memory:115 高きへ至れ!ストラズィール!!

 データから導かれる事象と、オレの視界を埋め尽くす高次元事象へ明確な繋がりを確認した時、弾かれる様に通信を放っていた。それは今まで人類が解き明かす事ができず、一部の霊的な感覚宿す者達とのやり取りでしか判断できなかった、あらゆる霊的超常現象の本質へ辿り着いたから。


 それは奇しくも、世界の万物全てが宇宙に内包されている事実に他ならなかったんだ。


 揺るがぬ事実を目の当たりにするや、脳裏へ過ったのは過去。義理の弟であり、地球で唯一と言える先天覚醒を経て生まれた界吏かいりとの記憶だった。


「だめだな……オレではどうにも、君の言う世界を感じる事ができない。やはり草薙家でうそぶかれる様な、なまくら刀では――」


「つか兄貴……んなねたそねみを真に受けてんなよ。融通の効かねぇお歴々の脳みそじゃ、俺の発言の意図さえ汲めない事ぐらい痛いほど身に染みてんだ。そこへ歩み寄ろうとしてる兄貴の方が、よっぽど素質があるって話だぜ?」


「こんな一般人でも、君が推してくれると言うならば自信も持てるか。」


「……なぁ。いい加減俺をちゃんと義弟おとうととして見てくんねぇか? 正直姉さんを預けられるのは、マジで兄貴しかいねぇんだし。」


 草薙 界吏くさなぎ かいりと言う男は、あの叢剣そうけん様の血脈を正統に継いだと断言できる、今世紀最後の武人だ。そしてそんな彼は、生まれた瞬間から覚醒者としての定めを背負い、魑魅魍魎を討滅するための人生を余儀なくされた。その覚醒者たる彼の言葉を、曲りなりにも理解しようと歩み寄ったからこそ教わった、彼にしか見えぬ高次元の真理。


 己が覚醒する事によって、それを全て解す事になろうとは思ってもみなかった。


「各ストラズィールに告ぐ! これより機体の通信網を、高次元霊量子ハイレイト・イスターリジョンチャンエルへシフトだ! オレは戦う力を持たない……ならば、!」


 義弟が言う高次元は、物質と霊質が交わるカラビヤウ空間にまで至り、それら空間を伝搬する霊量子イスタールエネルギーは宇宙の距離さえも無きものとすると教えられた。通常その空間に干渉できる低次元生命は存在しない。だが、霊的に高次元に至った人類のみが、そこへと干渉する事が叶うんだ。


 そもそも界吏かいりは、そこから生まれるデメリットにより苦難を余儀なくされていたのだから。


『高次元シフトとか、マジやばじゃないですか! スーパーロボットものでもキタコレ! 準備はいいです、私的に!』


『てか、何が何だか分からないし!? ……と、これでいいっポイ!?』


『ナルナルの説明は置いとくとして……こっちも準備完了だ!』


 だが生まれるのはデメリットだけではない、想像を絶するメリットが確かに存在し、高次元干渉が可能な人類だからこそそれは得られるとも言っていた。


『機体の通信管制をハイレイト・イスターリジョン・チャンネルへ……こうだね!』


『俺はいいぜ! 雪花ゆっかはいけるな!?』


『大丈夫だよ大輝だいきおにーちゃん!』


 そしてそれはストラズィールと言う超常の機動兵装のみならず、ヒヒイロカネと言う伝説上の超金属までもを有するオレ達にとっての切り札になる。ヒヒイロカネは元来、高次元に干渉が可能な古代超技術の産物と聞き及ぶ。


 あらゆる宇宙の次元の壁を超越し、低次元から高次元までの霊的なエネルギーを増幅・伝搬する力を備えているとまで言わしめるものなんだ。


「行くぞ……このオレの覚醒の力を子供達へ――」


«宇宙そらは我なりっ!!»


 全てを解し、全てを受け入れ……今オレは膜宇宙ブレーン・スペースの次元と一体になる。同時にフォース・レイアーの力の本質と言える霊言フォノン・ワードを自ら開放し、ヒヒイロカネを通じた高次元伝搬によりストラズィール全機体へ。


 それにより、機体に現状かかる物質上の起動制限を解除し、機神が機神たる真価を最大限引き出す。これより霊装機神は、姿


「ストラズィール・開放! 悪鬼を討ち滅ぼす神代の鉄槌宿せ、我らが叢雲そううんの子供達よっ!!」



 ほどなく彼らは、眼前の宇宙に蔓延はびこる幾億の業を焼き尽くす、神のイカヅチを手に入れる事となった。



 †††



 その日、広大な太平洋へ余す事なく降り注いだのは、神々が降臨したかと見紛う黄金光のほとばしり。だがあらゆる電子網で全てを目撃する世界の人々は、その正体を知り得ていた。


 神々が降臨したとの例えは何ら誇張などではない、六体の巨大なる霊装の巨人が撒いた、希望の後光に他ならなかったのだ。


「ゲイヴォルグのシステムが……それにこのエクシヴ・カノンの形状と想定ダメージ……マジですか!?」


音鳴ななる! 君はマッド・デーモンのコア撃破と同時攻撃……トドメ役として待機だ!』


 穿つ戦騎ゲイヴォルグの構えるG・E・Sゲイヴォルグ・エクシヴ・スナイパーカノンが、封印された力を解き放つ様に形状を変化させ、それに伴い一撃必倒ともいえる爆発的な火力数値予測を表示。カノンを構える穿つ戦騎ゲイヴォルグも、大翼上で反動相殺を担う黄金の機械翼を広げる。


「ミョルニルの腕部が回転式のブレードを……!? これで奴の巨大な体躯の、邪魔な装甲も剥ぎ取れる!」


「ガングニールも同じっポイ! しかもこの制限解除状態のスラスターブーストを使えば、ドリルなランスキャリバーでの突撃速度を一気に引き上げられるよ!」


闘真とうま君と沙織さおり君による激突乱舞で、対象の分厚い装甲表皮を削り取る! エクシブキャリバー・スパイラルと、トール・ドリルプレッシャーのスタンバイを!』


 続く様に、貫きの戦騎ガングニール打ち砕く戦騎ミョルニルが強力な威力持つ武装をさらに昇華させた、言うなれば二種の形態を取るドリル兵装を構えて一気に離脱する。そこから同時に、巨大なる異形マッド・デーモンの装甲を表面と言わず根刮ぎ削り取る作戦で。


 さらには討滅の大翼シャルーアへ通信が飛ぶや、こちらは異形へと流れ込む膨大な負の情念を切断するための対応がなされた。


雪花ゆっか君は制限解除した天元縮地鏡てんげんしゅくちきょうを、対象を囲む様に展開! 解除後のそれは、運用が可能だ! そこへ奨炎しょうえん君のバスターウエポンシステムを共鳴させ、シールドビットを通じた対魔封じの超高次元結界を形成する!』

『これこそ君達がストラズィールを持って生み出す、三神守護宗家の秘術……封じの絶式ぜつしきまが封天ふうてん霊極れいごく結界だっ!!』


「すげぇな、それ! 俺達で守護宗家の技を放つとか……! ゆーちゃん、準備はいいよな!」


「うん、奨炎しょうえんおにーちゃん! ウルスラおねーちゃんも姫乃ひめのおねーちゃんも、タイミングをあわせてね!」


「まかせるでやがります! ここがあたしらの、実力の見せ所でやがりますからね!」


「腕がなるであります! 自衛隊のエンブレムに恥じぬ活躍……見せ付けるであります!」


 覚醒の当主炎羅の声に奮起する少年少女達は、己がなすべき役目を理解し、しかるべき陣形へと機体を舞わせ――


 一撃必倒の狙撃と同時にトドメを担う、修羅の戦騎フォイル・セイラン駆る剣士が妖刀構えて覚悟を放った。


「俺と音鳴ななるの攻撃で、本体ヘッドショットと霊的な負の中心を穿つ……だな! 決め手は俺達……抜かるなよオタク娘!」


「言われなくてもですよ、族さん! 私達こそが炎羅えんらさんの剣であると、このバカ異形さんへ知らしめてやりましょう!」


『頼むぞ、我が教え子達! では、シャルーアの閃光弾を合図に散開! そこから一気に攻撃を仕掛ける! 行くぞっ!!』


 異形穿つ全ての準備が整うや、暴れ狂う異形を押し止める六体の機神が、討滅の大翼シャルーアの撃つ閃光弾を合図に散る。目眩ましも兼ねたそれで、異形が一瞬光学的視界から憎悪の対象を見失い足掻いていた。


 そこより怒涛の反撃が開始される。五つに展開される御鏡みかがみが異形を大きく包み、それに合わせて飛来するシールドビットが、さなが八咫鏡やたのかがみ八尺瓊勾玉やさかにのまがたまの如く禍々しき力断絶を開始した。


『ウゴォォォ……ガァァァ……!!?』


 突如として訪れる負の情念エネルギー乱高下で、身をよじり激しく藻掻もがく異形を尻目に、一気に離脱を測った貫きの戦騎ガングニール打ち砕く戦騎ミョルニルが急速な方向転換。そこからありったけの速度を乗せた回転突撃槍エクシブキャリバー・スパイラルと、突き出された回転断剛腕トール・ドリルプレッシャーの激突を幾度も……幾度も異形へ叩き付けた。


「まだ……まだだ! その装甲を限界まで削り取れ! 負の情念の塊……霊的な負のブラックホールを生み出す核はその奥にある!」


 二体の機神が激烈な攻撃に転じる最中も、覚醒の当主はその意識を高次元領域へ集中させる。霊的な負のブラックホールを生み出す核が、異形の体躯中心へ剥き出しとなる瞬間を、時空歪曲の予兆で察知するためだ。


 やがて、あまりの激突の嵐で表層の有機機械装甲が剥がれ落ち、内部を構成する有機生命らしき内部構造も剥き出しとなる巨大なる異形マッド・デーモン。それでも止まぬ藻掻きと咆哮が、さらなる時空歪曲を誘発し、遂に当主の高次元感覚へ穿つべき核心を捉えさせた。


「……っ! 異形の核を補足した! 各機敵の足掻きに備えて、トドメの二人を守ってくれ!」


『『『了解です!』』』


「よし……マッド・デーモンを、この地球から討滅する! その核を穿てフォイル・セイラン! そして禍々しき頭蓋を撃ち抜け、ゲイヴォルグ――」

「草薙流 無式……二天撃滅にてんげきめつ霊装討滅縛陣れいそうとうめつばくじんっ!!」


 放たれる一条の矢は。同時に対象へと飛ぶは、抜刀から刹那で異形の核を切り裂く。黄金の閃光纏いて襲撃したそれが、異形の足掻きを物ともせずに撃ち貫いた。


 体躯を制御していた頭部と、深淵のエネルギーを生み出す核を一度に失った巨大なる異形マッド・デーモンが、もはや藻掻く力無くただ崩れ落ちる様に落下して行く。そこに強制的に取り込まれた天月烙鳳国家の逆賊を始めとした、人の成れの果ては言うに及ばず――



 ほどなく散り散りとなる魔の残りカスは、守護宗家の討滅の力によって浄化されて行くのであった。

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