memory:86 ストラ・フォートレス 討滅する者、シャルーア

 健気な妹嬢雪花娘三尉姫乃ポニテ姉ウルスラを擁する霊装の大翼ストラ・フォートレスが監視偵察へおもむいていた頃。有事に備えた五機の霊装機神ストラズィールは、メイン格納庫で初となる大型アップデート最中。


 それは当初より予定されていた、霊装の大翼ストラ・フォートレスに関わるシステムの内、五機の機体へ深く関わる必須の運用調整でもあった。


「では各機体側にて、送信された個別強化武装とのリンクを行って頂くであります。汎用武装のリンクに関しては、万一に備える非常扱いとし、今後は送信済み武装での戦闘を主軸と――」


『ささ、参骸さんがいさん!?これはマジですか!? あのストラ・フォートレスから分離射出される、、私のゲイヴォルグへ……がが、が、、ですとぉ!?』


『落ち着けよナルナル(汗)。一佐の声が聞こえねぇじゃねぇか。』


『相変わらず、ロボット専門用語への食付きがすごいね……。それに引き換え、凄い熱量の差が――』


闘真とうま君? あたしをその点で、ナルナルと同列にしないでほしいっポイわ。未だにロボットうんぬんどころか、戦略兵装なんちゃらの事だってちんぷんかんぷんなんだよ?』


『右に同じだな。メカが苦手っつー訳じゃねぇが、流石に俺もロボットネタは範疇の外だ。いちいちこっちに振ってんじゃねぇぞ。』


 データ室からやり取りする堅物一佐乱斗の声へ、もはや機関でも馴染んだ穿つ少女音鳴のメカオタク全開トークが熱を帯び、残る四人の子供達が冷ややかに嘆息を零す。現在彼ら彼女らは、各々の機体内で一佐が口にした通りの機体アップデートのためすし詰め状態である。


 モニター越しの揃った機関制服が輝かしい彼らだが、いかんせん会話の点ではいつもの子供達のていを演出し、居合わせる教員分家御矢子やんわりチーフ青雲へ苦笑いを生んでいた。


「おうおめぇら! 嬢ちゃんの物好きでいちいち惑わされてんじゃねぇ! データ上での仮想試験運用が後に控えてやがんだ! さっさとアップデートをすましちまえぃ!」


 そこで業を煮やした頑固整備長一鉄の怒号が、広大な格納庫であるのを置き去る声量で響き渡り、慌てた子供達もすぐさま機体側調整を進めて行く。


 そうしてとどこおりが進んで行くシステムアップデートは、霊装の大翼ストラ・フォートレスと連結運用がなされている武装各種との調整である。フォートレスと称された200mに及ぶ機体全容は伊達ではなく、そこへ五機の小型マシンフライト・オプショナル・アームズ・リフターが備わり巨体を成す。


 他の運用テスト待ちのシステムを含め、それらのM・FAL……通称〈マシン・フェアリーシステム〉を同時運用するのが霊装の大翼ストラ・フォートレスの大きな特徴である。


 穿つ戦騎ゲイヴォルグ専用となる、衛星GPSリンク式 惑星監視超々射程狙撃砲〈ゲイヴォルグ・エクシブ・スナイパーカノン〉。貫く戦騎ガングニール専用の、超高機動マグネフライト武装システム〈ガルーダ・ガングニール・エクシブキャリバー〉。応える戦騎フラガラッハをさらに高機能とする、超高域指揮官レーダー搭載 マルチウエポンパック〈フラガラッハ・コマンド・バスターウエポンシステム〉――


 さらには二機の近接格闘戦を得意とする片割れ、打ち砕く戦騎ミョルニルの超近接型攻守防壁〈ハイパーミョルニル・ディフェンシブ・メイルシステム〉。討滅の戦騎フォイル・セイランへは、巨大霊格との戦闘を想定した機動兵装用 対魔討滅霊装〈特殊兵装 八尺瓊やさかに守りがなめ 一式〉を。


 それぞれが霊装の大翼ストラ・フォートレスとのリアルタイムリンクを経て、マシンフェアリーごと合体運用すると言うシステムは、動く事叶わぬ巨鳥施設アメノトリフネから異形の魔生命デヴィル・イレギュレーダに対抗するための機関運用戦略を、新たなフェイズへ突入させた姿である。


「このアメノハバキリには、司令塔となる方が二人おられます。草薙家 表門当主たる炎羅えんらさんと、その同等と位置付けられた麻流あさるさん。この二人がいるからこその、指揮系統二分化ですが――」


「そうだねぇ〜〜。それを実際運用する事態は〜〜こちらとしても避けたいのだけどね〜〜。」


 今まで後手に回るが常の対魔討滅機関アメノハバキリも、今度ばかりは対応に余念がなかったのだが――


 

 その入念な対応が緊急運用される事になろうとは、誰も予想していなかった。



 †††



 デヴィル・イレギュレーダが艦船へと姿を変えて、ゆーちゃん達の祖国へと一直線の進路を取る。それは今まで想像だにしない危機と、自分でも察していました。


「トリフネとの通信を急いで! 同時にフォートレスで、かの者の侵攻を食い止めます! 雪花ゆっかさん!」


「はい、分かりました! ストラ・フォートレス、機関出力を最大に! これよりイレギュレーダ追撃に――きゃっ!?」


 麻流あさるさんの指示の元、ストラ・フォートレスを日本本土へ向けようとした矢先。迫り来るのは、おにーちゃん達が以前退治したイレギュレーダの尖兵……グレムリン級にガーゴイル級の群れによる迎撃でした。


 話には聞いていたけれど、その存在との戦いが激化するにつれ、ただの魔生命の群れでしかなかったそれが確実にとの情報。それがまさに、眼前で展開されていたのです。


「アメノトリフネとの通信を継続、同時にフォートレスの火器管制システム起動でやがります! 対魔弾装フツノミタマをぶっこんで、手厚い弾幕の嵐をお見舞いするでやがりますよ!」


「了解であります! 対魔弾フツノミタマを、対空重機銃群へ装填! 並びにフォートレス主砲塔、対魔生命迎撃用 霊量子振動砲イスターリオンを準備するであります!」


 けれどそこは、ゆーちゃんよりも状況慣れしている頼もしい二人。ウルスラおねーちゃんと姫乃ひめのおねーちゃんが即座の対応を成し、さらに攻撃に於ける注意点が麻流あさるさんから飛ぶ事となります。


「射線軸は下方修正20度の位置までにとどめて! それ以上の角度で砲撃すれば、こちらが放った砲火が日本を初めとした地上ないし海上へと着弾します!」


「「了解っ!」」


 敵追撃角度上発生する本土誤射の不利があり、それを考慮した追撃ではすぐに引き離され、被害拡大も必至です。そこだけ見れば、未だゆーちゃん達は後手の状況であると言わざるを得ないんです。


 そのための監視偵察任務――

 ゆーちゃん達が、わざわざ八塩折天元鏡やしおりてんげんきょうのそばまで出向いたのには理由があるんです。


 距離をジリジリ離して行く、魔のおっきな船達を凝視する麻流あさるさんから、その全容となる指示が飛ぶ事となりました。


姫乃ひめのさん、天元鏡のデータ解析は!?」


「たった今完了したであります! 施設の状態は推測通り、過去の超大質量エネルギー消失による機能不全を抱えてはいますが、施設自体は現在も生きており――」

「そこからロスト・エイジ・テクノロジーになぞらえる、の回収解析に成功! これより、ストラ・フォートレスとのシステムリンクを開始するであります!」


「あ、麻流あさるさん! まだ敵がうじゃうじゃ出て来るでやがりますよ!? 急がないといけないでやがります!」


「分かりました! 姫乃ひめのさんはそのまま、フォートレスと天元鏡とのシステムリンクを! ウスルラさんは対空射撃を続けて! 振動砲イスターリオンを展開!」


 八塩折天元鏡やしおりてんげんきょういにしえの技術の産物。けれどその稼働状況へ不明な点があったからこその監視偵察任務。そして、それ以上にこの任務には重要な点がありました。施設が有する超高次元跳躍機能と、そのシステム運用データの会得――


 そして得られたデータを、ストラ・フォートレスへと活かすための任務だったんです。


 麻流あさるさん、姫乃ひめのおねーちゃんにウルスラおねーちゃんの声が響く中。眼前のモニターへと浮かび上がる言葉は、すでにこの手で鈍く光るヒヒイロカネ製の指輪が齎すモノであるのは明白。


 ゆーちゃん達の、決して諦めない心がそれを呼び覚ましていたのです。


――うぬらは、違える心をまとめるものかの?――


 火器管制とデータ解析へ注力する二人の前にも、当然それは表示されていて、二人のおねーちゃんと首肯を交わすと返答して行きます。


「ゆーちゃん達は、別々の人だよ。でも、それを繋ぐ言葉と想いを共有してるんだ。」


――うぬらは、我を正しく扱えるのか?――


「うん……それは、ゆーちゃん一人では無理かもしれないけど、素敵なおねーちゃん達とならきっと出来るよ。」


 機体が秘めるいにしえの記憶は、おにーちゃん達が言った様な想像を絶する憂いを秘め……だからこそそれに怯えるいにしえの君へと心を伝えようと思います。


「大丈夫、ゆーちゃん達と行こう。ゆーちゃん達も間違えない様にがんばるから、力を貸して欲しいの、ストラ・フォートレス――」

「……ううん、あなたのお名前はストラ・フォートレス〈シャルーア〉だよ?」


 悲しき魔を討滅し、正しきを導く存在 シャルーア。その名が刻まれた機体が眩い光を発した時。機関出力が驚異的に跳ね上がったのを確認したのです。


麻流あさるさん、機体の覚醒を確認! 同時に、機関総出力が既定値レベルへ上昇しました!」


「読み通りです! では雪花ゆっかさん、このままフォートレス……いえ、シャルーアを反重力超霊高機動推進エクセリオン・バーナーで敵艦の前へ!」


「はいっ! 行くよ、シャルーア!」


 有り余る機関出力が超技術起動の要因となり、急激に出力上昇したシャルーアが重力圏内ではありえない様な、急加速と急制動で一気に敵の前へと踊り出て――


 そこからこそが、ゆーちゃん達の反撃開始の時だったのです。


「ゆーちゃん、今だ! !!」


「はい、ウルスラさん! 来て……大輝だいきおにーちゃん達!高次元位相跳躍・天元縮地鏡てんげんしゅくちきょう展開!」


 声に反応してシャルーアが展開するのは、高密度に凝縮した霊的エネルギーを有する、大型リング状の相転移ゲート。それが三機……機体上部へ一機と下部左右へそれぞれ二機が直立。さらに可変分離し、大型リング状ゲート展開へと移行します。


 それは言うなれば。大気圏・重力圏内でも運用可能な次元跳躍式のマス・ドライバー・システムだったのです。


『とーつーげーきーーーーーっっ!!』


『やるぞ、ゴルァーーーっっ!!』


、掛け声……(汗)。まあそれはいいでしょう! では落としちゃいます、私的にっ!』



 当然ここへ運ばれるのは、

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