決戦!ヴェルゼヴュードとパンデモニウム!

memory:118 それぞれの備え

 人生でも初めての覚醒能力発動は、思いのほかオレの身体へ負荷をかけていた。そんな思考を宿せるまで意識が回復したのは、あの戦いから一日ほどがたった頃だった。当然その間にも、事が静かに運んでいたのは分かっていた。


 そんな時間経過を病み上がりの起き抜けへと伝えてくれたのは、今まで雑務に奔走してくれていた頼れるSPだ。


「……っ。ここは……医務室、か。」


「……!? ふぅ……お気づきになられましたか、当主 炎羅えんら。どこか体調の不備はございませんか?」


宰廉ざいれん、気苦労ばかりですまないな。それは問題なさそうなんだが、起きぬけで現状が把握できない。説明を頼めるか?」


「かしこまりました。」


 ベット上、真っ白い天井から視線を移すとそこにいた彼。オレの微睡みからの覚醒へ反応した綾薙 宰廉あやなぎ ざいれんと言う男は、この身が無事である事へ、大人気なくも安堵を乗せた息を吐きつつも、努めて平静を装う様に言葉を続ける。が、その様相からしても、彼へ多大な心労を与えてしまったのは言うまでもない。


 そこに麻流あさるがいない事でも分かるのだが、こんな状況でも彼女は本来であれば頂くはずである、草薙家当主としての才覚の元に機関をまとめているのだろうと推察する。


 本当にオレの周りにいる有力者達には頭も上がらないな。


 ふと、宰廉ざいれんへ説明を求めたついでに、彼の傍らに見慣れた影が座しているのを確認するや、こちらにもご足労願ってしまったと言葉を漏らしてしまう。


「久方ぶりの顔を見たと思えば……そうか。麻流あさる合流したみたいだな。歓迎するよ、――」


「それ、ここで名乗りを上げないといけない流れかい? ったく……あんたの身内に絡むと、アタイもおちおち自衛隊出向特別顧問なんてやってられないさね。」


咬呂岐かむろぎ特務三佐、口を謹んで下さい。総本家である炎羅えんら様には、相応の対応で――」


「若造は黙っておいで。。あんた如き若輩が、口答えできると思わんこったね。」


 回転座イスに、足を組んで腰掛ける堂々たる姿。けれど眼差しの奥には、SP若輩さえも言いくるめる先達らしき貫禄出す女傑。宗家から自衛隊へ出向し、海上自衛隊の衛生科特別顧問として在籍中な彼女は、草薙家第二分家の咬呂岐かむろぎ家当主。未だ現役を張る、老齢なる女傑の灯子とうこ婆さまだ。


 彼女の口にした通り、オレの義父ちちである叢剣そうけん殿を看取ったのは事実であり、言わば義父の時代から草薙家に尽くしたお歴々の一人でもある。


「っと……やだねぇ、よけいなお小言が口をついちまった。宰廉ざいれん炎羅えんらがあんたに聞きたい事……アタイもそこんところをよく知らないから、ついでにこっちにも情報提供しておくれ。」


 老齢とは言えど、彼女はあの義父ちちと互角に渡り合えたほどの宗家が誇る実力者。それは体躯からみなぎる若々しさにも反映され、年齢を思わせない健康美をあわせ持つ美魔女でもある。それが、こんな宗家のお歴々も煙たがる組織に足を運ぶ理由は一つだった。


灯子とうこ婆さま、遂にには?」


「ケケッ! 察しがいいねぇ……流石は叢剣そうけんの認めた男だよ。あんなクソ老害共の、身勝手の餌食は御免被る。アタイが自衛隊に出向して目が届かないからと、総本家ではあれこれ好き勝手やってるみたいじゃないか。これじゃ宗家が腐ってるとそしられても無理はないさね。て、訳で――」

「愛想の尽きた奴らとは、早々に縁を切る。、アタイもやりがいがあるってもんだからねぇ。ケッケッケ!!」


 カラカラと笑う姿が元気を貰えると、評判のそれが炸裂する。対する宰廉ざいれんは、様々な感情で複雑な顔をしているが、おおむね彼女を認めてはいるのだろう。そこよりオレは、現状把握に努めて回復を待ち――



 この身を案じて止まない、子供達の元へ出向く事とした。



 †††



 勾玉の当主伯豹が用意した渾身の懐石料理を食した叢雲そううんの子供達。いつもであれば、その腹ごなしとすでに慣れた機関内での居心地の良い生活を満喫するはずである。が、食事の際耳にした今後を想像する彼らは、流石にいつも通りとはいかなかった。


 自発的に集まる男子陣営は誰からともなく暴君分家零善の元へと足を運び、鍛錬を付けて欲しいと懇願。女子陣営も集まれば艶やかにして賑やかしい会話の華が咲くはずの場で、神妙な面持ちと共に無数のモニター画面へ食い入る様に没頭していた。


 映し出されるは言うまでもなく、彼らが今まで熟した霊装機神ストラズィールの戦闘データに映像データが齎す解析結果である。


「ここ……。音鳴ななるさんはもう少し、シャルーア上での構えを安定させれば、狙撃時の命中率が向上するであります。」


「ふむふむ……現役自衛官さんの助言はとても役に立ちますね。」


「お褒めに預かり光栄であります。次……沙織さおりさんの突撃の勢いは非常に良いのですが、これからはそこへ緩急などの変化を加えないと痛い目を見る恐れがあります。」


「うっ……そうなんだ。あたしそもそも戦うとかが初めての中で、ここまでやってきたかんね。なかなかそういうのが理解できない所があるっぽい。」


「いやむしろ、経験も何もない所からここまでの戦いをこなせる様になった点が驚きでやがりますから。ナルナルの場合は、。」


「……やんのか、このめ。」


「褒めるかケンカを売るか、どちらかにするでやがりますよあんたは(汗)。」


「あっ……ここは、ゆーちゃんがもっとホバリングを安定させるべきだったよね?アオイおねーちゃん。」


「ああ、アオイおねーちゃん……良い響きですの。ご、ゴホン!失礼でしましたの。そうですの……シャルーアの超技術から来る本体性能は、地球の大気などものともしないですが、それ以外の攻撃は確実に大気圏内特有の影響下にあるのを忘れないでほしいですの。」

「地球の大気って、本来人類が想像もつかないほどにあらゆる物へ影響を及ぼしているのを、考慮して戦う必要があるですの。これがとなれば話は別……あ――」


 男性陣に負けじと、足りぬ機動兵装技術を知識共有により高め合う少女達。が、その会話へ思わず入れ込んだ大気圏外との言葉で、一同が意識してか黙してしまう。言うに及ばず、それはすでに説明を受けた少年少女初の地球外進出が、常軌を逸した人類存亡を懸けた戦いである事実を起因としていた。


 自分達にしかできない事をと意気込む裏で、知らず知らずにがむしゃらの影へ未知の経験に対する恐怖を隠し、目を背ける形になっていたのだ。


 そこへ――


「あんた達マジ暗いしぃ〜〜? ウルスラもアオイも、そんな根性なしに育てた覚えはない感じぃ〜〜。ほらほら、ちょっとそれ、見せちぃ。」


「ど、どこから現れたでやがりますか、このJKは!? てか狭い……狭いでやがります!」


「押さないでほしいですのママ! この椅子に三人は座れないですの!」


「……ってか、暗いって言ってるでしょ。いつもの元気はどうした? このハルミ・浜路はまじ・オプチャリスカの娘達は、元気こそが取り柄って分かってる?」


 モニター前。二人で座すがやっとのベンチシートに腰掛け、難しい顔をする双子へ割り込む様に、すでに機関での協力陣営でも幅を効かせる古代技術研究学者……いわJK。突然の闖入ちんにゅうに恥ずかしげな態度で追い払おうとする淡き双子であったが、母親の売って変わる表情で心を落ち着かせる事となる。


「ねぇ……ウルスラはこの子達と一緒に宇宙へ上るんでしょ? その宇宙で、オプチャリスカの名を轟かせてくれるんだよね?」


「……轟くも何も、相手は異形の生命体でやがります。それ以前に、ウルスラは――イタッ!?」


「メッチ! あんたがどう言おうと、ウルスラもアオイもこんなすごい場所で活躍する……。だから変な意地張んなし。」


「……やめるでやがります。皆がいるのに、その……恥ずかしいでやがりますよ。でも……ありがと、ママ。」


 恥じらいながら自虐するポニテ姉ウルスラへ、ママ博士ハルミ渾身のメッチデコピンが炸裂する。その姿は紛う事なく母親であった。

 母親だからこそ、彼女達が地球の命運背負って戦う事を誇りに想い、けれどそれこそを案じて二人を両の手で抱き寄せる。その姿は機神を駆る少女達にも余すことなく伝わって行く。彼女らは緊急性の高い事態を鑑み、心が入れ替わるのを感じた親しい者との交流も後回しで、機関での待機に務める状況。


 だからこそ、本当の親心と愛情に包まれる双子の姿を我が事の様に喜んでいた。


 暫しの親子の包容の後、すっくと席を離れるママ博士が元の雰囲気へと立ち代わり、伝言として訪れた旨を口にする。そしてそこからが、叢雲そううんの子供達にとっての貴重な時間の始まりとなったのだ。


「さあ、ひとまずパイロットレクチャーは置いとけぇ〜〜。もうすぐ、えと……なんだっけ? マゾクさん?とやらさんが、このアメノトリフネに到着するらしいよん。つか、マゾクってガチィ?」


「ああもう……JKネタが新しいんだか古いんだか。分かったでやがりますよ。皆、行きやがるです。」



 コロコロと変わるママ博士の態度に苦笑を漏らす少女達は、男子陣と合流するや宇宙勢力受け入れえと向かうのだった。

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