memory:100 研ぎ澄ます剣は、誇り高き子供達
それは
「
「ミサイルフリゲート……!?
「そ、ソナーですか!? 了解、周辺海域へソナー探知開始します!」
施設司令室へ緊張が走る。
さらに、艦影がミサイルフリゲート艦と察するや
間もなくそれが、揺るがぬ事実としてモニターを占拠する事となった。
「……っ!?
「
放たれた言葉へ、司令室で状況を把握した全ての機関員が戦慄した。それは本来日本国でさえも所有を禁じられている現代の悪夢。用いられ方によっては人類の社会を脅かす兵器。否――
すでに、それが同胞へ砲を向けるべくして現れた時点で最悪の想定である。
だがそんな戦慄へ、さらなる戦慄を上乗せする声が宗家秘匿回線で響き渡る。本来宗家内の勢力でやり取りする暗号通信のそれを、事も無げに使用する時点で正体は明らかであった。
『これはこれは、日本国特務機関へ昇格されたアメノハバキリ方、多く語らずとも知る所だろうが……我が名は
『なかなか驚いたぞ? わざわざステルス艦まで準備したと言うのに、対人類用の警戒網がここまで穴だらけとは。』
「御託はいい。
『くくっ……お前のそういう切れすぎる頭脳が嫌いだよ、
司令室モニターを占拠する男は、憂う当主とさして変わらぬ年代ながら、双眸へ途方も無い野心を宿す曲者である。が、薄いグレーのジャケットを悠々と羽織るその出で立ちは、とても先代を討たれた復讐に動いているとは言い難い雰囲気を醸し出す。
そして――
その時彼から宣言された言葉を皮切りに、
『残念だが、我らもあの異形共の餌食になるのはごめん被る所。こちらの要件を速やかにお伝えするとしよう。
『国家の未来たる子供達を拉致監禁し、巨大機動兵装などと言うもののパイロットに仕立てて使い潰すと言う、非道なる仕打ちを始めとした諸々の、だ。』
その一部始終を、止めどない憤怒宿し聞き及ぶ子供達がいる中で。
†††
司令室へ詰める
「すでに
「が、非常事態に備えて
冷静な面持ちで語る聡明な令嬢。それを驚くほど素直に聞き入れる子供達がそこにいた。それは至極当然……自身の最愛の夫が、危険極まる策の渦中へ飛び込むのを、黙って見ているしかない女性がそこにいるから。
己の感情を律し、今後の詰めを進めて行く聡明な令嬢。それから程なくして、子供達は解散となり各員は第二種警戒待機へと移っていた。
その彼らが待機中――
「奴らがここを容易く使用できない事は、観測者権限事項からも確認済みだ。だがそれ以前に、施設の機能不全を異形に狙われれば、この地球は簡単に深淵の餌食となる。」
「当然じゃけ。あのクソボケ共はそんな事すら分からんけぇのう。じゃが、それを指を加えて見とる訳にはいかんけぇ。ワシらでそれなりの対応は、しとかんとのぅ。」
暴君分家が口にした不仲が嘘の様な会話。それは一重に、自分達が絶対の信を置く男に対する畏敬の念から来る同調である。憂う当主へ降りかかる火の粉あらば、その身を以って払うとの覚悟さえ宿す程の。
最深部となる場所で、互いの役目を擦り合わす宗家の懐刀達。だが――
彼らにとっての懐刀は他に存在していたのだ。
「ストラフォートレス シャルーア、準備は良好か? その第二格納庫は、正規のやり方で存在を判別するのは困難だが、機体の起動タイミングによっては外の原潜に探知される恐れがある。指定した合図のあるまで、そこで待機だ。いいな?」
『了解であります、
『こっちも準備完了でやがります。せっかくの有事に有効な海中出撃が、厄介な原潜のせいで利を削がれるでやがります。あちらの戦闘能力はともかく、こちらの存在を悟られるのがネックでやがりますからね。』
「それだけ理解しとりゃ上等じゃけ。すぐにパイロットのガキ共は動けん……ならあとは、そちらに任せるけぇの?。」
それは言わずと知れた
そこには、令嬢が発した巧妙な暗号話術から来る指示が生きていた。
「
「ならば君達へ、草薙が誇る二人の司令塔からの指示を代行させてもらう。早まった真似をしない様、我ら宗家の指示に従い緻密な戦略計画のもと、繊細且つ大胆に今後の作戦行動へ移れ。」
「カカッ、ものは言い様じゃ! 確かにそれは、早まった真似じゃないけぇのぅ! 指示の元計画的に動くならば、早まって詰む様な事にはならんけぇ! ここには宗家でも、暗部事案を幾度も経験して来たワシらがおるんじゃ……気張れやガキンチョ共!」
『『はいっ!』』
暴君分家の言葉通り、裏で巻き起こる巨大霊災に関わる暗部事案は、そんな物を軽く凌駕する極めて危険なミッションである。それを国家が形成されてから今までの長きに渡り熟し、守護を成し続けたのが三神守護宗家であり、その新進気鋭が彼ら機関の大人側勢力なのだ。
程なく、
チャンス到来時に最大の動きが出来るよう、反撃の牙を研ぎ上げながら。
†††
施設中央塔の先端へ、霞の如く現れた偉大なる魔の存在。その双眸へ映る一部始終は、その存在へ想像を絶する憤怒を宿させた。
「彼はボクの様な存在を友として扱ってくれた。それはこの数万年の時を振り返っても、かの光との大戦以外には経験した事がない。あの光の勢力へ異を唱えた最高位
「その類まれなる尊き存在を貶めると言うなら、人類の底辺の底辺……愚物たる
憤怒がやがて、誰にも気付かれない高次元にて猛烈に収束し、異形の気配を創造して行く。しかしそれは、
己を大切な友人として慕ってくれた者へ、事実上最後となる手向けを贈るため――
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