memory:78 動く高貴なる魔と、暁国家の守護陣営
地上で、
遥かな深淵より訪れる、増援とも言える複数の小型魔導外郭を従える影。それが別宙域へ発生した異形の群れを蹴散らして行く。だがその到来は、現在地球で宇宙側の防衛線を張る魔の若集からすれば想定すらしない状況であった。
『
「んん? なんじゃ……
何より、訪れた存在へ驚愕を向けるは
かの
駆る機体は、細身で
が、温和な魔太子が魔導式通信でやり取りする姿は、矮小で、ともすれば幼女とも取れる
魔嬢の騎将は〈ベレト・デモンズ〉。湧いて出る異形の魔生命を、長大な魔槍を振り回し撃退する様は威風堂々。さらには追い打ちとばかりに、青銅乗騎馬〈タナトス〉各所から放たれる超小型マイクロミサイルと思しきそれが、弾幕となり宙域を焼き焦がす様は正しく禁忌。伝説に準える古の神代の機体がそこにいた。
「待っていたぞ
『なんじゃ……もうその魔印を踏む名を口にしておるのかえ。なるほど、
『
『……シザ? お主も
『めめ、滅相もありません!』
待ち人来ると通信を投げる
高貴なる魔の軍勢集結を皮切りに、深淵の彼方よりの通信が彼らへと届く事となる。それが放つ遥かな距離さえも無き物とする膨大な魔の霊力震……マガ・イスタール・ヴィブレードと呼ばれる高次元を揺るがす力が宙域全体を包み込んだ。
『地球圏の対魔防衛に携わる皆の者、揃った様だな。すまない……私はこの
だがなんと、あらゆる魔を屈服させてもおかしくはない力を放つ存在が、通信が繋がるや労りに加え謝罪として頭を垂れたのだ。されどその空気に驚愕を覚える魔の若集も、膨大な力に圧倒され二の句が継げない状況。
それほどまでに、眼前の存在の持つ力は想像を絶していた。
『改めてみなに伝えておこう。この
『その最深部たる地獄階層〈ジュデッカ〉へ、不穏な力の流入を感じた。恐らく目を覚まし始めている。我が兄弟にして、七大宰相が一柱……魔王 ベルゼビュードの魔導外郭が。』
『『……なんですって!?』』
魔の若集が驚愕を覚え、魔王に準える二柱は苦虫を噛み潰した様に押し黙る。望まぬ事態到来――
死と再生の魔王たるベルゼビュードの、深淵への堕落が始まったのだ。
†††
世界は宇宙と地上を交え混迷へと進んで行く。そんな中、暁の大国日本でようやくと言える動きが進め始めていた。
「では、賛成多数を以ってこの議題を終了したいと思います。」
そこは政府高官が集う大会議の場。そして今しがた終了を見たのは、日本国政府主導で動くための法案議決閣僚会議であった。
二時間余りの時間を緊張と共に過ごした関係官僚が散って行く中、一人の中年男性へと声がかかる。
「
「ああ、これは
声をかけるは自衛隊を纏める統合幕僚長を頂く男。名を
そして長官の座を頂く者は
アイコンタクトから、要人応接室へと向かう二人。辿り着いた部屋の周囲を確認後、閉ざされた扉にはロックがかけられた。それだけでも、交わされる会話の重要性を物語っていた。
「守護宗家の
「施設自体の損害は蓄積しており、突貫修復作業も人手が足りぬと、
「ああ、それは分かっている。だからこその、此度の法案可決だ。明日には正式に通達がなされるだろうが、そこからはそちらに任せるから対応のほど、よろしく頼む。」
豪勢なテーブルを挟み、ソファーへ浅く座す二人の男の双眸は、地球外より訪れる驚異にさえ後ろ向きな他の官僚とは異なっていた。宿す信念は熱く
故に、彼らへ迫る不穏の足音にも敏感であり、それも踏まえた熱き官民代表が面を合わせての会合であった。
「時に……宗家の方でも動いている様だが、彼らの身内のサビの調査は進んでいるかな?」
「はい。警察組織で手の出せぬ面では、我ら自衛隊から選りすぐった精鋭を担当させております。奴ら……反宗家組織代表の
「ああ、よしなに頼む。」
要人を迎える部屋とは表向きに、完全防音とあらゆるスパイ行為に対するセキュリティシステムを完備した一室。そこで交わされる内容に、あの守護宗家を陥れんとする反組織の言葉が混じり込んでいた。
それはまさに国家混乱の要因にさえなりかねない、反世界勢力とでも言う存在への対策でもあったのだ。
一連の話し合うべき内容伝達を終えた二人は、どちらからとなく要人応接室の窓を見やる。防弾防音の多重特殊ガラス窓越しに見える空が、昨今の国内……引いては世界の混乱を一時忘れさせる快晴の青空を映し出す。
「あの対魔討滅機関……アメノハバキリと名付けた組織には、この地球の守りとして子供達が矢面に立っているのだな。」
「はい。」
「君達自衛隊の武装に精鋭を持ってしても、敵わぬ敵勢力がこの地球へと魔手を伸ばすか。そこへ
「そんな危険な存在へ、子供達をぶつけなればならない彼……
「……はい。その通りです。」
平和であるはずの青空の先で、
「通達がなされた暁には、我ら自衛隊からの支援人員に必要物資をかの機関へと移送し、可能な限りのバックアップに当たらせます。なにぶん度重なる自然災害多発に紛争に関わる国家間支援と、限界がある状況ではありますが――」
「子供達ばかりに事を振るを良しとしない、名乗りを上げた志願者を中心に支援部隊を組織し、任務に当たらせる予定です。」
「心同じくする同志を募る、か。それしか今の我々にできる事がないのなら、そこへ全精力を注ぐとしよう。わざわざの出向……感謝するよ、
「……っ。まだ任務中ではあるのですが……気にするな、
決意新たに、
それこそを嫌悪する、かの
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