memory:103 反撃の翼広げる、明日への希望達!

 憂う当主炎羅公判開始前。すでに出回る情報が、国家の至る所へと広まる中。それと同時期に、巨鳥私設アメノトリフネでは起死回生の引き金となる一手を打つ時が訪れていた。


 配膳係となった討滅の妹嬢雪花を、不逞の部隊の目を盗んで特秘通用路へ送り届けた暴君分家零善が、施設食堂へと戻るや監視兵より疑惑が突き付けられた。姿は素性の判別し辛いマスクと特殊武装服で偽装するも、その彼が単独で戻った点は異変として捉えられたのだ。


「おい、あの車椅子のガキはどうした? まさかお前……監視担当じゃ――ごへっ!?」


 が、返答が飛ぶまでもなく、当て身で部隊員を昏倒させたのはほかでもない食堂施設の長。現在その長へと成りすましていた勾玉の当主伯豹である。


「監視が二人など……たかが食堂施設と見て、油断もこの上ない部隊だ。奴らの、我々に対する素性洗い出しがどれほど杜撰ずさんかが伺える。」


「カカッ! そもそも宗家広しと言えど、まさか、天地がひっくり返っても考えはせんけぇのぅ!」


「それもそうだな。そして、そんな守護宗家の新たな世代に見合う多様性を体現する、炎羅えんら殿の身が危険に晒された今……このままで済むと思うなよ?天月 烙鳳てんげつ らくほう。」


「相手が悪いわ。ワシを除けば間違いなく、宗家で最も恐れられるはおんどれじゃけぇの。んじゃ、守備はええか?」


「当然だ。一鉄いってつ整備長も、搬入済みヤクサイカヅチの整備を万全にしている。動くなら今だ。」


 そうして食堂施設が刹那で制圧された要因は紛う事なく、反意の愚家烙鳳あなどりを遥かに上回る二人の宗家主力の能力。否――


 


「居住区画はクリアです。青雲せいうんさん、格納庫の方は?」


『ああ〜〜問題ないね〜〜。すでに機体の制御も取り戻した所だよ〜〜。こちらはいつでもOKだね〜〜。』


「分かりました。では麻流あさるさん……そちらはお任せします。」


『ええ、任されたわ。このまま司令室を奪還の後、朱吏々しゅりりさんがジャミングと超広域ハッキングを展開します。それに合わせ、零善れいぜん殿と伯豹はくひょう殿による海上・海中からの同時艦船制圧を。そしてそこからが、子供達に全てを託す時です。』


「はい。炎羅えんらさんを、私達アメノハバキリの手に取り戻しましょう。」


 アモノハバキリの名が体現する通り、不逞に対する反抗の狼煙上げる機関の勇士達。確かに天月 烙鳳てんげつ らくほうと言う無法者は、知略に組織力や武力を兼ね備えた曲者である。だがそれは、。引いては、でしかない。


 対し、古より巨大霊災を相手取って来た血脈を連綿と受け継ぐ守護の本丸は、そんなくくりでは計り知れない力を有していた。憂う当主を除く血脈流れる討滅の志士は、そのほとんどが対魔討滅上必須となる知略・戦術のあらゆるものを叩き込まれた精鋭。


 それは、聡明な令嬢麻流でさえも例外ではなかった。


「き、貴様! 監視護衛は……ぐぼぁ!?」


「馬鹿な、こんなアマ如き――ぐふぉ……――」


「あら失礼。しかし。」


「いやいや、麻流あさるにぇーさん(汗)。その弾道を見極めて、全部避けきるあんたも大概だにぇ。残念だけど、シュリリンたんはガチ頭脳派だから、戦闘は全部任せるにぇ。」


 なんと、特殊部隊の放つ機関銃の弾丸さえも見切り避けきる聡明な令嬢。彼女は曲りなりにも、武装組織潜入殲滅を初めとした、宗家の対魔討滅部隊としての訓練を受けた身。神倶羅 綾奈かぐら あやなと呼ばれる分家筆頭女性をも凌ぐ力は、並みの兵では太刀打ちさえ出来ない。


 程なく司令室も難なく制圧され、さらに彼女らの動きの影では、パイロットである子供達が即座に成すべき事のため駆ける。



 そこからは子供達の正念場……彼らの俗世人生に於ける、一世一代の戦いの始まりであった。



 †††



 対魔討滅機関アメノハバキリは、不逞の部隊が施設上陸するか否かでデータ上の当該施設図大半をロックしていた。そこから軟禁状態の渦中に、敢えてそれらデータを不逞の部隊に弄らせる方向とした。だがそれは、彼らがどれほど特殊設備の掌握に優れていようと、決して解除の叶わぬ古代超技術へ信頼を置く策。


 それほどの施設を敢えて開放し、掌握可能な領域を晒す事で、あたかも機関システムが支配出来たと誤認させる策であった。


「分かっているな! 君らパイロットは、迷わず本土へ飛ぶんだ! そのためにシャルーアが先行して活路を開く!」


『了解っす伯豹はくひょうさん! けどお二人も気を付けて! その機体は――』


『なんやいっちょ前に心配けぇ! じゃが悪い気はせんのぅ! まあそもそも相手は、ミサイルフリゲートに原潜如き! どっちも電子システムへのクラッキングを許せば、迂闊には動く事もままならんけぇ安心せぇ!』


 飛ぶ通信は、不逞の部隊により掌握された電子通信網を介したものではない、それを超越する古の技術体系ロスト・エイジ・テクノロジーが可能とする高次量子通信によるやり取り。電子通信とは根本的に異なる通信を用いる事で、不逞の集団に悟られぬ次元での作戦が進んでいた。


「我らはあくまで、あのフリゲートと原潜の足止めだ! 確かにこのヤクサイカヅチでは役不足この上ないが、相手が与し易い!」


『まさかおんどれと、共同戦線を張る事になるたぁのぅ! 忘れんなや……ガキ共に真っ当な背中見せるためにも、ここで仲違いは無しじゃけぇ!』


「言われるまでもない! ヤクサイカヅチ、出るぞっ!」


『同じくじゃけ! 海中の原潜はおんどれに任せるけぇのぅ!』


 すでに伸された不逞の部隊員を物ともせず、霊装の機体を囮にしてカタパルトへ搬入済みであった疑似霊格兵装が咆哮を上げる。そこには暴君分家零善が駆っていた物とは別個体、密かに配備されていたもう一体のヤクサイカヅチが気炎を撒いていた。洋上施設の海中側防衛をも想定した海戦システムを擁するヤクサ弐式は、あの食堂料理長さえ努め上げた勾玉の当主伯豹が受け持つ機体である。


 突如巨鳥施設アメノトリフネで巻き起こる異変に、完全に不意を突かれた不逞の部隊員は右往左往。それにより反意の愚家烙鳳に命じられていた、機関に動きあらば迷わず艦砲射撃と言う指示さえ後手になってしまう。


「クソっ! 奴ら、大人しく軟禁されていたんじゃないのか! 通信管制では何の動きもなかったぞ!? ええい……あの大型兵装かと思えば、カトンボの様な雑魚機の襲撃――」

「構わん、たった一機にはもったいないがくれてやれ! ファランクス起動の後対空防御! 主砲……撃ちー方始めっ!!」


 遅れる様に、海域を包囲する不逞の艦船部隊からの砲撃が飛ぶが、カタパルトより射出された機体は彼らの想定すらしない小型兵装。さらには戦闘機に匹敵する空戦能力を有するそれに、さしものフリゲート対空砲火も捉えられずにいた。


「無駄だにぇ。すでに電子兵装撹乱と海上艦へのハッキングは終了……もはや進歩しかねる現代兵装では、超古代の叡智が齎す真の科学を超える事はできないにぇ。」


 たった一機の戦略兵装の動きが捉えられぬ事態は、現在制圧完了した司令室で本領発揮したピンクハッカー朱吏々の働きも関係する。さらには――


「海中を侵攻してくる機影あり! 核搭載のハープーンは、天月殿の認可なくしては撃てぬ! ここは戦略魚雷で――」


「ふっ……原潜も、戦略兵装が海中で暴れられる現実には太刀打ち出来まい! そもそも、その様に造られてはいないのだからな!」


 同時に戦略原潜側でも異変が巻き起こる。ソナーに移る影は明らかに小型の機影であり、海洋艦でさえない物体である。驚愕たるその機動兵装は、海中での戦闘を考慮した特殊装備を纏う出で立ち。海中とは人類もほとんど未解明な危険地帯であり、あまつさえそこに存在する水圧の脅威は海中最大の脅威であるが、それは猛然と海中を爆進していた。


 海洋の壁を越えて来る守護宗家の機動兵装は、まさに古の超技術の一端により生み出された隠し玉であった。


 原潜が戦略魚雷を放つか否か、それを察した海洋の雷ヤクサ弐式は纏う装備より双頭砲を展開。そこより放たれるは原潜と同じ戦略魚雷であるが、異なる攻撃効果が戦況を有利へと引き寄せた。


「……っ、これは!? こちらの戦略魚雷より先に、小型の機影から攻撃……しかもこれは――」


 不逞の部隊員も焦燥する攻撃は、原潜を直接狙うものではなかった。双方の中間点で起爆したそれは、海中へ無数の音波の乱反射を生む音響魚雷。潜水艦の要であるソナーの性能を著しく低下させる、海中戦に於ける必殺の戦略武装である。


 そのままソナーは愚か魚雷の目標さえも見失った原潜へ、またたく間に迫る海洋の雷ヤクサ弐式が取り付き艦体へ火砲を突き付け接触通信を試みた。


天月てんげつ家特殊部隊へ警告する。この原潜は、このまま撃ち込めば外郭へ大穴開けられる砲火に晒されている。もう一隻の原潜含めた部隊員はこのまま動かず、我らに従う事をお勧めするが? 返答やいかに。』


 形成逆転からの捕物とりもので、一気に対魔討滅機関アメノハバキリが攻勢へ。それを当然と思考していた暴君分家も、すでにミサイルフリゲート一隻の甲板上、艦橋へ向け火砲をチラつかせいていた。


『カカッ!今じゃ、大輝だいきの妹! ここからが、おんどれらの戦いの場……、その勇姿を見せ付ける時じゃけぇ!』


「はい、零善れいぜんおにーちゃん! ストラフォートレス、シャルーア……イグニッション!!」


 それを合図に、一足先に討滅の大翼シャルーアへ乗り込み準備を勧めていた討滅の妹嬢雪花が吼える。反撃のたすきは大人達から子供達へ。首肯する三人のパイロットオペレーターの心意気が、海中へと展開するカタパルトより光帯を走らせ――



 海原を割る様に、ストラフォートレス・シャルーアが本土へ向けて舞い上がった。

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