小さな心届ける巨大なる意思

memory:79 少女の願いは光に満ちて

 私達の暮らしは、とても苦しいものでした。

 両親がいなくなり、おにーちゃんと二人だけの生活は、身体の事もありいつも迷惑をかけるのは私だったんです。


 できる事はなんでもするつもりでも、けれどそのできる事が限られて、結果いつもおにーちゃんに全てを委ねる毎日を送っていました。


「おはよーですの、雪花ゆっかちゃん。車椅子には自分で乗れるですの?」


「あ、はい。ありがとうございます、アオイさん。これでも私、おにーちゃんに迷惑かけない様にそれぐらいはでき――あいたっ!?」


「ああ……きっと今までの暮らしとは感覚が違がってるですの。だから落ちちゃったですのね。さあ、アオイの手につかまるですの。上体ぐらいは起こせるですの?」


「あうう……すみません。」


 そんな日がウソの様なここ、アメノトリフネと言う機関施設での暮らし。まだ二日と経っていない中での出来事。いつもおにーちゃんに迷惑をかけていた私……今度は相部屋になったアオイさんにまで迷惑をかける始末です。


 と、そんな思いでうつむいていた私を覗き込む、ツーサイドアップのプラチナブロンドが眩しいおねーちゃんが、笑顔で言葉を投げてくれます。


「ふふっ……。アオイはいつもおねーちゃんに振り回されてたけど、なんだか雪花ゆっかちゃんのお陰で、妹ができたみたいで幸せですの。だから――」

「アオイに迷惑かけてるなんて、思う必要はないですの。」


「……バレちゃいました?」


「バレちゃいましたの。」


 そしてまさかの図星を突かれて、思わず嫌な汗が吹き出す私。きっと経験した事もないほど、私の頬は紅潮していたでしょう。


 だって、新しいおねーちゃんの魅力の虜になっていたのですから。


 ほどなく相部屋に備わる化粧室で身なりを整え、朝食前のミーティングへと向かいます。言うに及ばず、私はここで世界を守る使命と引き換えの、明るい暮らしを手に入れたんです。だからそれに必要なやるべき事だけは、必ずやろうと決心していました。


「……いいでやがりますね。新しいができて。」


「なんですの? おねーちゃんヤキモチですのね。」


「や、ややや、ヤキモチなんて焼いてねーでやがります! ゆ……雪花ゆっかもさっさと来るでやがります!」


「わわ、そんなに車椅子を激しく押さないで下さい、ウルスラおねーちゃんっ!」


 そんな決意もそこそこに、ミーティングへの向かい際で遭遇するのは、沙織さんと相部屋のウルスラさん。なのですが……朝からテンションと機嫌がおかしいのは、きっと沙織さんとの暮らしがまだ上手く行かない所に加えた、アオイさんと私の仲良しさんが気に入らない感じでした。


 私としては、一度にこんな素敵なおねーちゃんが、パイロット以外にも二人できた事は嬉しいのですが。


 ここに来てのやり取りはどれも新鮮で、素敵な人達が私を大切にしてくれます。

 だからこそ――


 迷惑をかけてると思う必要がなくても、このままじゃいけないと思う自分がいたのでした。


 地球を防衛するに当たっての、必要なミーティングは小一時間ほどで終わり、私と大輝だいきおにーちゃんは今後成すべき事を聞き一旦の解散を見ます。そこから、現在ストラズィールのパイロットに選ばれている皆は、シュミレーターを使った訓練のあとに修学時間を設けられているとか。ここであの御矢子みやこさん教鞭の元、勉強ができるとは夢にも思ってはいなかったけど。


 私も実は、その修学に参加可能とのお話で、皆を待つ間は身体のリハビリと意気込んでいました。


 この身体は、あの酷い大人達から施された薬の作用で上手く動かなくされてしまいました。けど炎羅えんらさんから、宗家医療機関指導による投薬治療とリハビリを繰り返していけば、良くなる可能性がある旨も伝えられたのです。


 という事で、ウルスラさんとアオイさん付添いの元、トレーニングルームを改装したリハビリ施設へ向かう私は――


「ああ、雪花ゆっか君。ちょうどいい……リハビリに行く前に少し話したい事がある。二人も一緒に、ね?」



 炎羅えんらさんによって、二人のおねーちゃんと共に呼び止められたのです。



†††



 対魔討滅機関アメノハバキリの慌ただしい朝。地球防衛を託された五人の少年少女が、巨大なる機神の操縦技術向上とトレーニングに励む中。


 現状保護されるにとどまる健気な妹嬢雪花が、双子姉妹と共に格納庫を一望できるエントランスホールに集められていた。巨鳥施設アメノトリフネ中央通路から繋がるそこは、外に太平洋、内に大格納庫の機体群を見渡す事の叶う外部訪問者用観覧スペースでもある。


 その格納庫側のソファーへと腰掛ける少女達のそばには、概要説明としてやんわりチーフ青雲が付き、さらには内容に関わると思しき娘三尉姫乃も直立していた。


「すまないね。朝食の時間までにはすませるから、三人ともよく聞いて欲しい。これはまだロールアウト予定すらない、ある機体についてなんだが。」


 ある機体との言葉で心なしか胸踊らす健気な妹嬢に対し、視線に陰りを見せたポニテ姉ウルスラツーサイド妹アオイも察してか、隣り合う姉の手の上にそっとつたない手を乗せた。


 語られるのが、悟ってしまったのだ。


 対照的な二人の少女を尻目に、憂う当主炎羅たすきをやんわりチーフへと投げ、苦笑のまま受け取ったチーフが説明に入るため、近くのモニター設備を起動させた。


「こんな場所での追加ミーティングとなったのは許してね〜〜。格納庫のデータ室が良かったんだけど〜〜今そこも含めた、大改装などでごった返しててて〜〜。まあ、これからの敵襲撃に備えたものなんだけど――」

「まずはこのデータを閲覧してもらえるかな〜〜。これは現在格納庫でも、現在保管中なんだね〜〜。」


 やんわりチーフが持つ間延びした空気の中、映し出されたデータに三人が僅かな驚きを見せる。そこに映し出されたのが、今まで見た形と異なる出で立ちをした巨大機動兵装の姿であったから。


「実はこの機体はね〜〜、下層への格納……と言うには、いろいろ解釈的な面でも表現に困る機体なんだね〜〜。」


「こ……これ、でかくないですの!? 確か、ストラズィールの平均全高は35m前後のはずじゃ――」


「おっきぃ〜〜! おにーちゃんの達が乗るロボットと、形状もぜんぜん違う!」


「この機関、まだこんな隠し玉を残してやがったですか……。」


 三者三様の反応に加え、それを視界に入れた娘三尉の双眸も心なしか煌めいていたのを、機関の大人達は見逃さなかった。


「これを見てもらったのは他でもないんだ〜〜。以後〜〜雪花ゆっかちゃんが搭乗する予定で仕上げる前提の――」


 しかし、続くやんわりチーフの話が終わる前に、ポニテ姉が肩を落としながら立ち上がり――


「ウルスラまで呼びつけたから何事かと思ったら、。それならあたしは関係ない。お仕事があるんでおいとまさせてもらうでやがります。」


「ちょっ……おねーちゃん! 炎羅えんらさんいるんですの!」


、はボクのセリフだよ〜〜(汗)。今、ボクが話してるんだけどね〜〜?」


 言うが早いかきびすを返したポニテ姉が、スタスタと司令室方向へと立ち去ってしまう。それには唖然としたやんわりチーフであったが、予想だにしない人物がそこへ介入する事となった。


「自分が彼女と話してくるであります。」


「へっ? ああ、いいけど〜〜。けど姫乃ひめのちゃんは――」


「構わないよ青雲せいうん。彼女は自衛官でも、衛生部門に特化した能力を高く買っている。加えて……精神面での支えとなる、カウンセラーの資格も有しているんだ。ここは彼女に任せてみよう。」


「え、衛生部門にカウンセラー……。あの人案外、ギャップの塊な人なんですの??」


「私もびっくりした……。姫乃ひめのさんて、やっぱり凄い自衛官さんなんだ。」


 驚愕の正体で呆ける三人を他所に、アイコンタクトで娘三尉へ任せるとの意思を送れば、少女の切れる敬礼が返される。


 そしてポニテ姉を追う様に、娘三尉が歩き出した所で機体概要説明が継続される。健気な妹嬢の、後に待つ朝食にリハビリを鑑み――



 ポニテ姉への全容説明を任せる方向とした。

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