memory︰97 反意の刃は研ぎ澄まされて
今後を踏まえた会議とか言うのに参加した、俺達ストラズィールパイロット。こちらとしては、そういった頭を使う
そんな所へ
「……お前よぉ、俺達の司令塔だろ? あそこであの
「う、うるせぇよ(汗)。つい熱くなっちまったんだ……俺もこんな事初めてさ。だからそこまで読みきれなかった。」
「はぁ……まあいい。俺の意見だけどよ、端的に言って俺達……計られた感じだぜ? あいつは相当切れる御家の勢力だ。
思考した全てを、お先走りヤロウへと忠告しておく。絶賛今後の対応検討最中だけど、俺は大半が難しい事だらけな訳で、あとからこの司令塔の役目な
「その通りじゃけ。流石は
そこへ被せるのは、今しがた機械扉の排圧をバックに会議へ重鎮出勤した
つか師匠、あんた重鎮出勤だからな?それ。
「取り敢えず
「やかましわい。おんどれあいつが、ワシと犬猿の仲と知って言うとるじゃろが。奴がワシを視界に止めた日には確かに口撃は止もうが、今度はワシへの視線が面倒くさいぐらい痛いんけぇのう。」
重鎮出勤な点へ言及したかったが、
確かに奴
そんな俺の思考を他所に、空いた席へどっかと座すや大あくびをかます師匠の、なんと自由奔放なことか。けど、同時に気付いた点もある。それは師匠となった男の一挙手一投足が、俺のあらゆる学びになっている事。恐らくそれは、彼が意図して見せてくれているモノとも感じていた。
それこそ昔の職人
テメェの身体を張って学び取らなければ、命を取られるのは自分自身なんだ。
知能面での難事は、きっと
そして俺の決意を他所に、小難しい会議は重要点の洗い出しに対策へと移っていった。
†††
内部に広がる広大な空間。その一区画、無機質な機械装飾からなる内装は、おおよそ現代文明の範疇から外れた古代技術に包まれる。本来然るべき存在からの許可無くしては、使用さえままならないはずの光景が広がる施設。そのドックとなる場所へ入渠する、二隻の大型艦を見やる
「ようやくお目見えか、旧米国政府協力の元作り上げた新造艦。本来この国にはない動力で動く、我ら
「天月式・戦略原子力潜水艦 黒龍型、その壱番艦〈
その口から漏れ出た言葉は、同国の民が聞き及んだなら戦慄を、そしてとめどない憤怒を覚えてもおかしくはない禁忌の名。技術レベルこそ
同ドックへすでに鎮座する、数隻のステルス・ミサイルフリゲートにも劣らぬ艦影は全長170mほどか。それを眺める反意の愚家は恍惚の中にあった。
そんな愚家を視界に止めた影が数名、
「これは
「ああ、これはこれは。はるばる自衛隊を裏切り我が配下へと下った、日本国民の外れ者……元海上自衛隊二佐の
「お戯れを……もはや昔の事。それに裏切ったなどと穏やかではない。私はそもそも、この国家……引いては政府官僚の成れの果てに嫌気が指した。それだけであります。」
数名の影を代表する者が一層
愚家眼前の初老は、見かけの歳に似合わぬ筋骨隆々を地で行く体躯。頬から
そこからは無言でドックを見やる者達。不意に言葉を発したのは、篠井と呼ばれた不逞の従者であった。
「しかしあちらは、古の技術を
「おや? 元自衛官ともあろう方が、敵の戦力を技術格差から来る優劣で図ると? 我々は何も、あの古代の化け物共と事を構えるつもりなどありませんよ。要は脅し――」
「この世界の抗争がそういった脅し脅されで成り立っている事実は、あなたもお分かりでしょう。どれほどキレイごとを並べ立てた所で、人の本質など飾り立てる事はできない。脅しに屈した方が、勝利者の前に
ツラツラと語る口元から、醜悪な人の本性が吐き捨てられる。されど現代社会、あらゆる人の対立を構築する本質はそれである。
「かつて聖なる書物で記された光と闇の争いは、即ち霊長類を謳う生命の精神面に於ける葛藤を指すのですよ。脳幹奥底に眠る獣としての本質を、抑制するために生まれた理性と言う生物学的霊防壁を失った時――」
「人は止めどない強欲のまま他者を淘汰し、蹂躙し、己こそが頂点と吠えて闊歩する。そうやって、霊長類が崇高へ至るために得た生物学的ギフトを、何を履き違えたのか、愚かな現代人は弱肉強食絶対論へと変換し行使する。それほどまでに堕ちた民すら守護しようと言う宗家機関など、もはや不要の存在と言えるでしょう。」
横行に両手を開いて語る反意の愚家は、哲学めいた言葉の羅列を一頻り
「あの
愚家に引き連れられる影の集団。歩きざまに語られる公開演説を、否応無しに聞かされる彼らはただ無言でそれを耳に刻んでいた。
「事を一気に進めるためにも、あの草薙当主は邪魔以外のなにものでも無い。ならば奴を表社会の法律による裁きにかけると見せかけ、ヒットマンを差し向け命を奪うとしようか。その後でゆっくりと、神世の技術とやらでも拝見させて頂こう……ククッ。」
吐き捨てられた言葉の羅列は、もはや宗家を名乗っていた頃の格式など欠片も存在していなかった。正しくその姿は、人の闇が集約した強欲の権化――
だが、訪れるであろう機関最大の危機を、憂う当主を始めとした者達はまだ知らずにいたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます