memory:111 宿りし力はオモイカネ

 遥かいにしえ、この蒼き地球に現存する史実の何れにも表記されぬそれは、古代超文明〈ロスト・エイジ・テクノロジー〉により栄華を極めた時代とされる。けどそれを知りうるのは、ほんの僅かな国家の限定された機関に属する者……それも、口伝で伝わっていた。


 観測者――この地球上で言えば、英国は円卓の騎士会ナイツ・オブ・ラウンズにより守護される〈アリス〉と呼ばれる者。オレへあの、アメノトリフネとストラズィールと言う古代超技術を託した方に他ならなかった。


 そして彼女の知識からも確証を得た事だったが、かつて古代超文明を司る者達は〈黄金人 レゾナの民〉と呼称され、現存するオレ達人類が五色へ分類されていた頃に種の頂点にいたと。青人、赤人、白人、黒人、黄人からなる五色の民からした上位ではあるも、そこへ種族的な壁が存在していたのではない。そこへ至るのが可能と聞いた。


 種族の格差も、貧富も、種族も言語も健常か障害持ちかも関係がない……人類として霊的に高次元の壁を超える事ができた者は自ら、覚醒の扉を開くのだと――


 アリスから聞いたのを覚えてる。


「アリスがなぜ、オレへあんな話をしたかをようやく理解した。真に霊長類としての価値を得るのに、生い立ちやそこで得た不利など関係がなかったと言う事か。」


 彼女は観測者であり、聞く所では軽く数億年の月日の中で、この地球を観るためだけに存在し続けていたらしい。されど彼女達はであり、神格存在間において歴史と人類へ直接介入できないと言う盟約が存在するとも。歴史を如何様にも操ってしまえる彼らだからこそ、厳格に取り決められた魂の盟約に束縛されるが定めと言っていた。


「今なら分かる……紫雲しうんがなぜ、オレ達へ直接介入してきたのか。アリス達に近しい彼ら魔族は、ある意味そんな観測者間での、零善れいぜん殿の様な歴史に於ける汚れ役に相当すると。そうか……だからこそ、彼は……――」


 様々なアリスからの情報が脳内を占拠するが、今はそれを置いておこう。オレ自身が覚醒の扉を開いたのはすでに明白。ならば、その力が必要とされる今を超えて行かねばならないんだ。


『え、炎羅えんらさんそれ!? なんか身体が、どこぞの激しい怒りで目覚めた清き闘士みたい!?』


『そういうヤバめの発言はいいっぽい! けど、そのひたいの目みたいなのって……!?』


「パイロット方、その覚醒については後に詳しく! ですが今は、当主炎羅えんらと共にあの異形の討伐を!」


 心と身体へ起きた事象を、音鳴ななる君から丁寧にご説明頂いた事には、どうもこの額に第三の目に該当するモノが発現しているらしい。が、それもアリスから聞いた情報……それは人体の脳でも第三の目に当たる部位へ、強力な宇宙よりのエネルギーを取り込むことで現れる神秘学的・幾何学紋様らしい。


 それ以上は改めて考察も必要だが、宰廉ざいれんも急かす通り状況が状況だ。音鳴ななる君達もすぐに理解し、ストラズィールで改めての構えを取る。まず穿つべきは、天月 烙鳳てんげつ らくほうであったモノ。そしてこの地球を浸蝕せんとする、オロチと化したネガ・テラシュトロンの権化だ。


 駆け付けた宰廉ざいれんと視線を交わし、討つべき者を見据えたその時。自身も想定だにしない事象と遭遇する事になった。


『やっとお目覚めかの。いやはや時間を要したな。じゃが、ワシもそれほど熟れた魂であれば力添えもやぶさかではないと言えるのぅ。』


「……っ!? まさ、か……この感覚! オレにそんな力が……!?」


 突如として思考へと流れ込んで来る意思。今まで知り得る何者とも違うその気配は、紫雲しうんの圧倒的気配ともアリスの慈愛に満ちるそれとも異なるもの。しかし紛れもない神格存在と言える意思からの念話と思しきそれが魂へと響いた。


『守護宗家の伝承は知っておるぞな? ワシはその伝承にのっとり、そちの覚醒に合わせて顕現した者。、オモイカネぞ。名前ぐらいは知り得ておろう。』


 訪れたその事態とは――


 純粋なる三神守護宗家の血脈に繋がる者にのみ降臨すると言う、八百万やおよろずの神々の力顕現だった。



 †††



 天津神に於いてあまねく知識の象徴とされる神々の一柱。名をオモイカネと言う存在が、覚醒を見た憂う当主炎羅の意識領域へと降り立った。守護宗家では、本来当主継承の儀を必須とし、その際力ある継承者は多分に漏れず儀を執り行う。その中で、当事者の力に見合った程度の神代のギフトが、継承者の用いる装身具などへ片鱗となって継承される。だが――


 元より一般人出生当主である彼には、その継承の儀さえ行われていなかったのだ。


「オレに……天津神の力が、継承!? そんな……儀式など経ては――」


『継承の儀などは、人の世が生んだ建前じゃ。そもそも守護宗家の力継承は遥かいにしえより、我ら側から宿り木を選び、力の一端を与えるが定石。』


「けれどオレには、神々を宿すための神具に相当する装飾など与えられてはいない!」


 魂でのやり取りに終始する憂う当主と知識の泉たる者。が、彼の答えにしたり顔を浮かべた知識の泉オモイカネは言い放つ。何のことはない……それに該当する者が、彼の眼前へと集結していたのだから。


『あるじゃろう?ほれ。。それはお主が、自ら口にしたはずじゃ。』


「……っ!? ストラ……ズィールへ!?」


 高次なる存在より提示された言葉で、憂う当主は覚悟を決めてそれを見上げた。そこには、異形の巨人討伐を今かと待つ子供達と、彼らが搭乗する霊装機神ストラズィールが神々しくそびえ立っていた。


 そして高位なる知識の泉は宣言する。新たなる次代の当主が振るうべき力の全容を。


『我はオモイカネ。我は天津神の誇る知識の源泉。草薙 炎羅くさなぎ えんらよ、お主が振るうは知識の力じゃ。己が持つ頭脳と、経験と、論理と物理が構築する宇宙の真理こそを味方に付けよ。さすればお主の自慢の子供達は、悪鬼覆滅、対魔討滅をなす真の草薙の剣へと昇華するじゃろう。』


 光が憂う当主を包むや、彼の意思が高次元を通じて全ての霊装機神神代の武力へ行き渡る。光はやがて黄金光へと昇華し、集束蔓延していた瘴気を霧散させた。


『ちょ、ちょちょちょちょ!? ゲイヴォルグがガチ光りしてますよ!?』


『いや、ガングニールもだし!?』


『つか、全員のストラズィールが光ってんじゃねぇか! しかも黄金ってマジかよっ!!』


 事態に驚愕したのは当主のみならず、力の行き渡った機神と共にある子供達も同じであった。


『これは……ただ光ってるだけじゃなさそうだよ!? 機体の発する出力を見て!』


『ありえねぇ……こんな反応知らねぇぞ、炎羅えんらさん!』


『ウルスラおねーちゃん、姫乃ひめのおねーちゃん! 私達のシャルーアも……!』


『そうでやがりますね! 機関出力だけじゃない……武装に始まり補助システムの何から何まで、稼働できる全てが三次元上の物理限界を突破してやがります! まさかこれは……――』


『聞いた事があるであります! 三次元上の物理上限を超えると言う事は、その上位互換である十一次元へ向けて物質とエネルギーが昇華すると同義であると! 即ちこれは、考えられるであります!』


 それは所謂いわゆる反撃の狼煙。社会に不適合のレッテルを貼られ疎外された子供達と、彼らを救い上げながらも、自らの持つ自責の念で藻掻き続けた一人の青年の――腐敗した世界へと叩き付ける挑戦の証。


「アメノハバキリが誇るパイロット達……敢えて再び言わせてもらう!君達こそが、眼前の悪鬼を討滅する草薙の剣だ! 屠るぞ、この傍若なる悪意の集合体を! そして君達が進むべき未来と世界を救うために……その手にした神代の武力にて、討滅を開始せよ!!」


 画して真の戦いの火蓋は切って落とされる。蒼き地球が生んだ、清く正しき義に溢れた者達による悪鬼討滅の戦いの火蓋が。そして撒かれる黄金光が六つの刃となりて、巨大なる異形へと突撃した。


 それはあたかも、伝説上に在りしスサノオノミコトが剣構えてヤマタノオロチを討った戦いの如し。そこで生まれた刀剣こそが草薙の剣であり、後の世にオロチの脅威あればそれを屠るため再び降臨する定め。奇しくもその定めが、憂う当主と彼の育て上げた子供達を選んだのだ。



 生まれた六条の黄金が大気を切り裂いて行く。憂う魔蝿の王ベルゼヴュードが悲しみに暮れるその中で。

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