memory:106 善意、舞う
神々しき巨人は群衆の心から
誰もが神の如き者を目にした時抱くは、大自然とともにあった先祖の営みと偉大なる歴史。それを蘇らせる程に、群衆眼前へ現れた存在は光に満ちあふれていた。
だがそれを視界に止めてなお、醜悪な私欲を
「使えぬ兵が! まあいい……ガキどもがここへどうやって来たかは問題ではない。むしろ私にとっては好都合だ。のこのこ敵陣にしゃしゃり出て来た知恵もないクソガキを利用し、草薙へさらなる追い打ちをかけてやる。どこぞの半グレじゃないが、あまり闇の世界を舐めるなよ?世間知らずどもが。」
そうして思考に踊らされるまま反意の愚家は、黒塗りのBMWから降り立ち群衆へ声が届く場所まで足を運ぶ。想定外の動きをした雇い主に慌てた黒服SPらもすぐに後へと続き――
そこから大袈裟に広げた両手で、無念をチラつかせた道化の演技で群衆へと解き放った。
「ああ、ご覧下さい……暁の国家で日々の安寧を謳歌する国民方! あの
「これこそが過去、国家誕生以来より暗部で社会を自在に操って来た守護宗家と言う存在! しかし全てがそうでない事を、皆様はご理解下さい! 私め
口からでまかせとはこの事か。あからさまに、彼へ向けられた群衆の持つネット端末や携帯電話群へ向けて、ここぞとばかりに己の目的を詳らかにして行く。
巨大機動兵装が街を包囲する状況は、
「あ、あの
「待てナルナル! ここで迂闊に動けば奴の思うツボだ!」
「そんな……あたし達は自分の意思でここに来たっていうのに!」
「これじゃせっかく僕達がここに来ても、
「どうしよう、おにーちゃん!これじゃぁ――」
「クソがっ! なんで俺らの周りの社会には、こんなくだらねぇ大人ばかりなんだ!」
その曲者の言葉は、今ここにいる機関の子供達よりも群衆へ及ぼす力は絶大である。それを彼らも理解するからこそ手出しができずに狼狽えた。そんな彼らを他所に、雑居ビル上の狙撃銃が狙いをすます。だが――
四面楚歌となった子供達を救う声は、愚家へ賛同し、思惑通りに動くかに見えた群衆の中から響いたのだった。
「あの、よろしいでしょうか?
「えっ……お、おじいちゃん!?」
群衆の野次をものともしない、張りのある落ち着いた声の主は、なんと
確かな善意を起爆剤にした群衆の人身操作と言う必殺の一撃であったのだ。
†††
『おじいちゃん、なんでこんなトコに!?』
「おお、この声は
『……ほ、褒めても何もでないじ……! 褒めても……うん、がんばったよおじいちゃん。』
柔らかな微笑み湛える初老は娘の勇ましき出で立ちを誇り、それが
「
『うそ……パパ……ママ! 二人は仲が悪かったんじゃ……!』
「違うの、沙織! あなたが大きくなって、私達もあなたとの接し方が分からなくなって! そんな時に生活がとても大変で、共働きでも十分あなたを食べさせていけなくて! でもそんなの言い訳にしかならない――」
「今のあなたを見て思った……! 私達は、とんだ過ちを犯していたって事を! 愛してるわ……沙織!」
『パパ……ママ……あたしもだよ! ずっと二人があたしを見てくれないと思って、それで命まで絶とうと……! でも今は、力なき誰かを守るために生きてるんだ!』
響く声に、
やがて、反意の愚家の言葉で担がれていた群衆が一人、また一人と目を覚まして行く。それは紛う事なく、子供達が己の意思でそこに立つ現実こそが要因であった。
「草薙さん、こんなのは俺が弟を預けられる宗家じゃないぞ? 道化を演じてないで、さっさと弟が惚れ込んだ社会人としての勤めを果たしてくれ!」
『あ、兄貴! こんなとこまで……――』
「なんて声出してんだ、
『……分かってんよ。クソ……こんな時でもあのババァはいねぇのか。俺を大事に思ってくれるのは兄貴だけ。ありがとな、兄貴。ホントに……ありがと。』
先の二人に続き、兄弟でひと悶着を起こした
「おい、坊主! お前さんの友達がここに来てくれてんぞ! さあ……話す事があるんだろ?」
『
「すんません刑事さん。おい
「お前が格闘魂で弱きを守るなら、俺は全力で応援する! だから、さっさと大切な人を救い出しちまえ!」
『ごめんね……そして、ありがとう。本当に……ありがとう。分かったよ……君の応援は絶対に無駄にしない!』
未だ少し包帯に包まれた体を、車椅子に預けて気さくな刑事に運ばれ現れたのは、
贖罪の拳士にとって、もはやその励ましだけで十分であった。
「
「すげぇって
「俺達フォイルは、いつでも
「なんでぇ……すんげぇのに乗ってやがんな
『おにーちゃん、ちーむの人達だよ!? それに、おにーちゃんの職場の棟梁さんが!』
『棟梁……恩に着るっす。それにお前ら、フォイルはしばらく任せる! 俺がちょっと世界を救って来るから、あの禍久みたいなクソ野郎どもから、力無き弱者を守っててくれ!』
「「「了解っす!!」」」
善意は子供達へ、無限の力を沸き上がらせ、それを目の当たりにした群衆は責める相手を切り替えて行く。まさに今、群衆を扇動し、虚実に塗れた愚行で国家を陥れんとする
「各員、今だ!
「「「了解!」」」
飛び交う野次が、自分たちを騙そうとした愚家への敵意を剥き出しにする頃。今とばかりに
それを目の当たりにした見えざる刺客が、想定しない状況で焦りを顕とした。直後――
愚家の指示を待たずに、混乱の中その引き金が引き絞らる事となる。
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