memory:91 遥かなる異界の友として
異界の魔王閣下を子供達と
「やあ、楽しんでくれていて何よりだね。まさかあの紫水が、この地球文化に心奪われるとは思わなかったけれど。」
「そうか、やはり君の身内だったんだな。紫の文字を冠した時点で、なんとなくは察していたよ……
その展望施設の柵へ
そして問うた紫の名を冠するの下り。それを口にしたオレを見やり彼が返答する。それも微笑の中に深い憂いを乗せた眼差しで。
「すでに察してるなら話しは早い。
「遥かなる
「……っ!? ふぅ……まさかとは思っていたけれど、話が壮大過ぎて一般人上がりのオレでは、流石に理解を追いつかせるのに時間がかかりそうだ。」
そうして語られる下りで、突如として遥か神代の時代に飛ばされたかの衝撃を受けた。端々に、この世界へ伝わる書物の下りが事実無根である感を匂わせる内容は、本人達が口にしている時点で疑いようもないだろう。
ただ、家族と言う単語には多いに興味をそそられる事となる。
オレ達アメノハバキリも現在、社会から弾かれた子供達を受け入れる家族ぐるみの生活の只中。正直、他人事とは思えなかった。
「それで、ここに現れたって事はまた、友人として親睦を深めるための遊楽に洒落込む算段かい?紫雲。」
そんな思いを秘めつつ、彼がまたオレの眼前へ現れた点を言及しておく。けれど――
直後響く言葉は、予想から外れた回答だったんだ。
「いや……君との交友は確かに貴重だよ。ボクもまた、君とこの大地で様々な事を楽しみたいと思ったさ。けど現実問題、ある時間が差し迫っている故、そろそろ君の傍からお
返された言葉へ、止めどもない悲しみが込められていたのはオレでも理解できた。そう……理解できたからこそ、反射的に彼が言い終わるのを待たずに答えを返していた。
「ならばこうしよう。せっかく紫水嬢とロズ君もここに揃っている。ならば少しの間……異形がまた侵攻して来るまでの間で構わない。紫雷にシザ君もアメノトリフネへ呼んで、歓迎も兼ねた交友会を開催しよう。当然、
自分の言葉に被せられた提案で、豆鉄砲を食らった様な異界の魔王閣下は、存外に同年代の青年らしく見え苦笑が漏れてしまう。それを悟ったのだろうか、苦笑を返す偉大な魔王閣下は少し間を置き――
オレ達人類と、なんら変わらぬ笑顔で以って応答してくれた。
「君は本当におもしろい人類だ。いや……だからこそボクの様な者へ、友人として接するのも厭わないのだろうね。では今度は、ボクが君の提案に乗る番……堅物で知られる
きっとそれがオレと
†††
日を
「事のあらましは、炎羅殿から聞き及んでいる。しかしロズも流石に、これは理解の範疇の外だぞ?地球の戦士達よ。」
「あーなんだ。その戦士達ってのやめね? 堅っ苦しいつーか、余所余所しいんだが。」
「そうだね。僕達もそんなに大層な存在とは思っていないから。」
「全く……会話の度に地球の友人らから突っ込まれるとは。じゃから器が小さいと言うておろうが、この
幼将と魔太子を囲むは、
「紫水ちゃん……そこへ器って関係なくないっぽい??」
「ゆーちゃんは、紫水ちゃんが素敵な上司さんな感じがする。」
「魔族に上司とかないだろう。まあ、言い得て妙だけどな。」
「この族さん、族さんな割に語彙力に長けてるんですが。私的にはそこにビックリ仰天……ヒッ!。」
それは先の宵に、日を跨ぐのも構わず日本国文化を堪能した
そんな流れから、幼将閣下もご所望となった子供達との交友会延長であった。
同じ釜の飯ならぬ、同じ店のスイーツで交わした光と闇の交友は、見事に種族の壁を打ち破る事に成功する。妖艶な幼将と驚くほど馴染む子供達の中、どさくさで
だが彼らが待ちぼうけるそこは、機関外来客用に準備された一室。それと引き換えに忙しなく動く機関員が、モニターへと映る不思議な状況が訪れていた。
『紫水ちゃんはそこでちゃんと、皆とのお話に興じるでやがります! こっちは早急に準備を進めるでやがりますからね!』
『もう、おねーちゃんは! 紫水ちゃんが許してくれてるからって、礼節に欠け過ぎですの! あ、アオイも絶賛魔界の皆さんのために、鋭意準備中ですの!』
「うむ、よしなに頼むぞ! 規定時間には、紫雷らもこの施設へ訪れる手筈……じゃがもしその間に不逞らが現れた日にはこの紫水が、記念すべき人類と魔族の交流を邪魔立てする愚物へと裁きを叩き落としてやるぞえ!」
『よろしくであります! 姫リーナも、準備に勤しむであります!』
機関子供達が魔族勢力と待ちぼうけるは、
ついぞ洋上バーベキュー歓迎会を開いた所の、まさかの連続催し開催となっていた。
「やあ、暫くぶりだね……二人とも。地球は光の人類方と、上手くやっている様でなによりだよ。」
その来客室へ、排気音と共に開かれた扉越しに現れる二つの影。その一方の声に気付く魔界勢が、飛び上がる様に床へと膝を付く。
「ししし、紫雲様! この様な所までご足労頂き――」
「ゔぁっかもん!
「はは……。紫水、そしてロズウェルが息災で何より……色々と世話をかけているね。ボクも感謝しか浮かばないよ。ありがとう、我が高貴なる家族達。」
「「ははぁっ……!」」
憂う当主がそこへ引き連れたのは、霞の如く俗世へと現れ、世界を憂い、そしてまた霞の様に消えていた存在。
突如として現れた存在を初めて目にし、機関の子供達も息を飲む。今まで接して来たどの魔族よりも、強大且つ崇高にして汚れなき魂に圧倒された故に。だが――
同時にそこへ、自分達が強き信頼を置く憂う当主の様な、揺るぎなき信念と数多を包み込む慈愛をも感じ取っていた。
「我がアメノハバキリの皆には、紹介がまだだね。一先ずは彼が、ストラズィールのパイロット達を一目拝見したいとの要望で、ここでの目通しをすませておくよ。彼は魔界勢……オレの親友である紫雲だ。よろしくたのむよ。」
子供達が言葉も狩られる中、憂う当主は口にした。魔界勢のいる眼前で。そしてその言葉は、何ゆえ彼が突然、交友会などと言う企画をぶち上げたかを、魔界勢へ理解させる事となる。
放たれた言葉で、現在魔界勢のみが知りうる、掛け替えのない兄弟のあまりに凄惨な因果が脳裏を過ぎった二人は――
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