memory:76 雪仄かに花弁舞い
洋上歓迎会は華やかに終焉を迎え、余韻残る総出の後片付けに勤しんだ子供達。すでに馴染む彼らであったが、一番参入浅き者達は部屋割りが決まらず、客人用宿泊区画で寝泊まりしていた。しかしそのままでは、仲間としての絆どころではないとの配慮から、
「さて皆さん、この機関もそれなりの大所帯となって来た所、それぞれ個別に部屋割りが間に合わない現状があります。すでに先住する私達でも、それらを考慮の上で共同の機関生活を送っています。と言う訳で――」
「ストラズィール・パイロットであるメンバーに、バックアップ組も含めた各員へ改めて、正式な部屋割りを通達しようと思います。」
「「「はーい。」」」
「うっす。」
「はいっす。」
さらには、以前の部屋割りから新しく割り当てられるとの事で、サポート組である双子も同席していた。
「今から送るデータに、
そこでもはや、教職者としての天命に目覚めたかの
「……ぶひょーーーっ!? わわ、私はあのストラズィールの中こそが最高の部屋なんですよ!? こんな……こんな……――」
「む、よろしくであります!
「あ……
「ちょっと待つでやがります!? ウルスラがなんでこいつとなんか……あ、こいつなんかとか言ってはダメでやがりますけど――サオリーナとウルスラが一緒の部屋とはどんな了見でやがりますか!?」
提示された組み合わせは……まさかまさかのデンジャラスチョイス。それこそいきなり問題が噴出しそうなメンツで、まずは女子陣が悲鳴を上げる。
「ナルナルの事を傍観してる場合じゃねぇなこれ。まあ
「俺は
「心配なんてしてねぇけどな。」
「やるか?コラ。」
「上等だ、表出ろや。」
「二人共落ち着いて(汗)。
続く男性陣は、パイロットにしてサポート陣営でもある
さらに、子供達に紛れて呼び出された暴君分家は、幼い痴話喧嘩には興味無しと大アクビを見せ……話の進まない空気が包んでいた。
「はぁ……おねーちゃんと言い、パイセンパイロットの皆さんと言い……素直でないのは相変わらずですの。」
「そうなんだ。ウチのおにーちゃんも相変わらずだけど。」
そんな空気も、平和な組み合わせとなった
「繰り返しますが、共同生活をしっかりエンジョイする事。これはこの施設運用上でも、重要な取り組みの一つです。娯楽を楽しむ空間や個人の自由が限られる、太平洋上と言う場所だからこそ、お互いが歩み寄らなければ苦難を超える事は出来ません。皆さんはそれを肝に命じて置く。いいですね?」
同じく嘆息で締める教員分家も、学童に向け教鞭を取る自分に酔いしれつつ苦笑を漏らすと――
決められた部屋割りの先へと、散って行く子供達がそこにいた。
†††
私の暮らしの記憶は、兄といたものがほとんどでした。
いろんな事があって、身体の自由が利かなくなった頃にはおとーさんもおかーさんも家にはおらず、ただひたすら汗水流して私のためにお仕事へ励む大きな背中を見るのが当たり前だったんです。
学費に回せる余裕もないから学校にもいかず、普通なら親が働いて得るはずの生活費を全て、兄がその身で稼いで来る毎日。そんな大きな背中は、いつしか私の憧れであり誇りへと変わっていったのです。
「ほほう……
「なんかあたし、他人事に思えないよ。あたしもその……パパともママとも会えない事が増えていったから。」
「あの! ゆっちゃんはそんなつもりで……あ。」
「「ゆっちゃん??」」
「……ああ、やっちゃいました。私小さな頃、自分の名前が上手く言えず「ゆっちゃん、ゆっちゃん」て言ってたのでそのクセが……。恥ずかしい……。」
「いいんじゃないでやがりますか? その方が親しみが湧くでやがります。」
けど、人生って分からないものですね。今の私はこんなにも素敵なおねーちゃんがたくさん増えて、そしておにーちゃんになる人もいっぱい。この身体が自由に動かせなくなった時の絶望なんて、どこかへ吹き飛んでしまいました。
「アオイもおねーちゃんに賛成ですの。
「自分はその姫リーナとやらを許可した覚えはないで――」
「堅いこと言わない! 私をこんな所へ引っ張り出したんですよ? その代償は払って頂きます。ええ、私的に。」
「……致し方ないであります(汗)。
「意外に融通効くわね、この子(汗)。」
お部屋割りが決まってからの、一部屋へ集まり開く女子会は、私にとって夢の様な時間でもありました。だって一度に、五人ものおねーちゃんが出来た現実を目の当たりにしたのですから。
いつもおにーちゃんが連れて来るしゃてーさん?って言うおにーちゃん達はいたのだけど、おねーちゃんがこんなに増えるなんて思っても見なかった所です。合わせて増えたおにーちゃん達と、素敵な大人達に囲まれた私の人生は、きっとようやく恵まれてもいい時期が訪れたんだと感じました。
『こらー。遅い時間まで夜更しを許可した覚えはないぞ〜〜。ちゃんと消灯時間は守りなさい。各々の心情話云々は日を改めて、まずは魔の襲撃に備えるのがあなた達の役目です。』
「うわ……こんなトコまで先生だよ、
『聞こえてますよ?沙織さん。消灯時間を守りなさい。いいですね?』
「「「「はーい。」」」」
そんな思いに
そこでお開きとなった始めての女子会のあと、ルームメイトなアオイさんが優しく車椅子を移動させてくれ、シャワーのための介助を買って出てくれたのです。
「アオイも同年代は、おねーちゃんしかいなかったから新鮮ですの。ゆっちゃんも、これから仲良くして下さいですの。」
「ううぅ……その呼び方は恥ずかしいですぅ。けど、皆さんと仲良くなれるなら私……ゆっちゃん呼びでも頑張ってみます!」
「ふふっ……その意気ですの。」
なぜか気が合うこの碧眼ブロンド少女は、きっと同じ妹と言う立場だからこそ、いろいろ通じ合うものがあるのだと感じる私。おねーちゃんでありながら妹な彼女のご厚意に甘える様に身を委ねます。
程なく就寝を見る頃には、とても心の落ち着く暖かな寝床の中。自身を包んだ幸せを噛み締める様にその目を閉じて、慌ただしくも楽しかった一日を終えました。
きっとこれ以降訪れるのは、天空より襲い来る異形の魔との戦いの日々。だからこそ、その幸せを忘れない様に心へ刻んでおこう。
ここが自分の、本当に守るべき居場所であるとの確信と共に。
†††
機関の誰もが寝静まる太平洋上。
すでに覚醒を見た五畿の
パイロットが搭乗するであろう、有機機械を思わせるパイロットシートが
選ばれるであろう三つの魂を待ちわびる様に、ただそこで淡く光を放っていた。
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