memory:87 三つの心、討滅の翼で天空を支配せよ!

 日本本土へ向け、異形の魔艦が隊列成して飛ばんとした時。討滅の大翼騎シャルーアが三機の巨大リング状装置を起動させた。


 刹那、そのリング中央へと形成された高次元の膜は、光学的な明滅と激しいエネルギー放射を伴う次元振動を発生。そしてなんと地球上の位相空間とも言える次元を経て、巨鳥施設アメノトリフネから三機の霊装機神ストラズィールを空間転移させたのだ。


 その時代に於ける科学的見地からしても、巨大な重力源領域内での大質量物体の移動は極めて困難である。正しく、いにしえの超技術の恐るべき一端が見せつけられた形である。


「ゲイヴォルグ、ガングニールにフォイル・セイラン……空間転移を確認したでやがります! 姫リーナ!」


「了解であります! 各機神へコードを転送……GEカノン、GGキャリバー、守りがなめ一式のシステムをアップロード!」


「行くでやがりますよ! ストラズィール外部専用兵装 マシン・フェアリーパージ! ナルナル達……持って行きやがるです!」


 そして機体の到着を確認したポニテ姉ウルスラがシステムを立ち上げ、娘三尉姫乃により各機体への外部専用兵装コードが放たれた。ここからが――


 霊装機神ストラズィールと呼ばれた神代の機体の、本領発揮となる戦いの始まりでもあったのだ。


「アイ・ハブ・コントロール! これ一度言ってみたかったんですよ、私的に!」


『……あたしはよく分からんけど、このまま合体すればいいんだね!?』


雪花ゆっか、敵はあいつらだな!』


「そうだよ、おにーちゃん! 他のお船みたいなのを三隻、魔族さんが相手してくれてる!」


「イレギュレーダは艦隊を成し侵攻しています! こちらの二隻は、我らアメノハバキリで対応せざるを得ません! ですがあなた達とストラズィールが……トリフネで苦楽を共にする皆が協力すれば対応もなるはず! 落ち着いて挑みなさい!」


 地球の対流圏と言う場所で、仲睦まじき兄妹は想像もしない巨大機動兵装による共闘を演じる事となる。当然、同じく家族である穿つ少女音鳴貫く少女沙織も、である。


 討滅の大翼騎シャルーアからパージされた武装妖精マシン・フェアリーが天空を舞い、機神各機側へ伝達されたシステムコードに合わせて飛来。そしてバックパック形状へと構造を変化させつつ、無線量子誘導を経てそれぞれの専用武装が纏われた。


『凄っ!? 機体の機動出力が、っポイ!?』


『マジですか!? 3倍……なんと言う素敵な響き……って、そんな事してる場合ではないですね! 族兄さん!』


『普通に名前で呼べや! じゃあ俺と沙織で突撃するぞ!』


 同時に、各武装へと備わる大気圏内飛行機能強化を成すシステムで、機動力が全体で底上げされる。さらには強襲突撃が基本戦術となる貫く戦騎ガングニールに於いては、少女の目にした通り吊るし状態からして、3倍にまで引き上げられていた。


「残る霊機戦力が必要か否かは、あなた達の戦いを参照とします! ではまず、音鳴ななるさんはフォートレス シャルーアの上部甲板へ! 射撃体勢で固定後、支援狙撃を!」


『その機体の名前はシャルーアですね。いい名前です。了解……こちらゲイヴォルグの音鳴ななる、シャルーア甲板で狙撃支援に移ります。』


「次に大輝だいき君は、守りがなめの防御障壁を展開! 想定を上回る巨大霊格以外の対象には、極力エネルギー消費の激しい霊撃を避け、その防壁で守りに徹し機をうかがう様に!」


『分かったぜ! 零善れいぜんさんも言ってたな……霊撃は一撃必殺故に、使う相手を選ぶって! それでなくても、ムラマサは振るうだけでかなりのエネルギーバカ食い……防御に回るぜ!』


 大翼騎甲板上へ穿つ戦騎ゲイヴォルグが陣取り、守りの要として討滅の戦騎フォイル・セイランが前衛へ躍り出る。そして――


「沙織さん、訓練の成果……見せる時ですよ!」


『はい、分っかりました! ガングニール、とーつーげーきーーっ!!』



 機械的な知識で劣る分、機体の性能を必至で身体に叩き込んだ貫く少女沙織が敵魔艦へと接敵したのだ。



 †††



 目の前に迫る魔艦を追い越す様に、急激な加速と停止を繰り出したシャルーアは、間髪入れずに古の技術による空間転移ゲートを展開。それを通り援軍として駆け付けてくれたのは素敵な家族達――


 大輝だいきおにーちゃんに、音鳴ななるおねーちゃんと沙織さおりおねーちゃんでした。


 けれど、シュミレート時間も僅かなゆーちゃんは気後れしながらの対応でまごつき、それをフォローする様に二人のおねーちゃんがオペレーションアシストをくれます。


 すると事前知識にあった、遠隔武装バックであるマシン・フェアリーが各機体へと飛び、シャルーアと敵艦の間へフォイル・セイランとガングニールが。そしてこちらを足場にするため、機体甲板へと取り付くゲイヴォルグがモニターそれぞれへと映し出されました。


「……い、イスターリオン展開準備! 出力バイパスを生体反応コアへ接続!」


「いいですか、雪花ゆっかさん! この振動砲の出力放出は、搭乗者の精神的なエネルギーが引き金となります! それも心に宿す、強い覚悟と想いが重視される……言わば、あなた達の心の力こそがそのまま敵を討滅するやじりとなるのです!」


「ゆーちゃん達の心……!」


 そうして三機のストラズィールが、前衛と後衛へ別れて敵艦を目標に定められる様に、シャルーアの対空砲座でグレムリン級にガーゴイル級を迎撃します。そんな中発射を待つ、シャルーアの虎の子でもある艦主砲の力が、ゆーちゃん達の心の力である旨を再確認する麻流あさるさん。


 改めて耳にした事で、いっそうの緊張がゆーちゃんを包んだのです。


 霊量子イスタール・クオンタムと言う心を形成する力は、一見物理的な事象に於いて無害であると説明されました。が、実の所は有機質で構成される生命に限り、デメリットが確実に存在すると。とりわけ、自我と思考を有する霊長類には、極めて大きな影響があるとの事でした。


 霊的な力を指す霊量子イスタール・クオンタムは、言わば肉体以上の高次元体に於いて正負両極面を構築するエネルギー。日本に古くから伝わる、陰陽道などにも用いられる陰陽紋でも表されています。


 そのシンボルで言う陽に位置する力こそが、霊量子振動砲イスターリオンの力の源だと言うのです。


『いっくよーーっ! 三倍加速で強襲突撃……エクセリオン・バーナー起動――って、速っっ!!?』


『ちょっと何やってるんですか、このサオリーナ! 三倍加速を舐めてはだめでしょう! O――』


『説明が要領を得ないっポイーーーっっ!!?』


 音鳴ななるおねーちゃんの支援狙撃を受けつつ、三倍加速で突っ込んだ沙織おねーちゃんが、初めての実戦使用機能で思わず操作を誤り突撃ミスする中。無傷だった敵艦からの光学的な艦砲射撃を、おにーちゃんの機体が持つ守りがなめの膜が弾いてくれます。


『沙織、シュミレートの訓練とやらを思い出せ! ただ突撃すれば的にしかならねぇが、ガングニールの機動力が伊達じゃねぇ所を思い知らせてやれ!』


『いい、言われなくても分かってるっポイ! 姿勢制御、訓練を思い出せ……今度こそ突撃だーーっっ!』


 おにーちゃんのフォイル・セイランの守りがなめは、広域へ対魔防壁を張り巡らせ、光学的な艦砲射撃からシャルーアとゲイヴォルグを守る盾に。さらには、おにーちゃんの激で持ち直した沙織おねーちゃんが、今度こそ華麗なる突撃を敢行します。


 霊振動超高機動ブースト エクセリオン・バーナーは、ストラズィール全機システムへアップロードされた新機能。動力機関の霊量子共振相転移炉イスタール・ヴィブレード・フェイズドライバの出力を一時的に強制開放するそれは、機体に熟れた皆の成長に合わせて実装された、ストラズィール戦闘の新たなフェイズ。


 その重要なポジションへ、このシャルーア起動運用が関わっていたのです。


「ナルナルの狙撃と、サオリーナの突撃が効いてやがります! イレギュレーダの雑兵が混乱し、魔艦の守りがおろそかでやがりますよ!」


「ならば今であります! ゆーちゃん……このシャルーアの力を、あの魔の異形へと叩き付けてやるであります!」


 ストラズィールの連携が、次第に敵艦の防衛線をこじ開け、日本本土までの勢いが大きく失速。撹乱された小型の魔存在が、みるみる音鳴ななるおねーちゃんの狙撃で叩き落とされる今。両翼で響く頼もしい声を受けたゆーちゃんは、しかと敵を見据えて艦砲射撃の準備へ。


 そこでモニター越しに視線をくれた大輝だいきおにーちゃんは、優しく言葉を投げてくれたんです。


雪花ゆっか……俺はこれから、数え切れない命を守る使命を帯びちまった。だからその背中を、雪花ゆっかに任せてもかまわないか?』


「ふふ……今さらだよ?大輝だいきおにーちゃん。ゆーちゃんはずっと、おにーちゃんの背中を守り続けて来たんだから。そしてこれからは、もっと多くの助けを借りてそれを成す――」

「一緒に戦お?おにーちゃん。大切な命を守るために……素敵な家族と一緒に明日へ歩き出すために。」


 交わした言葉は、新しい人生と言う戦いへの覚悟。けど、前の様に絶望しかない暗闇じゃない、希望を手にした素敵な一歩。


「おねーちゃん達、心を一つに! シャルーアへ想いを集めて! 霊量子振動砲イスターリオン……撃てーーーーっっ!!」


 突撃撹乱で、敵全体を射線上へ誘導してくれたガングニールの、射線上からの退避を確認し――



 ゆーちゃんは、戦いの咆哮となる霊撃の閃条を撃ち放ったのでした。

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