素養に感嘆を覚えてならなかった。
『すまねぇな、
「致し方ありませんよ、おやっさん。流石にそんな時間が取れるほど、猶予などなさそうでしたからね。けど――」
『ああ、地球側の機体は任せとけ。ワシがおっちんだとしても、最高の仕事をしてやるからな。安心して太陽系の果てとやらへ行ってきな。』
「おやっさんも……そういうセリフは冗談でも口になさらないで。必ずまた、お会いしましょう。」
出撃に際して急遽それが早められた経緯があり、その辺りは
それに辺り、最も考慮すべきはニュクスのおおよその公転軌道と、太陽の超重力が齎す時空歪曲の弊害。それらを踏まえた地球の位置関係から、7日が明けるか否かの早朝に出撃が決まったんだ。
故の慌ただしさ。しかしそれだけでは留まらない事態も、すでに軌道上の監視衛生映像で確認した所だった。
置かれた状況を思考に刻み、モニターへ映るストラズィール隊の子供達を見やり、作戦要項の最終確認に移って行く。想像だにしない流れからの、宇宙進出となる彼らへ向けて。
「アメノハバキリ主力陣営である、ストラズィール各パイロット達へ。これより我らは、太陽系の主惑星公転軌道としては最遠に近しい宙域……魔界勢力の本営であるセフィロト――」
「それを衛星軌道に据える影の惑星 ニュクスD666へ、恒星間・時空高次元跳躍を経て向かう事となる。これはその、最初のシークエンスを終えるための概要確認だ。」
実質の恒星間跳躍航行と言う現実は、今の子供達にしてみれば人生でも社会的にも文明的にもありえない経験だろう。しかし奇しくも、それを成さねば世界さえも終焉を迎えるとの絶望は、彼らへ相応の覚悟を宿らせる結果を導いていた。
「事前の作戦に従い、すでに地球宙域へ無数に発生を確認したイレギュレーダの包囲網を掻い潜るため、出撃後は魔界陣営と共にアメノミハシラへ向かう。そこから、超古代文献を解析して発動可能となった一度限りの時空跳躍、クロノ・サーフィングにてニュクスへと跳ぶ計画だ。」
トリフネ内が、イレギュレーダの群勢を察知してにわかに慌ただしくなる中で、それを起き去る様に太陽系の最果てへ出陣する子供達。家族を残して行く作戦にみなが不安を募らせるも、それはここで本陣を死守する者もまた同じ気持ちなんだ。
だからこそ、オレの言葉に異論を挟む事なく聞き入る彼らは、もう立派な大人と誇りたかった。
「それが片道切符など言語道断。オレ達は必ず、魔界にて復活するベルゼヴュード討伐を成し、この蒼き地球へと帰還する。さあ、今こそこのアメノハバキリが誇る子供達よ……出陣の時だっ!!」
「「「「「「はいっ!!」」」」」」
この後に及んで作戦変更などありえない。彼らもそんな甘えを見せる事などない。この地球は日本国より、
語るべきすべてを吐き出したオレは、出撃のタイミングまでただ静かに心を研ぎ澄ました。
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