memory:122 見える未来、見えない未来
たった7日しかない、最終決戦へ向けた準備。むしろそこでイレギュレーダの襲撃がない事の方が末恐ろしかった。けど、
「あの
『お前……ガキンチョのくせに中々察しがいいにぇ。炎ちに聞いた感じだと、あの魔王っちはマジで人との交流を楽しんでたらしいにぇ。そんな中でもいつも影を背負う感じだったって、その当事者も言ってたから間違いないにぇ。』
「シュリリンさん……(汗)。魔王相手に――っちとか、どんだけ根性座ってんだよ。」
『でゃまれ! シュリリンたんの事はちゃんと、シュリリンたんと呼ぶにぇ! あと、さっさとフラガラッハの超広域指揮システムの改良を急ぐんだにぇ!』
『
『おまっ……!? このギャル博士は、一体どう略したらそんな名前になるんだよぅ!? 語呂の良さにはちょっとアレだけどな、てめぇのギャル語の矜持を疑うにぇ!』
『……あー若秀よ。さっさと調整を進めてよいぞ? こんなのを相手にしてたら、いつまで経っても終わらぬゆえのぅ。』
そんな事を漏らしたら、まさかの
なんで俺の機体モニターから、C・Tuberみたいなのが二人揃って語りかけて来てんのか訳が分からないな。人間と神様が、とかどんな仰天コラボだよ。そこにギャルみたいなママさんが交じったら、これもうカオスだぜ。
7日間二日目の朝の事。授業のない俺含めたメンツで、各ストラズィール調整を進める中。なかなか気が滅入る事態に翻弄された。でもちゃんと理解してる。そこにいる
『賑やかだね、そっちは。あ、ボクはこのままロズ君との実戦式トレーニングに移るよ。シザ君も準備ができたら君と一戦したいって。』
「ロズも本気だな。それにシザ……か。なんかあいつ、いつぞや俺が一本取った事根に持ってんのかな?」
『ははっ、それは本人に聞けばいいんじゃないかな。では……ミョルニル、イグニッション!』
希望を乗せつつ、未だ俺の聴覚に響く問答に嘆息しながら実戦訓練に出る友人を見やる。最初の抜け殻みたいだった姿など、微塵も感じさせない出撃のコール。その時俺は、思考へほんの僅かに生まれた思いを過ぎらせていたんだ。
「世の中には変わらず、あんなに辛い人生で全てを狂わされたやつが大勢いる。けど……事と次第によっちゃ、それに手を出したとて救えるものなんて限られてるんだよな。それでも――」
「あの
明確に目標があった訳じゃない。ただ自分が持って生まれ、今まで自身の人生を狂わせて来た対人知性の能力を活かすには、それが一番いいんじゃないかと考え始めていた。そんな俺の思考を読み取ったのか、きっと事をあらかた聞き及んでいそうな宗家関係者な面々が、顔を見合わせて微笑に揺れていたとも知らない俺は、そのまま調整を終わらせシザとの実戦訓練へと移って行く。
次第に大きくなる、国民を悪辣から守り救う法の守護者への道を歩む未来を想像しながら。
†††
数度に渡り、太平洋の目まぐるしく変わる天候の中で、ボクとロズ君は機神同士で打ち合った。彼が見せる、守りからの一撃必殺を体現する魔族流の戦い方を学び取るため。そして彼は、地球の文化が生み出した競技を超える極限の境地、殺人との紙一重で命を活かす事の叶う格闘技の本質を学ぶために。
『
「分かったよ、ロズ君! この
『それだ……それをさらに磨き上げるんだ! だがその飛翔拳……ろけっとぱんちなる技も、磨き上げれば乾坤一擲の一撃になり得る! ロズもその鍛錬に力を貸そう!』
格闘主体の機体であるミョルニルは、ゲイヴォルグを始めとした砲撃戦機体ほどの、中遠距離で有利となる武器はない。けれどそれを補って余りある、超近接での一撃必倒の打撃こそがミョルニルの本懐。しかしそれも、すでに聞き及ぶヴェルゼビュード本体が持つ超高域に渡り敵を穿つ事の叶うという、常軌を逸した攻撃を前にしたなら届く事さえ叶わないと彼は言う。
だからこそ、ラルジュ・デモンズの持つ重火線砲に追加して来た多数の砲撃武装を全力砲撃の上、極めて難度の高い訓練を所望しての今だった。
『
「上等さ、ナルナル! ボクも、普通の戦い方で彼らを相手にできるとは考えていない! ロズ君があの
対砲撃戦闘で、ゲーム知識無双するナルナルの応援を受け機体調整を熟して行く。ルミナーティル・マギウスの協力は何も技術協力だけに留まらない……ボク達地球の人類が未だ知らぬ、魔族と言う闇の種が一体なんであるかを伝達する――
それこそが、彼らの協力と言う形に他ならないのだから。
「けっ……あの坊主、なかなか伸びがいいじゃねぇか。」
「ああ、見どころがあんねぇ。まあ怪我しない程度に、気張って欲しいもんさ。何かありゃ、アタイが出張って面倒見るも
格納庫でナルナルと一緒に訓練を見守る機関の方々。新しく合流した
詰まる所、双方で極めて危険な戦いが迫っている現実そのものだったんだ。
迫る決戦に向け、魔族と称される同胞と拳を交えるうちに、知らずに自分の中で大きく動くものがあった。今までは父さんからのDMに耐えるのが精一杯で、欠片も格闘技を楽しいと思った事はなかったボク。けれど今や、そんな過去を置き去りにする様なライバルとも言える存在が、ボクの成長に感化されるままに挑んで来ている。
彼……ロズ君も、自分の身内を討たねばならない現実の中で藻掻き苦しんでいるのが、攻撃を受ける度に嫌と言うほど伝わってる。でも同時に、ボクと出会えた事を喜ぶ様に口角を上げた、魔族同胞の姿がモニターを占拠してるんだ。
そう、ボク達は共に強き相手との研鑽を望んでいる同志だったんだ。
『そのままろけっとぱんちを自在に操れ、
咆哮と共に砲撃を敢行するラルジュ・デモンズ。絶妙に急所を狙い撃つ二条のエネルギー砲火を交わしつつ、こちらもミョルニルへと魂を注ぎ込む。彼の言う機動兵装と言う武力を、正しき義の元に振るうために。
「彼の言葉をボクの魂へ刻み込む! ミョルニル……君は穿つ武力であるからこそ、悪しきに堕ちるは許されない! だから共にあろう……その拳へ力なき弱者を守るための想いを宿して!!」
いつしか魂が、見えない遥か未来の先にいる自分を想像して叫んでいた。生きてこの星へ再び帰り着いたその先で――
過ぎたる武力を制するための、正義を貫く人生を心に描いて。
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