memory:90 光と闇の星間交遊録

 その街並みは、首都であるトウキョウと並ぶ綺羅びやかさを持ちながら、裏では日本国家の守護成すための全てを集結させた街。


 ――宗家特区――


 現在建造中となるメガフロート部分を含めて、それらを一手に束ねる三神守護宗家は、特区内へあらゆる都市防衛機能を詰め込んでいた。


 そんな街で育った子供達。けれど社会の構造から、不適合と弾き出され対魔討滅機関アメノハバキリに見出された子供達は、再びその足で住み慣れた街へと舞い戻る。が――


 その居並ぶ顔には、かつて社会に絶望していた雰囲気など欠片も存在はしていなかった。


「おおっ!? こ、これが施設なるものか!? と称するこの様な……こんな子供騙しの児戯で、わらわが敗北などあり――あっ!?くぬっ、くぬっっ!!こやつめがっ!」


「あははっ! だめだよ紫水しすいちゃん、そんなに無計画に突っ込んだら。相手さんの餌食だよ?」


「浅はかですね、紫水しすいちゃん。――な、なにするですか!?」


「いいから……(汗)。今日はかっ……じゃなくて、紫水しすいちゃんが主役だろ? ちょっと引っ込んでおけって。」


 憂う当主炎羅の根回しにより、すでに営業時間外であるはずが、無数の証明で煌々と店内を照らされるアミューズメント施設。しかし、一般客はご遠慮願うの張り紙とともに貸し切られるゲームコーナーの一角にて。かの天楼の魔界セフィロトよりはるばる足を運んだ妖艶な幼将紫水が、シュール過ぎるゲーム筐体とのコラボ光景を見せ付けていた。


 宗家でも珍しい、要人御用達の長いリムジンで送迎されると言う待遇の中。機関の家族となった子供達は、この特区を楽しまんとする妖艶な幼将を案内すべく施設内へ。そこで発見したゲーム筐体で、子供の様にはしゃぐ閣下を見やりながら嘆息と共に微笑を交わし合う。


 そこにはまだぎこちないながらも確実に、今までの絶望から前へ向け歩き出す子供達の姿があった。


「おおっ、これがと言う化粧の小道具なるものだな!? どれどれ……このわらわの美貌を更に美しく輝かせるものとは一体――」


「って、ああ! 紫水しすいちゃんそれ、勝手に開封しちゃだめっポイ! てか、開けるだけで物凄い音したんだけど!? それにまだお会計が……ああ、そうか。これ全部炎羅えんらさん持ちだからいいのか。いいのか?」


「開封の瞬間「バキッ」って音したね……(汗)。まあ炎羅えんらさんが手回しして、どこでも入店出来る様にしてくれてるんだ。それに紫水しすいちゃんの身分に文化の相違を鑑みたら、全部些細な事で片付けられるんじゃないかな。」


「う〜〜ん(汗)。ゆーちゃんはいつも、お会計を必ずしないと商品の開封とかしないから、少し罪悪感……。」


「気にすんな雪花ゆっか。郷にいればなんとやらだ……そもそも炎羅さんあの人が絡んでる時点で、気にする必要もないだろうぜ。」


 場所を変え、ショッピングモールへ移動するや化粧品へと食い付く点は流石の色欲の魔王。見た目がすでにである彼女も、人類の生み出したコスメティックには興味津々。会計もぶっちぎる勢いでする彼女を、オシャレ担当な貫きの少女沙織が慌てて制する光景。


 しかし、自分を見て欲しいあまり悪い手癖を披露していた少女が、それを制する事にこそ意味があった。


 異界の魔王閣下を迎えるていではある。あるがその日、かつて社会から弾かれて来た子供達が、再び日常へと戻ったのは事実。そこで、今まで自分達の居場所さえ失い彷徨っていた頃とは明らかに異なる、輝きに満ちた時間を彼らは過ごしていた。


 それを知らず、しかし彼らとの交流こそが光との友好を築く証と踏んだ妖艶な幼将は、さらに宗家特区の街中へと繰り出した。憂う当主と、離れて獰猛な野獣ダッジ内で護衛に付く暴君分家零善が視線を交わす中。



 時間が深夜に移ろうと、その行脚は続くのだった。



 †††



 一頻ひとしきり遊び歩いた妖艶な幼将紫水を迎える一行は、宵闇にLED証明で照らし出されるフードコートへと足を運んでいた。が、魔族側の生態を鑑みた暗がりに集まるは、致し方なしの光景とも言えた。


「あのと言う光源は、ささやかながらに光量子フォトン・クオンタムが混じり込んでおるのぅロズ。まあ、あれぐらいならわらわらでも――」


「いえ、紫水しすい様。大事を取るに越した事はありません。その……ゆーちゃん、だったかな。ここでは紫水しすい様へ、どの様なモノを勧めてくれるのだ? 確か光の人類世界に於ける、食と言う文化だそうだが。僭越ながら、その様なモノを軽々しく紫水しすい様のお口へ――いたっ!?」


「こんのたわけ者がっ! ゆーちゃんが善意で勧めてくれる所へ、何と言う失礼で返しておるかぁ! このわっぱめには、少しきつ〜い仕置きの必要があるのぅ! そこへ直れぃ!」


「あ、だめだって紫水しすいちゃん! そんなロズ君を責めないであげて! 彼も、紫水しすいちゃんを慕うあまりの行動なんだから!」


 しかし、妖艶な幼将と温和な魔太子ロズウェルの問答は相変わらずの騒がしさ。案内役に選ばれた討滅の妹嬢雪花も、嫌な汗が噴き出す中での対応に迫られていた。


 それを生暖かく見守る先輩な機関の子供達。中でも女性陣の視線は、その光景を眺めていた。


「あら〜〜(汗)。これはおにーちゃん云々以前の問題っポイ。そこに辿り着くまで、いったいどれだけ時間を要するやらだわ。」


「また意見が合いましたね、サオリーナ。紫水しすいちゃんの仲介も、いささか激しさでカラ回ってますよ。サオリーナの言う通りに、時間を要する所ですかね。」


「サオリーナではないけどね。」


 女子陣ならではの観察眼で、いじり合いを混ぜながらの会話に終始する穿つ少女音鳴貫きの少女沙織。それを耳にする男子陣に至っては、まさかの三人揃って「……?」と首をかしげるを披露していた。


 それから程なく、完全貸切なスイーツ店よりお声が掛かり、妹嬢と魔族組を席に残した男子陣が商品受け取りに出向く。それぞれのトレーに、各種クレープ、カップアイス、様々な味のドリンクと。ここぞとばかりに盛り付けらたスイーツパラダイスを、ぞろぞろと運ぶ男性陣は揃ってパシリと化してしまう。


「今日の俺達、すげぇ損な役回りじゃね?」


「文句はなしにしよう。そもそも、魔界の魔王閣下がおいでなんだから。これぐらいのは、日本人にとって誇るべき行いだよ。」


闘真とうまの言う通りだ。駄弁ってねぇで、さっさと運ぶぞ。」


「……なんで大輝だいきはそう手慣れてんだよ(汗)。」


「日に日にのバイト掛け持ちを舐めんな。接客業も俺のバイトの範疇だよ。」


「マジかよ……ないわー(汗)。」


 見定める少年奨炎打ち砕く拳士闘真修羅の剣士大輝もまた自分達の不遇をネタに弄り合う。が、始めはバラバラであった彼らは少しづつではあるも確実に、掛け替えのない家族として歩み寄っていた。


 そんな光景をチラ見する幼将は、皆に気付かれぬ様に全てを見定める。光が組織した機関で手を取り合う、若き未来の可能性を。そして――


「な、なんじゃこのとやらは! この、周囲の生地の甘く薄くふわふわな食感に包まれた、蕩ける白の甘味の雪! それを活かす様に、程よい舌触りが心地よいとか言うモノ達の饗宴! これは……これは、う・ま・い・の・じゃーーーーーっっ!!」


「魔王閣下がガチ食レポとか、なんつーシュールな場面だよオイ(汗)。」


「いいじゃない、おにーちゃん。紫水しすいちゃんが、とっても喜んでくれてるんだから。」


「まあ、接客バイトの深夜ファミレスで、調、クソッタレバカッター民に比べりゃ全然いいか。」


「えっ? おにーちゃん、ファミレスでもバイトしてたの? でもその人達って――」


「んあ? 当然見つけた日に、二度と同じ真似できねぇようボッコボコにしてやったぜ? 店から出た後、離れた場所でだけどな。」


「……もう、やっぱり。メッチ、だよ?おにーちゃん。」


 仲睦まじき兄妹と、子供達が織りなす異界の幼将閣下オモテナシが続く。遠目に彼らを見守る、憂う当主炎羅暴君分家零善が周囲警戒に当たる中で。


「彼らの心の壁が、日に日に薄くなっているのは僥倖ぎょうこうだな。そこへ紫水しすい閣下が絡むのはある意味、我が機関としても好都合。だが――」


「ああ、気ぃつけろや炎羅えんら……奴らが動いとるけぇ。おどれが言う通り泳がせてはいるが、けぇのう。用心しとけ。」


「忠告痛み入るよ。ふぅ……今日はやけに蒸すな。少し任せる。」


 彼らは異界の要人警護と共に、周囲へ視線を飛ばすは当然、。さらに距離を置いた場所には、銀嶺の弾丸スープラを駆る社会派分家宰廉と宗家特殊部隊が、不逞の輩へ目を光らせていた。


 念入りな警護を確認した当主は、僅かに感じる気配を察するや席を外すと――



 、人ならざる気配を感じた方向へと足を向けた。

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