memory:120 苦難乗り越えし絆
一同へとてつもない重さの試練概要を放って後。オレはそんなここまでの道程を支えてくれたパートナーと、二人でミーティングルームへと居残った。どちらからでもなく、ただその空気を感じたかった。
「この日本国内でのあらゆる事態にも対応の必要な中、まさか宇宙へ飛び出て戦いに望むとは予想だにしなかったな。けど……ここまで来れたのは君のお陰だ。感謝してるよ、
「今さらですよ?
これから挑むは、地球と人類の命運懸けた戦い。そんな中でも、彼女がそばにいるだけでどれほど心強い事か。けど……一週間後オレ達は、百天文単位も離れた場所で命がけの作戦を熟さなければならない。どちらを助ける事もできず、どちらの敗北も人類滅亡の引き金となる――
あまりにも重い命運が、オレ達の肩へと伸し掛かっていた。
言葉を交わすや沈黙が支配する。宙空モニターの作戦概要を見やりながら、けれどその沈黙すらも愛おしく思える瞬間。ふと、オレが座すベンチシートに麻流が寄り添う様に腰を下ろした。
「守護宗家の仕来りに於いて、私は本来当主の座を戴く筆頭にいなければならず……けれど今だ根付く男尊女卑の精神から、私に対する不満の矛先が御家中から向けられていた頃。あなたは、私の前へと現れた。」
香る艷やかな黒髪越し。大人の女性らしいたおやかさを湛えた彼女は、思考に長く受けて来た御家からの仕打ちを浮かべて思いを吐露した。我が
結果、全くの畑違いから足を踏み入れたオレへ反感を抱く宗家お歴々による、数々の陰惨な仕打ちが降り注ぐ事に繋がった。
「それによって、私はどれほど心が救われた事か。父もそれを任せられるのが、あなたしかいないと太鼓判を押し……しかしそこからあなたは、御家中から向けられた酷い仕打ちの中で、当主のお役を賜る事になった。けど――」
愛しきパートナーへ視線を移し、彼女の声に耳を傾けていると、そこまでを口にした大和撫子はこちらへ顔を向けていた。
「今、このアメノトリフネへ集う皆を見て思います。私達の今までは無駄ではなかったと。父の死さえも……この未来へ……繋がっていたのだと。」
いつしか亡き父の事を口にした彼女の
だから――
そんな想いの全てを受け入れる様に、艷やかな黒髪ごと彼女を抱き寄せる。背負って来た重すぎる定めが、少しでも和らぐ様にと。
「ここに集う仲間達は、もはやオレ達にとっての掛け替えのない家族だ。そしてその先頭に立つ子供達も当然……だからこそあのアリスが、オレ達に地球の命運を託したんだと思っている。それは君が叢剣殿……いや――」
「君と我が父である叢剣が、今まで築いて来た守護宗家の魂に他ならない。悪鬼討滅の伝統を未来へと残すため……何より、力無き者達の剣に盾となるために。」
遠き宇宙での戦いを目前に控えたオレは、決して彼女から離れないと誓いの言葉を口にする。オレがニュクスD666での大戦で前線指揮を取る間、彼女はこの地球へ残り、同時に溢れ出ると予想されるイレギュレーダの大群討滅の指揮を取る。
だからこそ、いくら離れていようとそばにいると言葉をかけたかった。
「
静寂の中、未だ湛える彼女の涙が乾くまでオレは、ただ優しくその身を抱き寄せていた。
†††
ミーティングを終え深夜も二時を回る頃。あまりにも重い定めを聞き及んだ
機関員誰もがもっと安めと
「なんじゃ? 光の人種はこの時間、休息を取らねば立ち行かぬぞ?全く。
「か、かかかかっくいいっ!
「あー久々だな、ナルナルのこのテンションは(汗)。この時間帯でこのアガリ様……どっかネジでも外れたんじゃね?」
「まぁまぁ……。彼女なりに、気落ちしない雰囲気を作ろうとしてるんじゃないかな。今はあのテンションに乗っかるのも悪くないよ。」
異常なテンションの端々へ、無理に取り繕う気配が見え隠れする
「変わらずである事を、一応は称賛させてもらおう。むしろそのテンションで対応されたら、我ら魔軍も変に気落ちできないからな。」
「ふふっ……シザが素直なのは本当に珍しいね。けど――うん、そうだね。ロズ達はこれから共に戦線へと向かう同志。いつまでも下を向いてはいられない。」
これより訪れる苦難を前に、変わらぬ
「
「うむ! ゆーちゃんとの出会いも楽しみじゃったわ! ほれ、ロズ……お主も言う事があるじゃろう。」
「ふぁっ!? ししし、
「はは〜〜ん、読めたっポイ。てか、今だからじゃない?ロズ君。
「おい、魔族の。
「き、君達まで!? ……はぁ……負けましたよ
「うん! ロズ君、よろしく!」
「日和よってからに……(汗)。まあ及第点かのぅ。」
そんな空気であれ、
一週間の後に迫る人類存亡を懸けた戦いまで、ささやかな日常を過ごすために魔軍は訪れた。光と魔の交流が、その戦いへ勝利を導くと信じて。
そこまでのやり取りを遠目で見やった
『なるほど、魔軍との共闘じゃの。あらかたは察したが……まさかこの様な世代で、古の大戦の再来を目撃するとは思わなんだわ。』
「やはりオモイカネが経験した神代の歴史にも、光と魔の共闘と言う流れが訪れたと?」
『いかにもじゃ。ま、お主らが体験している規模など比べるまでもない、宇宙を懸けた戦いにおいてじゃがな。しかしそれでも、命を守護する戦いに大小など関係はない。それは心得ておくが良い。』
眼前に映るは現代で流行する
『ふむふむ……魔軍の現状も含めて、こんなところか。すまぬの、主よ。この低次元へ顕現するまでの、かなり古い知見しか有しておらんかったからな。じゃが――』
『これよりの戦いでは、現代に合わせた古代超技術運用を約束して見せようぞ。
「ああ、助かるよ。っと……今更だが、天津神様を相手にこの口調は不謹慎か?」
『案ずるな。代々守護宗家の当主へと宿る神々は、そこへ同等か、主従でも従者として従う定めを追う。それはあくまで力を用いるのが人類であるとの、言わば強大な力を行使する上での枷を意味しておる。』
「そうか……力を用いるオレ達人類が、その責務を忘却しないため――と言った所か。理解した。」
そして当主と、彼へ力添えを行う
そこより一週間、機関で苦楽を共にする者達が、生命を実感するためのささやかな日常を迎える事となる。
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