memory:73 八塩折天元鏡
進化のとどまる所を知らない、異形討伐を終えた夕暮れ。だが太平洋はすでに、厚い雲で覆われ暗闇が包みつつあった。その暗闇を切る様に伸びる光源は、
それも、先にほっぽりだした施設大洗浄に駆り出される五体の巨人であった。
「ちくしょうめ! バケモン共のせいで洗浄が全く進みやしねぇ! おい、ガキ共! 機体運用の鍛錬のつもりでしっかり働けぃ!」
地球を幾度も守護してきた巨大なる兵装が、
『
『まあ施設洗浄放り出した手前、文句もいえないけどね。』
『ふぁぁ……疲れた。眠いっぽい〜〜。』
『つか、どさくさで新人イビリが入ってないか? 気が付けば大輝のヤローも、洗浄に加わってんじゃん。』
そして各機体で、異形討伐直後の重労働という名の鍛錬を積むハメとなる機関の子供達。疲れと不満で投げやりな、すでに機関で過ごす四人に対し、新参である
「やっぱり
「
「
機関員総出と言う、半ば強引な整備長の一声で駆り出される
その生身洗浄組に、
「皆と仲良くやっていて安心したぞ?
「……パパ一佐。恐縮であります。」
「はぁ……ここは自衛隊内部ではないんだ。せめて一佐は――」
「機関配属も、職務に関わる重大責務であります。ここでは私の事も、三尉と呼称するのが適切と考えるであります。」
「融通の利かない所は変わらずか。ならば……
「了解であります!今後も指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いするであります!」
作業が疎かになるほどに巨人が気になる娘を気にかけ、否……可愛い愛娘が気になって声をかければ、想像通りでもあった自衛官としてのバカが付くほど真面目な返答が飛び嘆息する一佐。されど彼女が明らかに、自衛官職務ではない点で思考を揺さぶられる今を大事にする様に、一応の上官と部下の
そこから夜通し続く洗浄作業は日付の変わる頃に終了となり、労働に励んだ子供達が泥の様に眠りこけるその間。機関重要どころに位置する大人達は、ミーティーング用の大ホールへと参集した。
すでに確認された、頭部へ人間の成れの果てを貼り付け現れると言う異形の変化と――
今後の機関動向を話し合い、担うべきバックアップに尽力するために。
†††
日付を
その中央辺りに位置する塔型の施設中腹が煌々と明かりを播く。そこでは子供達が寝静まった頃合いを見計らっての、現状までに確認された詳細のすり合わせが行われていた。
「――この様に……異形の存在であるデヴィル・イレギュレーダは、未だ目的の本質がはっきりしない中、この地球への襲撃を敢行している状況です。そして、宇宙の同胞である魔族方から齎された情報では、異形は実質地球上のどこでも存在を確認されているとの事。が――」
「彼らが地上へと侵攻するにも、ほぼ地球の大気圏を抜けられぬ現状との報告が受けております。」
大ミーティーングホール中央へ浮かび上がる立体スクリーンへ、報告にある
一堂に会する
現状の機関側戦略面に於ける、主要バックアップ陣営が顔を揃えていた。
令嬢の現状説明を区切りとし、変わって言葉を紡ぐは憂う当主。実質このすり合わせが、暴君分家への事情説明を兼ねているとの視線を送っていた。
「彼らのデータから弾き出された結果と、地球……それもロスト・エイジ・テクノロジー関連施設の分布を重ねた事で分かった事だが――これは魔族方より提供された状況通りの結果となっている。これを見てほしい――」
「今この地球は旧き時代より、一般の民には視認出来ない不可視化された古代超技術の産物によって守護されている。それがこの宗家由来の名称〈
「超々規模っちゅうんは、一体どれほどの規模かお教え願いたいけぇ。」
「ああ、宗家に伝わる古代文献の情報から鑑みるに、恐らくは大陸をまるまる一つ分、宇宙へと運んでいたと推測している。ムー大陸にレムリア……アトランティス大陸が一夜で消失した例は、その証拠とされているな。」
「……マジけぇ(汗)。さしものワシも常識がぶっ飛んだわ……。」
そしてどさくさに紛れる地球防衛の
驚愕も已む無しとの視線を、聡明な令嬢と交わす憂う当主は続ける。その防衛施設が置かれた状況と、
「観測上では現在、天元鏡はある一個施設を除き稼働状態であるのだが……その一個が問題でな。稼働休眠状態でも防衛障壁としての効果を持つそれらは、休眠期でも防衛障壁能力を発輝する。しかし――」
「残る一個施設は、遥か歴史上の運用時点で損壊し、防衛能力を失ったまま地球の次元の間へ滞空していると計測された。即ち……それが、この太平洋上 上空に存在する天元鏡であると言う訳だ。」
語られる点へ、機関でも宗家に直接関わる者は直感で理解した。地球と言う惑星規模で発動する超広域対魔防衛障壁が、損壊により施設不全に
それは対魔討滅に於ける志士からすれば非常事態。生じた穴から際限なく負の存在が流入すれば、世界の安寧にさえ綻びが生まれかねない、危険な状況であるのだ。
家族としての日々を得た子供達が寝息を立てる中、それを支えるバックアップ陣営たる者達は焦燥する。今世界が置かれているのは、想像以上に悪い現実であると目の当たりにしてしまったから。
そこから、今後の対策を捻り出すために数時間を要し――
ようやく彼らが就寝を見た頃には、すでに洋上水平線の彼方へ明るみが差し込んでいた。
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