memory:121 命の7日間、始まる

 その日は一週間後の戦いに向けた最初の時。そこでかけられるのは、7日間へ戦いを忘れて日々を満喫する時間を組み込めとの指示。もちろん私達が、本来学生である事を考慮した勉学も含めたもの。確かにその点では、皆が一様にガックリ肩を……まあ族さんはアルバイト漬けで勉強できなかった過去もあって、ゆーちゃんと二人で勉強にはウッキウキらしいんですが。


『ああ……桃井ももいリコ様の配信が……。ちょうど今は〈おはリコ〉配信も終盤の、今日のリコリコニュースがライブ配信されてるあたりだ……。』


「つか、本人同じ場所にいるんだから一緒だろ。まあ基本、知られてねぇ機関員に身バレしない制限あるらしいけど。」


「はいそこ。授業はまだ終わってないわよ? 時間の規定がないとは言え、生徒対談はしっかり行う。いいわね?」


怒られたじゃねぇか(汗)。」


『何で私のせいなんですか!』


「うっせーぞお前ら。俺はこんな形の授業受けた事ねぇんだから、しっかり教えろや。」


「『なぜに族の方が、ガチ授業態勢……(汗)。』」


 そんな授業は、午前と午後で三人づつに別れた対談形式。限られた時間で最大限の効果を得るため、学生の本文な授業とストラズィールでの戦闘訓練に加え、それらの間に挟まれる生活時間を謳歌するスケジュール。宇宙は影の惑星ニュクスとやらへ出向くまでに、そのローテーションを守っての日々です。


 だから肩を落とすも、もどこか充実した生活を送れていると感じるのは気のせいではないはずです。


「ああそれから、この7日間の食事に関してですが。皆さんの栄養管理をしっかり行ってもらうため、伯豹はくひょう殿が中心となって作る精進料理を食べてもらいます。まあ、だからと言って美味しくないとかは、あのならぬに限ってありえないので――」


「メシうま!! マジっすかミヤミヤ先生!」


『それは楽しみですね。流石の私も、このリモート授業から抜け出る口実になりますよ。』


「ミヤミヤではありません。それに音鳴ななるさんはそもそも、その機体に乗ったままのリモート授業から脱して下さい。」


『ちっ……。』


「今、舌打ちしましたね(汗)。」


 と、授業に関するあれやこれやが思考に過ってた頃に、あの超絶絶品料理支給が決まるや歓喜する私に奨炎しょうえん君。族さんもまんざらではない感じで、皆して一瞬授業の事が頭から消し飛びそうになりましたが、早くこれを終わらせて昼飯のために食堂全力疾走するため一致団結する事にしましょう。


「それもこの飯が終わってからだろ。んじゃさっさと、授業終わらせんぜ。と、どこまでだったか? この……の議題だったな。」


「……おい、族がとか言ってんぞ……(汗)。」


『聞き間違いではないですかね……(汗)。』


 まあ直後族さんから提示された、選挙権とか言う社会科の議題には流石に、びっくり仰天で目を剥いてしまいましたが――


 すでに準備が始まっているであろうウメウメな極上昼食のため、その時間は頑張るもやぶさかではありませんでした。そしてその時は全く、自分で気が付いていなかった真実。すでに私は、例えリモートの形であれ社会と言う世界へ自ら関わる様に、変わり始めていたのです。


 それに気付けたのは、過酷を極めるイレギュレーダとの戦いが終わってからの事ですが、その時はまだ想像だにしていなかった。



 自分の未来の先に、族さんの口にした物を足を踏み入れる事になろうとは――



 †††



 異形の生命との戦い。その佳境となる中、その中心に名乗りを上げてしまった魔王様と対峙するため、あたし達は指定された7日間を満喫する様に楽しみます。必ず心から楽しめとの注釈を実行する様に、定期となる対談式授業にストラズィールの操縦訓練と、その間に挟まれるプライベートを全力で謳歌していました。


「……っはぁ! ちょっと限界! やっぱ高機動を持続しながらの複数攻撃パターンを熟すとか、めっちゃシンドイっぽい……!」


『けれど随分、良くなって来たんじゃないかな。あとはそのまま、周囲の敵の攻撃も考慮した攻撃手段を確立できればいいと思うよ。』


「か、格闘家の意見はとっても参考になるっポイけど……体力が追いつかないって!」


『沙織おねーちゃん、ファイトだよ! ゆーちゃんの方でも、サポートできる様にするから!』


『あー……それは、ほどほどにしとくでやがりますよ。補助輪つけたままじゃ、いつまで経っても自転車を上手くは運転できないでやがります。』


『おねーちゃん……ストラズィールと自転車は全く違いますの(汗)。』


『ふむ……言い得て妙でありますね。』


「『『納得するのか……(汗)。』』」


 対談式授業後、そのままストラズィールの操縦訓練ルーティンへ移るあたしは、闘真とうま君を相手にシュミレートで特訓。青雲せいうんさん見守りの中ゆーちゃん、ウルスラさん、アオイさん、姫乃ひめのさんのサポートの元熟していました。何故かって、やっぱり自分がパイロットの中では一番下っ端で、それこそホントに勢いだけで戦ってた様なものだから。


 ナルナルみたいに、趣味嗜好がそのまま実戦で実を結ぶなんて事はないからこその特訓でした。


『実戦の沙織さおりちゃんは、奨炎しょうえん君の指示待ちで動いてた感があるからね〜〜。けど持ち前の直感を活かすなら、自分で考えて戦術を変化させる事で戦い方の幅が大きく広がるよ〜〜。』


『ボクも青雲せいうんさんに同意だ。それにボク自身だって他人事じゃないしね。競技系格闘家は、本来師範クラスまでの技術と経験を会得して初めて、実戦で役立つかどうか――』

『ボクがいる場所は、所詮子供の競技レベルで得点を稼ぐ程度にすぎないんだ。そんな拳に数え切れないほどの命を背負ったなら、とてもじゃないけど経験者を名乗るなんて烏滸おこがましい所さ。』


 シミュレーターの通信越しで語る闘真とうま君の言いたい事は、昔ならチンプンカンプンだけど今なら分かる。自分以外は何かしらの経験が確かにある。あるけれど、それが命を懸けた戦いではほとんど役に立たない現実を実感してしまったから。だから私自身の特訓と同時に、同じ家族である闘真君の力にもなれたらなとの思いで、訓練へ付き合わせた形なのです。


「そうか……闘真とうま君だって特訓にならないと困るもんね。ならあたしも、もう一踏ん張り……次の戦術パターンでの強襲、お願い!」


『うん、受けて立つよ!』


 間違いなく一番パイロットとしては未熟なあたし。けれど、こんなに自身を必要とされた事なんてないあたしは、行動の一つ一つが誰かのためになる事が嬉しくてたまりませんでした。そしてその延長上に、誰かへあたしの様な寂しい思いをさせたくない……それこそ自身が選ぶ寸前だった自傷と言う事態に陥る誰かの助けになりたいと、朧げながら思考に生まれたのを、今でもはっきり覚えています。


 それが少し未来の自分の人生を、大きく変えてしまうとは予想だにしなかったあたし。まだ先の事――


『違うでやがります! 突撃には緩急をつけるでやがりますよ!』


「……っ!? こうかな!」


『立ち回りにはフェイントを混ぜるですの! けどあからさまではなく、相手が反応するか否かを見極め動くのがオススメですの!』


「む、難しい!? こうかな!!」


『そこで突っ込んではだめだね〜〜。今のはふところがガラ空きだよ〜〜。下手すれば機体諸共、貫かれてたね〜〜。』


『次の敵は魔軍の将な上、自分達人類などより遥かに多くの戦いを経験してると刻むであります! 付け焼き刃は命取り……ならば、磨き上げるであります!』


「よし、がんばって……って、誰がサオリーナじゃい!? ――うわきゃっ!?」


『よそ見……(汗)。仕方ない、もう一度最初からだね。』


 などと、遥か先の事を考えるにはまだ、自分自身も未熟極まってた訳で。



 だからこそ、今やるべきを見据えてその日も訓練に明け暮れたんです。

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