memory︰98 小さな輝き集うアメノトリフネ
緊急会議ともいえるそれを終えたボク達は、それぞれの学生ルーティンを熟しつつ、その間に対策となるあれこれのためバラバラに駆り出される事となっていた。けれどもう、絆繋いだ家族宣言をした様なもの……当てられた仕事へ文句をつける者は誰もいなかった。
「このアメノトリフネに、
ボクの担当は、トリフネ施設に内包されるロスト・エイジ・テクノロジー上の物理制限解除。
「……
思わず溢れた言葉に反応する
『うぉい! おめぇーらちゃんと、シュリリンたんの指示は聞いてるんかぁ!? その物理解除システムは、二人が息を合わさねーと開かにぇーんだよぉ! しっかり呼吸を合わせるにぇ!』
「うおっと、やべぇねーさんが激おこだ。さっさと済ましちまおうぜ。」
『やべぇねーさんってシュリリンたんの事ぉ!? でゃまれよぉ、オメェ!』
『そうです、でゃまれよぉ!』
「ナルナルまで便乗してるし(汗)。そうだね、さっさと済ませよう。これ以上刺激したら後が怖いよ……。」
施設の生体認証は、この時代のストラズィール搭乗の叶った子供達の物である事が必須と聞いてる。その経緯から、成人未満で生物学的にロボット操縦を成せる世代と言う制限の中、選ばれたボク達。なるほどどうりで、大人達が安易にシステム掌握できないのだと納得がいった。
きっと
今まで考えた事もなかった思考に占拠されるも、生体認証は速やかに進める必要ありと、巨大な設備の前にある古代超技術の光り放つ承認ウインドパネルへと手を置く。
後方では、シュリリンたんさんが到着を見た途端に静かになった
「でもこんな交流がいつまでも続けば、きっと楽しいんだろうな……。」
「んあ? 何か言ったか?」
「ああ、ごめん……なんでもない。すぐこれを終わらせよう。」
そんな非日常の、和やかに刻まれる光景を他所にポロリと漏れた言葉は、きっとボクにとっての成長の証。自分が今まで味わって来た苦しみが、心の底から払われて行く様な感覚と共にそれを感じていた。
だからこそボクは、解除パネルへ手を添えた時決意したんだ。こんな日常を脅かす脅威があるなら、その時こそこの技を、そして拳を正しき事に振るうと。ボクを心配してくれた友人と、暴力を振るう前の穏やかで誠実だった父さんの誇りにかけて。
けどそんな想いが、僅か時を置いてまさか同胞へ向けられる事になろうとは予想もしなかったんだ。
†††
おにーちゃんにおねーちゃん達が、トリフネ施設各所でのアップデートに駆り出されていた時。シャルーアの機体調整を終えたばかりの私は、沙織おねーちゃんやウルスラさん達姉妹と共に、皆さんへ食による支援をするため食堂へと陣取っていました。
「……あの、
「こればっかりはサオリーナに同感でやがります。まあウルスラ達は、すでに周知の事実でやがりますが。」
「ですの……。確かに現在、アメノトリフネ内では人員不足による任務兼任が必須の状況でありますが――」
「そこのお嬢方、愚痴っている暇があるなら手伝え。トリフネアップデートのために人員が割かれている今、手空きの人員を余す時間はないと思え。」
「あの……
の、ですが――
その私達へ、まさかの想定外が襲っていたのです。なんと機関大厨房でたすき掛けと共に、先の厳しい視線のまま炊きたてごはんを手に取るや、こんまりとしたおにぎりを握り続ける
何が凄いって、当然ギャップも大変な事になってるのですが、塩加減と豊富な具材にごはんの適切な配分に加え、ふんわり柔らかでいながら手にしても崩れないほかほかおにぎりが整然と、あっという間に大皿へ乗せられて行く光景。しかもどう見ても、ただのおにぎりではない至高の絶品が、高級料亭の食事の如く生成されていたのです。
目を疑うとはまさにこの事でした。
「さあさあ皆、
「それってどういう――」
「サオリーナにゆーちゃんは知らないでやがりますから、ウルスラが説明するでやがります。あの方の社会に於ける体裁は、宗家内でも知る人ぞ知る有名な最高級日本料亭の板前でやがります。」
「調理師免許に栄養士資格所得は当然で、それでいて他人のあれやこれやにうるさい
「あ〜〜(汗)。今の施設は人手不足だもんね。いろいろ理解したよ、ウルスラおねーちゃん……。」
「……宗家って、大輝の言う通りなイロモノ集団っぽい。」
ウルスラおねーちゃんが言う事には、つまりそういう事なんです。語彙力がなくなりそうですが、とても凄い板前さんの出生で、相手構わず
イロモノは確かに聞こえも悪いけど、言い換えれば特定の能力に特化した精鋭が集結してるのが守護宗家であり、きっとその誰もが協力を惜しむのを
それこそが、
「あなた達ならば気付くでしょうけど、これこそが
そんな私の思考を察した
「アオイ嬢、具の分量が多い! それでは食感の黄金比が崩れるだろう! ウルスラ嬢はそもそも力を入れすぎだ! 石のおにぎりでも作るつもりか!」
「「おっ、おにぎり奉行〜〜!?」」
まあそんな重い空気を、笑ってはいけない
失いたくない、手放したくないと思える仲間と家族。笑いでこみ上げる涙は、辛い日々におにーちゃんに見つからない様、密かに流していたものではありません。楽しくて、嬉しくて……そして幸せに満ち溢れた私達兄妹の新しい人生――
それを奪おうとする人がいるならと、私も覚悟が決まったんだと思います。
そうしてアメノトリフネで、
短い間だけれど、私達が手にした大切な全てを脅かす非常事態が――
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