memory:124 決意、波打ち際に集え

 叢雲の子供達へのサプライズ。もともと巨鳥施設アメノトリフネ内の数少ない娯楽として準備され、しかし連日の異形の魔生命デヴィル・イレギュレーダ襲撃でほこりを被りかけた施設。それらを子供達のためにと解禁しての今であった。


「どうだい?皆楽しんでいるかな。」


「あ、炎羅えんらさん! それはもう大盛況で!」


 そこへ遅ればせながら参じた、覚醒の当主炎羅を始めとした機関の大人達も一様の水着姿。だがそこはさすがに、大人の魅力を溢れさせる。


「なんだいなんだい〜〜ミヤミヤもあながち、その水着を楽しんで――痛ーーーいっ!?」


青雲せいうん……それ以上、許さんぞ?」


「おやなんだね。このSPの若造……――」


咬呂岐かむろぎ三佐はパワハラです。謹んで頂けますか。」


「こいつ、堅っ苦しいにぇ……(汗)。」


「まあまあ……ここは気楽に行きましょう。」


「そうそう、ここはチルく行こ〜〜。」


麻流あさるっち……(汗)。気楽じゃないのはのほうだにぇ。そしてハルたんはゆる過ぎだにぇ。ゆるいのはそのだけに――ぐえっ!?」


「誰がたるんでるって〜〜?悪いのはこの口ぃ〜〜?」


 軽く教員分家御矢子を弄ったやんわりチーフ青雲が、背後からの鋭い手刀でもんどり打ち、シスコンが爆発した社会派分家宰廉剛毅な女傑灯子が弄るやピンクハッカー朱吏々が呆れ返る。すでに馴染み過ぎたギャルママハルミとハッカーに至っては、年齢から来る何某なにがしネタでの口プロレスからの取っ組み合いが始まっていた。


 その光景は、あの子供達あってこの大人達ありと言わんばかりである。


「当主 炎羅えんら。お呼びに預かり光栄です。」


「ああ、工藤くどう二佐。あなたもこの機関に協力するに当たり、郷に入ればの精神でいてくれると皆も近寄り易い。特に麻流あさるとは、なかなか交流もできないだろうからしっかりと楽しんでくれ。」


「ええ、それはもう重々承知しております。そもそも我が海上自衛隊でも、過酷な試練を越えるためにはまず、共にある同僚との日常を何より重んじる様指導しております。かの旧帝国海軍の歴史に残らなかった英雄……我が祖先の魂に変えても、今は楽しませて頂きます。」


 その機関大人側一団へ、聡明な令嬢麻流に引き連れられて合流するは、海上自衛隊の女傑。居並ぶ二人して、抜群のプロポーションに加えたシックなカラーのビキニ姿は二柱の女神か。


 そんな女神の如き片われは、海自指揮官を務める工藤 望くどう のぞみ 二佐。彼女の口にした、英雄の子孫の下りを聞き及ぶ覚醒の当主もシナジーを感じつつ、子供達の輪へ交じる様促して海岸を目指した。


零善れいぜん伯豹はくひょう殿は、やはり参加しない方向かな?」


零善れいぜん殿は流石にガラではないと。伯豹はくひょう殿に至っては、すでに決戦までの日が無い事から、機関全員の兵站確保を優先させてほしいと。本当に頭の下がる思いです。」


「そうだな……。だが二人とも分かっているんだ……この戦いいかんで、世界の命運が決まってしまう事実を。いにしえより伝わる、、分からざるをえないんだ。」


「まさに……当主 炎羅えんらおっしゃる通りです。」


 視界に映る機関員のはしゃぎ様とは異なる思考で、当主と従者たるSPが居並び歩く。彼らはやはり、古来より国家守護を成して来た三神守護宗家の一員であった。社会派分家ならいざ知らず、覚醒の当主は今の今までそのくくりから除け者だった様なもの。されど、宇宙と重なりし者フォース・レイアーへと至った彼の言葉は何よりも重かった。


 ほどなく、様々な思惑はあれどかけがえのない時間のために機関員総出のナイトバカンスは宴もたけなわへ。その光景を目の当たりにするライバー知識神オモイカネも、監視カメラを通じ電脳媒体の中で全てを見守っていた。


『ふむ……かのイザナギノミコトとイザナミノミコトが生みし暁の大地は、辛うじてその希望を保っていた様じゃのぅ。いやはや、この電脳の海で得た人類の数多の所業から、もはや蒼き大地が進む未来は無限地獄さながらと思うておったが――』

『その中でもやはり、、絶望の中にあっても輝いておる。ならばワシも、その連綿たる命脈が絶たれる事だけは阻止せんとな……。』


 触手銀髪揺らすライバー神は、紛う事なき神代の知識で想いを吐露する。



 積み上げた歴史すら崩壊寸前となる蒼き大地に、力強く芽吹く希望を賛美しながら。



 †††



 アメノハバキリに属する表立った者達と、戦いの矢面に立つ子供達が波打ち際で人生を謳歌する。そこに交じる天楼の魔界セフィロトよりの協力者達も、気が付けば長年の同志の様な雰囲気でひとときを分かち合っていた。


「やめ……だから、私は泳げないとぉぉぉぉ――」


「いいから来なって! そもそもここなら足が付くし、溺れるほどの場所とかほぼないっポイんだし!」


「くくっ、観念するでやがります! 普段弄って来る分、返すでやがります!」


「おねーちゃん、それはだめですの! そーいうのはイジメですの!」


「むっ……それはいけないであります! ウルスラ……そこに直るであります!」


「すわっ!? こらひめリーナ……――」


「……おい、カオスじゃねぇかよコレ(汗)。」


「カオス……だね。って……大輝だいき君ガチ遠泳してる(汗)。あそこ、バラストタンク区画の壁、だよね??」


「遠泳、ってほどの距離でもないけどな。」


 叢雲の子供達は、全てのしがらみから逃れる様に心を開放させていた。穿つ少女音鳴貫きの少女沙織の定番となる陰キャ陽キャの押し問答から、そこに乗っかる雪原の双子オプチャリスカ姉妹自衛官嬢姫乃。ひとときを堪能するも、視界に映るカオスで嘆息と苦笑に包まれる見定める少年奨炎贖罪の拳士闘真。それすらもどこ吹く風と、いつの間にやら区画を所狭しと泳ぎ回り、心身鍛錬も同時に熟してしまうは逞しき修羅の剣士大輝


 そして――


「ど、どどどうだい?雪花ゆっか嬢。この波打ち際……もう少し奥へロズが運んで――」


「喝ーーっ!! この日和ぴよりのヒヨッコがぁ! お主このゆーちゃんを、もうちっと魔界の貴族らしくエスコートせんかぁぁ!」


「ああ、紫水しすい様の言う通りだ。、想いが伊達ではない所を見せてみろ。」


「き、貴様シザ! 言うに事欠いて……あ、ああ紫水しすい様違うのです! ロズにはあなた様をお慕いし、守護すると言う――なあっ!!?」


「ロズ君、手……繋ぎたかったの? いいよ、ほら!これぐらい全然お安い御用だよ!」


「「だ……台無しだ……(汗)。」」


 いささか風向きが違う光と魔の交流が、それはもう淡い桃色のそよ風となり海岸を突き抜けていた。打ち解けた妖艶な幼将紫水魔の貴公子シザ二人して、温和な魔太子ロズウェルの男気を試すつもりが、まさかの純真且つ天真爛漫が爆発した討滅の妹雪花嬢により、いい意味で空気ブレイクされて行く。


 ナイトバカンスは、想定された以上の効果を協力者全体へ行き渡らせた。そんな状況を満足げに見やる覚醒の当主炎羅は、少し離れたベンチシートへ腰掛け、海上からの明かりを取り込む大型天井窓を見上げて吐露していた。


「ここにいる者達は、ものの数日後には地球と太陽系の最果てと言う境界に引き裂かれる。けれどそれを、孤独の戦いなどと思う訳にはいかない。」


 視線ははるか、地球の夜空の先にある影の惑星ニュクスへ。されど心は、今そばにいる家族達に向けられていた。


「離れていても、オレ達家族は明日を招来するために再びこの地で再会する。すでにかの地で封印を破らんとする……偉大なる魔王を討伐した後に。」


 それでも――

 たった一つ脳裏へと刻まれた後悔が、彼の魂へ憂いを生んでいた。それは、自らを討てと宣言した彼の友人の事。魔蝿の王……紫雲しうんこと魔王 ヴェルゼヴュードの事である。


 語りあったのはほんの僅か。されど彼にそんな時間の短さなどは些末な事である。それは。そんな永劫の時の中で共に語り合えた瞬間は、炎羅にとっての奇跡でしかなかったのだから。


 見上げたまま双眸を閉じ、彼方に存在するであろう友を思う様に思考を宇宙と重ね合わす。するとすでに覚醒を得た当主へ、忘れえぬ親しき胎動が高次元の膜宇宙を介して伝わっていた。


「感じるよ、紫雲しうん……魔王 ベルゼヴュード。君はもう消えてしまうのかも知れない。ならばオレが、。だから――」

「君は安心して、オレ達に討たれるといい。君が深淵を引き付けるとは即ち、そう言う事なのだろ? だからオレは……オレ達は覚悟を持って、君と対峙しよう。かけがえのない、魔族の盟友よ……。」


 心へ、魂へその決意を行き渡らせて、静かに双眸見開く覚醒の当主は、名実ともに守護宗家の誇る対魔討滅の志士としての面構えを手に入れていた。


 決意を新たとするバカンスは更けて行く。残すその時間で、決戦に挑む総員の覚悟は鋭利に研ぎ澄まされた。



 やがて、決戦の地へ向かう日は、容赦なく彼らを煽り立てて来たのだ。

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