memory:110 なまくら刀
三神守護宗家――
その時代、日本国でそれを語れば万民が知っていると返答する、伝説と名高き名家中の名家。それも、ただの金で全てを手にできる投資家や起業家など尻尾を巻いて逃亡する、研鑽と実績こそが物を言う由緒正しき総本山だった。
けど……やはり世界の腐敗は顕著であり、そんな腐敗が守護宗家にまで及んでいた事実を、まだ当時の万民は知る由もなかったんだ。
「知っているか? あの
「ありえんな……。御仁は宗家史上最強の武人であるぞ? その地位を継承するのが、宗家大学に属すとは言え世渡りのためのご都合取りしか脳のない若輩などと。冗談も大概にしてほしいものだ。」
かつての巨大霊災が頻繁した時代と異なり、時は現代……
そんな緩んだ緊張は、オレと言う存在をやっかむ宗家お歴々へ不満を抱かせるキッカケとなり、その頃はまだ一学生の身であった自身の所まで、溢れ聞こえてくる罵倒は後を断たなかった。
「
「バカモノ。お主が頭を下げる必要がどこにある。むしろ他者が劣っているからと、それ来たとばかりに罵倒を始める者こそ宗家の名折れも
なのにあの御方は、いつもオレの居た
宗家専属学生時代のオレは偉大なる御仁の後押しの本、
宇宙と言う世界から落ちて来た、たった一人の同胞との邂逅が全てを混迷へと叩き落としたんだ。
名をエイワス・ヒュビネットと言う者。当時まだ少年であった彼が宇宙から人型機動兵装……しかもこの地球上のどの技術も及ばぬそれに包まれ、海洋を漂流した後日本近海で発見されたとの話題で持ち切りとなる。前代未聞の事件ではあったが、問題はそれこそを起因として勃発した事件が発端だった。
宇宙からの同胞へ治療を施すため受け入れた未来の義父と、事態を利用し彼を亡き者にしようと企んだ天月家先代
それは、オレの人生を大きく狂わせる大事件に他ならなかった。
「お、とう……御父様……!? なんで……こんな……こんなことに――」
今でも忘れられぬ、先代の亡骸を前に崩れ落ちる
オレが宗家外から来た無能であるから――
オレが彼を支えられる器ではなかったから――
そう――オレが義父 叢剣を殺したのだと。
「オレが……オレが彼を……!
長く心の奥底へ押し込めていた感情が、深淵の浸蝕を引き金に魂を蝕み始めた。自身の不甲斐なさを呪う自責の念が、鋭き刃となってこの身を切り刻んで行く。
これこそが深淵の力。この星で蓄積された、星さえも飲み込む怨嗟に怨恨が物理的な圧力を以って――
あらゆる生命を浸蝕するのが、オロチと言う存在だったんだ。
†††
神々の力借りて舞い降りた
何より問題なのは、そこが日本と言う大地である事。人類が現代でようやく理解の一歩を始めたガイア理論と称される例えは、例えなどではない真実であるから。さらに星を生命に例えた場合、生と死の輪廻を生み出すものこそが龍脈エネルギーであり、世界で言及される解釈で言うところのマナ、気、プラーナ、ソーマ等と表現される全ての根源である。
注目すべきは、それらが星の血管の様に大地へ張り巡らされ、傷付ければ天変地異の引き金となって大地を引き裂く点。それほどのエネルギーが、ある一点へと集約する様に流れ、集中制御されていると言われていた。集約される道は八本の蛇龍を形作り、膨大な力を一つの霊的な大地にて
やがて八本の龍脈は、一つの頭脳により制御され初めて
深淵に飲み込まれる
人類が体験した事のない、壮絶にして膨大な魂の痛み。しかしそれは、人類こそが引き起こした戦乱の世が生み出した業であり、それを否定など誰にもできはしない。
だが――それを否定する資格得た者達がそこに集っていた。
「
咆哮が宗家特区へと木霊する。それは当主と同じく、深淵に飲み込まれかけていた少女の声。何もないと感じていた、
「そうだよ……炎羅さんはこんなあたし達のために、全てを懸けて答えてくれた! 人生を救ってくれた……! そんな人が苦しむなんて……あたしは認めないっぽい!!」
最初の声に呼応した様に、さらなる
「ったく……ナルナルに沙織の言うとおりだぜ! それのどこが炎羅さんのせいだって!? ざけんじゃねぇぞ……草薙 炎羅って人は、力なき人々のためにその身を犠牲にできる、現代流の武人なんだよっ!!」
「ボクは、生きてることさえ辛かった! だから、この手を汚して……大切な友人まで手にかけそうに……! それを救い上げてくれたのは炎羅さんだ! だからボクは、今ある生命でちゃんと罪を償っていかなければならないんだ!!」
生命の全てを浸蝕する力のその中心。
「こんな事で折れてんじゃねぇぞ、炎羅さん! 俺達兄妹は、もうあんた無しじゃ生きられないんだ! この程度の怨嗟に飲まれんじゃねぇ!!」
「そうです、おにーちゃんの言う通り! あなたにはゆーちゃん達がいる……他にも、アメノハバキリで戦ってくれる機関員に、多くの応援者がいるんです! あなたは、ゆーちゃん達にとって掛け替えのない人なんです!!」
「……んな、すまない。いつも君達へ偉そうに、講釈垂れておいてこのザマだよ。全く……申し訳ない事この上ない。」
『全くでやがります。そんなのは、あんたには似合わないでやがりますよ?炎羅さん。』
『ウルスラに同意であります。さあ、アメノハバキリを代表するのはあなたであります。悪意を覆す、対魔討滅の大号令を!』
かつて宗家の反対派に、なまくら刀と揶揄された男は立ち上がる。彼自身は確かに武器を振るう力は有してなどいない。いないが――
何の事はない。彼には、彼自身の心が育て上げた最強の子供達がいる。それこそが、自身も口にした現代の誇る草薙の剣なのだ。
«オレはもう、己を
生命は遥か
«オレはこの目で、前を見るっっ!!»
遥かな超文明時代、その覚醒者達は総じてこう称された。
神格存在に選ばれた高次元覚醒人類……〈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます