memory:102 公開公判、晒される守護の剣
消しては現れネットを賑わせる、草薙家を相手取ったフェイクニュースがその要因であり、今まで国家を守護して来たはずの守護宗家と、それが集う宗家特区へ非難が集中し始めていた。
「草薙の現当主が子供達を拉致したって!? 夕方、その初公判があるらしいぜ!」
「ウソっ……守護宗家って、ずっと国家を守護して来たんじゃないの!?」
「ネットで流れてる……! けどそれが、ウソかどうかなんてどうでもいいんじゃね!? 面白いから見に行こうぜ!」
しかし中には、現代社会の病巣とも言える一部の大衆による深く考えずに相手を晒し上げると言う悪癖も混じり、奇しくも
「……
『そりゃ仕方ねぇさ。今のご時世、相次ぐ世界の荒廃でどこの国の民も不安が限界に達してんだぜ? んでもってその不安が、心に眠る本人の性根を暴き出す――』
『それが他を煽る今に繋がり、さらには面白がる事で不安を紛らわすのが現代人のサガ。最新テクノロジーを使う側が、退化しているとはよく言ったもんだ。ウチのサイバーセキュリティの方でも監視は続行させてるから、そちらもなんとか凌いでくれや。』
「頼みます、
あらかたを想定していた守護宗家。
そんな中でも、社会派分家はある秘策を思考に描く。それは国家権力である警察に加え、民間の有志も巻き込む一大戦略。そのために彼は
「
「今の子供達を目にすれば、きっとそこに関わる方々の心が動く。そしてそれが善意となりて、より多くの大衆の心を動かすはずだ。そうでなければ、この国は……世界は襲い来る異形に立ち向かう事など出来はしない。」
必殺の策へ一抹の望みを託す社会派分家。何のことはない……彼らが行って来た真実を、
守護宗家が後の世、あらゆる対魔任務に於ける活動手段として備える、対魔・防弾・特殊強化が成された様々なスポーツカー。国産外国産問わず集まる百台余りのマシンが、
国産の雄であるスカイラインシリーズにR35 GT-Rを中心に、70・80・90スープラ、ランサーエボリューションシリーズ、インプレッサシリーズと新旧 NSXとSA22C・FC3S・FD3S RX-7達。最強格に加え、S13・14・15にフェアレディZとセリカシリーズに新旧86が。さらにはインテグラにシビックのTypeRやロードスターシリーズが爆音を放つ。
外国産の代表どころではフェラーリシリーズを皮切りに、ランボルギーニにマセラティ。マクラーレンやTTクーペもスタンバイ。さらにはアメリカンなチャージャーにバイパーと、カマロ、マスタングなど新旧シェルビーが総動員される。全ては
「では各員、それぞれのお役目のため……散れ!」
ほどなく、社会派分家の端末通信を皮切りにし、集う力が爆音とスキールという咆哮を上げて駆けた。
†††
その日、暁の国家の首都の南。宗家特区では異常なまでの、スポーツタイプ車両目撃が主要幹線道路で多発した。特区としては始まって以来の事態であるが、事象に対して一切、真っ当な警察関係者は動くことは無かった。それもそのはず……人知れず拡散された情報により、該当車両全てへ宗家に属する特殊部隊が搭乗する旨が伝えられていたから。
それも事前連絡無しでは確認出来ない、特定波長の電波を発する事で、周囲でそれを確認した場合は手出し無用との通達が成されていたのだ。
そうして道路を駆けるそのスポーツ車両の行く先は、宗家でも特区内外のあらゆる場所へ散る
不逞なる分家を穿つ策は、人知れず水面下で動いていたのだ。
「ほう……あなた方があの
「そうですか、それは大変ありがたい。ではこちらへ……。」
人の行いがそのまま力となる、人徳戦術とでも言える世論操作。そこに必須とされる者の所へ自ら足を運び、深々と腰を折る
「……そういう事なら。ボクらも、娘を今まで放置した事を後悔していた所。あんな娘の活躍を目の当たりにしたら、自分達がどれほど愚かな選択をしたのかと。今はただただ、心が痛いばかりです。」
「私も……あの子に誤解させたまま、これ以上辛い思いをさせたくはありません。先日も、すでに流れている動画で知りました。あんなにこの世界のために、懸命に戦ってくれているなんて。ならば私達も、宗家様へ協力を惜しまない腹積もりです。」
「それは彼女も、きっとお喜びになるはずです。あの子のためにも、どうか協力をお願い致します。」
憂う当主の命運を決定付けるはそれ以外ないと、ただひたすらに、そして真摯に……腰を折る。
「……はい……はい。知っています、あの草薙当主の。それでは俺は、あなた方へ協力すればいいわけですね?」
「ご理解に感謝致します。これであなたのご家族……彼もきっとお喜びになるはずです。」
「一つ断って置きます。俺は以前そちらで宣言した通り、守護宗家を今も信用するには至っていません。ですからこれは、俺が大事にしている弟のためです。それだけは勘違いなさらない様に。」
全てが宗家一色とは叶わない。それでも憂う当主を心酔する分家は率先して足を運んだ。
「必要箇所はあらかた回りましたが……残る三人を支える者となると……――」
『心配しなさんな。こちらでだいたい情報は詰めてる。特にあの、更生も順調なボウズには俺達警察がついてる。約束したからな……ボウズが苦しい時、悲しい時にウチを頼れと。んでもって、兄妹の方はこの端末に送った土方の棟梁を当たるといい。』
「彼も伊達に、あの歳で社会に揉まれてはいないと言う所ですか。これが社会人として、信を置ける者へ仁義を通してきた結果、と言えるのでしょうね。この資料、使わせて頂きます。」
『おうよ。んじゃま、後で合流ってことで。』
社会派分家が描く憂う当主を救う起死回生。それは言うまでもなく、子供達が育った環境を形作る周囲の存在。社会派分家は、それまでの機関に於ける活動で垣間見た子供達の真価を家族、関係者らへ向けた映像媒体を通じて公開していた。今まで知らなかった、非日常世界で力強く生き抜く彼らの姿をその目で、耳で、心で感じた家族関係者は大きく動かされた。
社会派分家は、機関に属する子供達が何故そこで戦うかを心で確かめた、最も親しい周囲の言葉こそを決定打として準備していたのだ。
最悪の事態を鑑み進んで行く策。しかし不逞の動きは、その秘策を待つ事などない。
しかしそれに囲まれる護送車へ監禁されるは、これより公開公判を控える
そんな異様な車列を尻目に、一台のバンがひっそりと別の幹線道路へと入り、公判会場となる地区へ先回りするや停車した。一見すれば、その姿は帽子とマスクを被る清掃員の一般男性。男はゆっくり業務へ入る調子で、携帯端末片手に掃除道具と思しき大荷物を雑居ビルまで運び込む。
『分かっているな……我々が公判会場へ着くまでは待機だ。大衆の視線と場の流れを、こちらの有利へ引き寄せる必要がある。だが状況によりタイミングは前後するゆえ、その手筈で動け。くれぐれも余計な真似はするな。』
「あいよ了解。てか、しませんぜ……余計な事なんざ。こっちはただでさえ危ない橋渡ってんだ。んじゃ、定刻には指定ポイントで待機しますぜ。」
エレベーター内で、清掃員であるはずの不審な男は飄々と端末先の怪しき存在とやり取りし、指定ポイントと呼称した場所へ。そこから程なく、大仰に纏められた清掃道具カートから、分解された狙撃銃が取り出された。因果はクルクルと回る――
憂う当主の命運と地球のために戦う子供達を巻き込み、ただ
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