memory:116 異形討滅、そして明かされる事実

 それをあらゆる情報媒体で目の当たりにした、世界の人々は歓喜する。地球へ未曾有の危機を起こさんとする異形の巨人を、日の本の国家より選ばれた子供達と神代の機神が討ち滅ぼしたのだ。


 それまで当たり前であった伝承の末路を兎も角としつつ、彼らは救われた今をただ喜びあう。が――



 それはあくまで、もっとも恐るべき事態の序章でしかなかったのだ。



 †††



 崩れ落ちた異形に合わせ、巨鳥施設アメノトリフネを襲撃していた異形の尖兵が突如として力を失い、瞬く間に討滅されてほどなく。施設防御のため合流した海上自衛隊が、施設代表者達との謁見の中にあった。


「あちらも、何とか切り抜けた様でなにより。全く……あなた方御家の難事の規模と来たら。けど、私もこれから支援に当たります。よろしく……。」


「本当に助かりました、のぞみさん。やはり持つべきものは友……と言った所ですね。」


「……って、にぇーさん(汗)。まさか……侮れにぇーなぁ。まあ、あれだけの数相手取るには、防衛戦闘機群じゃ割に合わなくなってた所。素直に感謝しかないにぇ。」


「学友……そうですね。のぞみは宗家専属大学に入る前から……それも小中高が一貫の、宗家特区学園以来の幼なじみですので、あながちそれも間違いではないかと。」


「そういうのを腐れ縁って言うんだにぇ。」


 明かされる事実は、なんと海上自衛隊の宗家擁護派を率いた女性艦隊指令が、聡明な令嬢麻流との幼なじみである事。傍目からしても、二人の親しさは会話の端々から感じ取れた。


 そんな二人の再開を他所に、ピンクハッカー朱吏々は施設の損耗率とこれより合流する海上自衛隊艦隊を踏まえた総合戦力把握に取り掛かる。艦隊防衛が間に合った事で、逆賊 烙鳳らくほうが要因となって引き起こされた被害も最少で抑える事に成功。さらには彼らが所有していた、戦略原潜含めた武力も取り込む様に舵を切る。


「二人の再開喜ばしい所悪いけど、あとがつかえてるから単刀直入で進言するにぇ。あのが所有していた原潜……奴らの懐に潜入してた自衛官もまとめて、このアメノハバキリ戦力に加えたいにぇ。」

「敵さんの数がもはや尋常ではなく、執拗にこの施設ばかり狙われる以上、ストラズィール以外の現状戦力が完全に不足してんにぇ。も、それで構わないにぇ?」


「のん、たん……(汗)。麻流あさるさんからもそんな呼ばれ方した事ないですが……構いません。もとより烙鳳下で探りを入れていた篠井しのい二佐も、その考えで動いているはずです。彼も潜入捜査とは言え、守るべき民を裏切る様な逆賊を演じた手前。それを白紙に戻すためと、さぞ奮起してくれる事でしょう。」


「ならば宗家擁護派へは、機関から正式に依頼を送らねば。そのまま、施設被害確認と修復作業開始を指示後ミーティングルームへ。」


「……麻流あさるにぇーさん、このタイミングでその呼び方しなくても(汗)。のんたんが引いてんで。あいよりょーかい、準備に移るにぇ。」


 防衛戦は確かに辛くも勝利を得た形である。しかし戦いに参加した誰も、その勝利に浸る余韻など存在してはいなかった。すでに訪れるであろう恐るべき事態の予兆は、間違いなくその巨鳥施設アメノトリフネへも届いていたから。


 そこより施設の大規模修繕と、自衛隊艦隊再編成に加えた対魔武装改修のための突貫工事が開始される事となる。一方その頃、作戦本懐とも言えるマッド・デーモン討伐を成した覚醒の当主炎羅叢雲そううんの子供達は――



 戦い直後に訪れた、とある一悶着で肝を冷やす事となっていた。



 †††



 今までにない、恐るべき異形の巨人を討滅した子供達。しかし直後、その勝利の余韻すらも一瞬吹き飛ぶ事態で、みなが青ざめると言う場面が訪れていた。


『今回はマジでやばかったぜ……。けど炎羅えんらさんがかくせー?とかした後のバフが凄かった。』


『そうですね。あんなロボットモノでも、スケールでかい系スーパー展開で私達が強くなれるとか……興奮冷めやらぬ、ですよ私的に。』


「ほんとすごかったね〜〜。やばい、あたしまだ手が震えてる。ねえ炎羅えんらさん、特区の人達はだいたい避難させられたんだよね。なら私達は、急いでトリフネに戻った方が――え……炎羅えんらさんっ!?」


 子供達が戦いを終え、安堵の中もそれが終わりではない今を予想し、すぐに巨鳥施設アメノトリフネへの帰還を口にする成長ぶりは見紛うばかり。だがその視線の先……モニターへ映り込んだ覚醒の当主炎羅の異変を。最初に貫きの少女沙織が目撃する事となる。


『……あ、ああ……そうだ、な。沙織、君の……言うとおり――』


 貫きの少女の視線に映るは、酷く消耗し、大量の脂汗に塗れた覚醒の当主の姿。すでに覚醒の証である、金色光と額の紋様は失われており、そこから糸の切れた人形の様に崩れ落ちたのだ。


 同じくその状況に気付く社会派分家宰廉。彼が輸送機床に倒れ込む寸前の当主をしっかり受け止め、訪れた状況を察していた様に説明に入った。


「当主 炎羅えんらは大丈夫です。ひとまず皆さんは落ち着いて下さい。彼が至った高次元覚醒は、守護宗家でも辛うじてその情報は共有されていました。それは彼の義理の弟にして、草薙 叢剣くさなぎ そうけん様の実子であられる界吏かいり様から得られたものですが――」

「そもそも高次元覚醒を得るために、守護宗家の歴代の武人は人の次元を凌駕する様な、過酷極まる鍛錬を積むのが習わし。しかし当主は、一般より宗家参入した事で通常の護身程度の技しか身に付けておらず、こうなる事は火を見るよりも明らかでしたゆえ。」


 つまびららかにされた覚醒の当主の状態と、そこに至る経緯を知り肝を冷やしたと安堵する叢雲そううんの子供達。それを視界に入れた社会派分家も、さらに彼らを後押しする様に言葉を続けた。


「彼もそれを自覚し、それでも戦場に出る事をいとわなかった。あなた方という掛け替えのない未来の助けとなるために、ね。古来の戦場では、如何に有能な大将であっても後方で踏ん反り返るだけの者には、誰も着いていかぬと歴史が証明しており――」

「その観点で言えば、戦う武力がなかろうと戦場最前線へ足を運び、知略の限りを尽くして味方を勝利へ導ける者は称賛に値する。つまり我らの大将は、自慢に足ると言えるでしょうね。」


 そこには子供達だけではない、機関のみなが抱いて止まない覚醒の当主への畏敬の念が込められる。口にした本人も、それは重々承知で仕えているとの誇りを胸に抱いていた。


『けどよ、その大将がテメェの身体張り過ぎて倒れた日には、こっちも寝覚めが悪いんだが?』


「ふふ……それは当主が起きた時に、直接お伝え下さい。さあ、トリフネの方も片付いているとは思いますが……急いで帰還しましょう。特区の事後処理は、お国側で重い腰を上げた信頼どころの役人が対処してくれます。」


 輸送機モニターへ映る、特区の混乱が宗家お抱え部隊と国家から派遣された人員の尽力で終息を見た状況。まずは機関の家族の下へと急かす社会派分家も、此度の混乱の本質にこそ脅威を懸念する。逆賊の蛮行など霞に消える、あの魔蝿の王ベルゼヴュードの顕現を要因とした、これから訪れる地球生命存亡の危機こそを憂い、唯一の希望たる子供達へ万全を期させる方向で動いていた。


 一方――

 蒼き大地で巻き起こる事象全てを見通す者達は、止めどないやるせなさに憤りを感じていた。


「この様な……この様な事態を招いたのは、この地球で愚かな争いを幾度も繰り返した人類のせいだ!」


「シザ、落ち着くんだ! それ以上は、兄者たる紫雲しうん様の誇りを汚す事になるぞっ! それに紫雷しらい兄者も――」


「そんな事は分かっている! 分かって……いるんだ!」


 地球は衛星軌道上にて、地上へ溢れ出た異形に呼応し増殖していた増援個体群討滅に当たった魔の貴公子シザ温和な魔大使ロズウェル。しかし彼らにとって、家族同然である高位なる存在紫雲厳格な魔将紫雷が敵対した今を受け入れられず、ただ憤りを顕とする姿がそこにあった。


 魔の巨艦内艦橋部で、彼らを静かに見据えるは妖艶な幼将紫水。彼女もまた同じ気持ちではあるも、だからと言って取り乱すは言語道断と双眸を閉じ耐え凌いでいた。そして――


「心に抱いた怒り……少しは吐き出せたかの?シザ。我ら魔族は、その負の感情を増大させたまま事に挑むは自殺行為。いきどおりが収まったのならば、ちと頭を冷やせ。」


 ままならぬ現状を受け入れ、それでいて臣下となる若衆をいさめるは正に魔軍の将そのもの。そこに込められた悲哀を感じとった貴公子も、渋々ながら溢れ出る無念の言葉を飲み込んだ。


「さすれば我らは、早々にあのアメノトリフネへと舞い戻るのじゃ。これよりは正念場……。しばしの猶予はあろう。が――」

紫雲しうん兄者がすでに深淵へと堕ちたとなれば、。だからこそ、その恐るべき脅威の始末は魔星近隣でつけねばならんからの。」


 そして放たれた言葉には、魔の若衆らも決めざるを得なかった。彼らが家族として慕っていた者を穿つと言う覚悟――



 魔王 ヴェルゼビュードを、

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