memory:74 絆繋ぐ、洋上歓迎会
突貫の施設洗浄作業と今後を踏まえた作戦会議。双方案件がひとまず区切りを付けた翌朝。さらなる案件をぶち上げる者がいた。
それはすでに朝食時間となり、手空きの機関員が代わる代わる朝食を取りに足を運ぶ食堂での出来事である。
「
「まああれだ……あたしも、お前達の事は買ってやがりますからね。べべ、別にお前達が好きとかは、言ってないでやがりますからね!?」
「おねーちゃん、未だに素直じゃないの(汗)。」
並んで朝食を運ぶ双子のウチ、
その言葉がかけられたテーブルには、五人の
「いんじゃね?乗った。
「凄い……あたしこんなの初めてっぽい。友人と集まって、本格的な歓迎会とか……。」
『……それ、私も参加する方向ですか? 個人的には、このストラズィールから出たくは……ふぎゃっ何を――』
『いいから、双子嬢の気遣いを無駄にしない事であります! さあ、
「意外に彼女、アグレッシブだね……(汗)。ただ生真面目って訳じゃないんだ。あの引き篭もりな
「俺はそこまで望んではねぇんだが? それよりも
「メッ、だよ?おにーちゃん。皆の好意をちゃんと受け取らないと。」
「……
「「「ちょろい……(汗)。」」」
機関員でも彼らから歳の離れた大人組は、同世代で集まる子供達の自主性と自立心を重んじ遠巻きに見守る。つい先日までは、汚れた大人社会で
「あのアオイさんにウルスラさんが、歓迎会と言い出した時には驚きましたが……これもいい刺激になっていると言う事なんでしょうね。」
「そうだね〜〜。ぶつかって成長して行く子供達には、逆にこちらまでいろいろ教えられる所もあるね〜〜。あ、
「ボケが……。闇の世界での生き死にが全てのワシが、どのツラ下げてぬるま湯に浸かれって? ワシにはそんな
ただその雰囲気に馴染めぬ
「ではでは、おねーちゃんがお待ちかね! 歓迎会準備に取り掛かるですの!」
「はあぁっ!? あ、あたしがお待ちかねとかふざけるなでやがります! これは皆を歓迎するためのもであって――」
「おや? ボク達も含まれてるんだね?」
「……っ!!? だだ、だまりやがるです! このゲンコツ少年が!」
「呼び方……(汗)。まあしゃーなしっぽいね〜〜。んじゃあたしらは、歓迎する側とされる側の両方を兼ねてお手伝いだね!」
「俺も力仕事とか手伝うわ。料理とかは流石に無理だけど。」
「な、なら私もお料理できるから――」
「「「
「……はうぅ。」
『――……やめっ、引っ張らないでーーー!?』
去る狂犬を尻目に、子供達は打ち解けた空気で歓迎会準備へと移行して行く。その中で――
†††
朝食時間からまさかのさほど時間を置かない昼前時。機関に属する同級な奴らが、歓迎会と口走っての今に至る。眼前には、今までの
俺もまさか、こんな洋上でバイキングにバーベキューと言う食事に遭遇するとは思わなかった。
「では音頭を取るですの!
「「「「「かんぱーい!」」」」」
やいのやいのと騒がしいメンツが、カタパルトでも施設に覆われ冷房も効く区画へと参集し、各々手にしたドリンク片手に声を上げる。
同世代となるストラズィールパイロットの
それを見守る様に参集するのは機関の大人方。
乾杯が終わるや、それぞれが具材を手に取り数台準備される本格的なバーベキューコンロへ投入していた。やがて仄かに香り始める豚に牛のバラ肉やカルビ肉、鳥の胸肉から野菜へ至り、コーンにキャベツ、玉ねぎにもやしと――
「あたしバイキング取って来る! なんか、ケーキとかスイーツ準備してくれてたっぽいから!」
「待て待て、まだ飯も食ってねぇのにデザートかよ(汗)。まあ……美味そうでは、ある。」
「あっ、私もご一緒して構いませんか? 沙織おねーちゃん。」
「さ……沙織おねーちゃん!? ぜ、是非ご一緒してあげるよ! ささ、
「むむ……これはヤベェですね。
「……あの万年引き篭もりが、食い付いてやがるです。」
「ちょっとおねーちゃん! おねーちゃんにはアオイと言う妹が――」
だが、そんな食の和やかさを弾き飛ばすお騒がせな奴らの狂騒は、嬉しくもあり……どこかまだ馴染めない自分も確かにそこにいた。と――
ふと視界の端に映る人影が気になり、食欲をそそる焼色のバーベキュー具材と、ドリンクを載せたトレーを手に騒がしい場を離れる事とした。
向かう先は、カタパルトでも死角になる建物外にほど近い場所。そこでどんちゃん騒ぎから距離を置く人が、焼けた甲板を見据えながら言葉を投げて来た。
「何やワシの方に来ても、おもろい事はないけぇ。あのガキどもとはしゃいでおけや。」
「あっちは
「そうけぇ? まあええわ。座れや。」
こちらを見ずに言葉を投げるは、
似た者同士な彼を、俺の心が放ってはおけなかったゆえの行動でもあった。
言われるままに傍へ腰を降ろした俺。それを見る事もなく、甲板を睨め付ける狂犬と呼ばれた男。守護宗家が誇る対魔討滅の志士にして、社会にその存在を残せない影の人生に終始する悲しき定めを生きる羅刹。
多く語らずとも、彼の背負うモノがどれほど大きな業であるかは少しだけ理解し始めていた。
「……
「……っ。俺は、今までそんな事を考える余裕もない中で、
ふいに投げられた問い。それが彼からの、覚悟を問う最終確認であると理解した。したからこそ、選ぶ言葉には慎重に慎重を期す事にする。
「俺の……俺達の事を見捨てない大人達がいた。それを受け入れてくれる社会の組織さえも存在した。それが守ろうとしている物も確認した現在なら、確信を持って言えます。俺は……この地球の人間社会が好きです。だからこそ、それを守り抜きたい。」
と、俺の返答に満足のいった狂犬羅刹がカカッと短く笑い、傍に置いていた彼のためのバーベキュー具材を粗雑に口へと放り込んだ。
「……ワシは人が食す食べ物を、こんなにも上手いと思ったのは久しいけぇ。この人生もまんざらでない事も今知った。おどれに……
初めて会った時には見た事もない、きっと彼が普通の人生を送れたなら見せたであろう、大人の男のしたり顔を浮かべて笑う。俺について来いと言わんばかりに。
「
ならばと立ち上がった俺は、讃えられた仁義のありったけを込めて懇願する。俺自身を高みへと導いてくれる、過ぎたる大人へ向けて。
「ワシの指導は厳しいけぇ、覚悟してついて来いや?
そこで初めて返された笑顔は――
俺と彼が、義兄弟の契で結ばれた事を意味していたんだ。
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