舞い降りる魔王の影

memory︰105 届け、未来駆ける希望達の叫び!

 日本国は宗家特区でも、自治権空白地域がほど近い公判会場にて。並み居る群衆の視線はただ一点……これより公判の行われる、現草薙表門当主 草薙 炎羅くさなぎ えんらの姿に注がれていた。が、公判が開始される時間が何故か引き伸ばされ、それまで黒服に囲まれた憂う当主炎羅は足止めを食らっていた。


 しかしそれも、彼を陥れんとする天月てんげつ家が張り巡らす巧妙な策略であった。


「草薙 炎羅、よく見ておけ……群衆の答えだ。今や世界のあらゆる人種は、多くの社会問題を抱える身でありながら、その思考を誰かに委ね、己すらも確立できない下等種と成り果てた。集まる群衆に、本当の真実や正しき義を求める者など存在しない――」

「己が見たいモノだけを奇異の目で娯楽化し、短絡極まる語彙の羅列が紡ぐ薄っぺらな判断で、物事を自分勝手に断罪する。皮肉な事に、それは学力も、地域柄にお国柄も、権威や貧富さえも超越する。悲しきかなその点では間違いなく、世界平等と言える現代人類は、すでに思考錯誤の果てに生まれる進化した未来さえも放棄したのだ。」


 黒服に囲まれたBMW車内で、愉悦を顕としながら、つらつらと語るは天月 烙鳳てんげつ らくほう。当主が公判会場広場にさえ入れず足止めされる中、彼へ突き付る様に高尚な言い回しを吐きながら口角を上げる。


 照り付ける日差し。それが群衆の心をさらにヒートアップさせて行く。同時にネットを駆け巡る守護宗家関連トレンドが、「♯草薙当主公判」、「♯草薙宗家地に落ちる」で埋めつくされた。


 僅かの時間が永遠とも感じられる宗家特区の外れ。同じ頃に、公判会場対面の雑居ビル屋上で、光が微かに煌めき狙いすます。


『手筈通りだ。群衆の視線に晒されぬ位置まで待て。広場でマスコミを一旦シャットアウトした後、ウチの手のもので包囲してからが勝負だ。なに……それ以降は替え玉ですませれば事は足りる――』

『後日世間に、事実すべてがおおやけになる事を恐れた草薙当主は、公判直前に自らの命を断ったとでも流せば丸く収まる。すでに足元がガタガタの、落ちぶれた守護宗家に成り変わるのはそれからだ。』


「あいよ、了解。指示通りに、脳天と胸へ一発づつ食らわせて確実に仕留めるさ。報酬分の働きは任せな。」


 ドス黒い謀略は、とどこおりなく進んで行く。未だそこに、憂う当主の味方はどこにもいない。否――


 群衆に紛れる様に、いくつかの場所で憎悪にも屈せぬ輝きが集い始めていた。


 その輝きは、耳元で口寄せして来る者を各々見やり、視線を陽光の照り付けるビル群方向へと向けて行く。そこに何もいない。いないが……程なく訪れる希望を待ち侘びる様に、視線を一点へ集めていた。


 そして――

 ふと、陽光を切り裂いたのは巨大な影。それは現代社会の文明ではあり得ない規模の航空物体。旅客機に戦闘機などの限られた飛行物体しか知らぬ群衆は、突如上空へと飛来し、滞空した存在を目撃して憎悪を忘れどよめき出した。


 その異常事態に、反意の愚家烙鳳も遅れて気付く事となったのだ。


「……なんだ、今は大事な時……なっ!? バカな……あれはまさか! おい、奴らの施設は我々が接収しているはずだぞ!? 篠井元二佐、これはいったいどういう事だ!?」


『こちら篠井。申し上げますが烙鳳殿……いや?。すでに私設艦隊は、宗家と自衛隊が組織した対魔防衛艦隊により無力化されている。人類を無能とののしるのは勝手だが、いかがかと思うが?』


「き……貴様ぁ!! 自衛隊から離反と言うのは、口からでまかせだったと……! 謀りおってぇ……!!」


『こんな事で時間を潰していてよいのか? 行くぞ?我ら人類が希望託す子供達が。そしてその輝ける子供達と、運命を共にする巨大機動兵装らがすぐにでも、貴様の独りよがりな謀略を叩き潰してくれる。』


 急転直下。反意の愚家腹心と思われた者は、自衛隊から派遣されたスパイであり――



 即ちそこからが、対魔討滅機関アメノハバキリによる怒涛の反撃の始まりであったのだ。



 †††



 宗家特区外縁へ衝撃とどよめきが吹き荒れた。


 憂う当主炎羅の公判傍聴は愚か、それを外堀から眺めて晒し者にする事で愉悦をと思考していた、現代の病巣に蝕まれる老若男女が一斉に空を見上げる。そこに、夏の陽光をさえぎり滞空する巨大な影が出現したからだ。


「あ、ありゃなんだよ! もしかして、宗家が所有してる兵器とか……!?」


「それってまずくない!? あいつら、自分達の頭を取り返すために俺達を攻撃したりしないだろうな!」


「そんな危ない奴、さっさと裁いちゃってよ! でないと私達がっ……!」


 どよめきが混乱を呼び、やがて自分達へ降りかかるであろう悲劇を想像し戦慄する者が、怯えた様に叫びを上げ始めた。。遂にはあろうことか、それが公判を拒む当主派の仕業と口走り、霞の彼方へ消し去ってしまう。


 そもそもその公判が、決定的な違和感を。


 だがしかし、そんな群衆の目を覚まさせるかの咆哮が一帯へと響き渡る事となる。その発信元は他でもない、空に滞空する巨大航空兵装からであった。


『ここに集まる全ての方へ! ゆーちゃん……私達は、今公判会場へ連れて行かれようとしている人の家族です! 本当の家族とかではないけれど、その人に絶望で終わるはずだった人生を救われました! 彼は、私達にとってかけがえの無い恩人です!』


 幼さの中に、ありったけの懸命さを込めて声を張り上げるは討滅の妹嬢雪花。外部オープン回線で、それは群衆のあらゆる聴覚を揺るがした。


「おのれ何をしている! ヘリでもなんでも上げて、あの忌々しいデカブツを叩き落とせ! 我らの計画が台無しだっ!!」


 訪れた事態が自身の策略を瓦解させるモノと、ようやく察した反意の愚家が、私設部隊へ通信で吐き捨てる。だがそれよりも早く、空に現れた希望が巻き返しに動いた。


『ゆーちゃん、見せてやりましょう。私達はいつでも準備おkです。』


『さっさとそこへ飛んで、炎羅えんらさんを助け出すっポイ!』


『猶予なんてねえぜ、ゆーちゃん! あの天月とか言うクソッタレに一泡吹かせてやろうぜ!』


「うん、そうだね! ウルスラさん、姫乃さん……シャルーアの機関出力を全開へ! 同時に、天元縮地鏡 三機連続展開を!」


「高次元転移座標、固定でやがります!」


「霊量子機関出力安定……天元鏡の発動、いつでもいいであります!」


 大空へ滞空した巨大なる影、討滅の大翼たるシャルーアが三機の天元鏡を展開するや、膨大な霊量子イスタール・クオンタムの光をばら撒いた。それは灼熱の太陽光線のそれとは違う、生命が持つ暖かさに溢れ、そこに存在するあらゆる生きとし生けるものが、活力に満ち溢れる膨大なエネルギーを宿していた。


『すぐにでも駆け付けて、炎羅さんを!』


『焦んなよ闘真……だが! 雪花、いいぜ俺達は!』


「炎羅さんを……ゆーちゃん達の素敵な家族を助けよう、おにーちゃんにおねーちゃん達! 天元縮地鏡最大出力……! シャルーア、あなたの出番だよ!!」


 エネルギー撒く霊光が、三つの拡大稼働した巨大リングへ集束されるや爆光へと変異した。半物質化した光帯こうたいびた膜が、11次元に登る余剰次元からなる高次元空間により、機関と本土の空域を高次元的に接続。やがてそこへ、重力のある惑星上と言うリスクを無視した様に、五機の巨大機動兵装が連続的に次々と空間転移された。


 突如現れた巨大航空物が、さらにそこへ五つの影を送り出す様。現代技術に溺れ、すでに心の信仰など皆無と化した群衆さえ、それを抱かずにはいられなかった。かつて古代の日本国の民があらゆる自然をおそれ敬った、八百万やおよろずの神々を上げ奉るかの厳格なる意思を。


 それほどまでに、光輪の膜より躍り出た五体の機動兵装は神々しさに満ち溢れていた。さらに群衆は知る事となる。眼前の神々の如き機動兵装こそ、退――



 草薙 炎羅くさなぎ えんらと言う男が育て上げた、

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