memory:71 ストラズィールⅤ、仁義なる者 フォイル・セイラン

 巨大なロボットとは聞いていた。だがそのサイズの、桁が外れていたのには驚愕したものだ。それどころか、俺はその機体へと搭乗し仲間を助けに行こうってんだ……今までの常識なんざ霞に消えていた。


 そう……俺達兄妹を受け入れてくれるであろう、仲間を救うためにだ。


「まずは機体のコンソール中央へ、始動キーの指輪を嵌めるであります。メインエンジンが始動すれば、あとはセミオートで機体システムが立ち上がる寸法でありますよ。」


「メインコンソール……これだな。」


 見た事もない近未来空間に包まれる俺の横では、自衛官を父に持つと言う自身も自衛官の少女。その年場ですでに部隊所属に至ると言う事は、相当の実力があるのだろうと思考しつつ指示に従う。


 そして、コンソールへ嵌めた鈍色放つ指輪から電子の光が拡散するや、機体が目覚めの時を迎えた。俺がこれから操るストラズィールと言う巨大ロボットだ。と――


 そう思考した時、肝心な事を忘れていた現実に思い当たる。


「そうだ、名前……機体名称か。こいつには名前が要るんだろう?姫乃ひめの。」


「そうであります。大輝だいきの心に浮かんだ名を、機体固有名称に登録するであります。さすれば、このストラズィールはあなたをマスターと認識して最初の覚醒を見ると、みなから報告を受けているであります。」


 振っておいてなんだが、いきなりロボットに名前を付けろと言うのは、俺の人生からしてもハードルが高かった訳で。けど、そんな俺でも浮かぶ、


「……俺はヘッドだ。そんでもって、フォイルでは相棒の晴嵐せいらんをいつも乗り回してる。なら……セイラン。お前は今日から〈フォイル・セイラン〉だ。」


 いつも俺達に親しくしてくれる気の知れた仲間達。それに今、宗家によってバイクショップへ丁寧に移送保管されてる愛機の名。それを組み合わせた。口にした俺を見やる姫乃ひめのも、響きが気に入ったのか首肯を返して来る。


 その直後――


 ――やっとそれがしの主が決定した様だな――


 コンソールが淡く輝くや、日本語羅列でそれは現れた。しかし目にした姫乃ひめのが僅かに驚愕し、言葉を紡ぐ。


「……っ!? これは……皆に聞いていた反応とはいささか――」


 彼女が驚愕したのは、あの奨炎しょうえん達が体験した機体起動のアクションとは異なっていたからだろう。それを悟った俺は、そのまま機体の発した言葉の羅列へ返答する。


「機械が意思を持つってか。ああ、お前に今日からフォイル・セイランの名前を付ける。よろしく頼む。」


 ――それがしなんじはそれを駆る事が叶うか?――


「随分デカく出たな。そもそも初めて乗るんだ……そんなの分かる訳がないだろ? けど……やるべき事をなす覚悟は、ちゃんと肝に据えて来た。俺の期待に答えられるのか?」


――面白い……。その胆力なら、この身が負って来た忌まわしき因果さえも背負う事が叶うだろう――


 隣で見守る姫乃ひめのはいろいろ想定外だったらしく、固まったままで俺とコンソールを凝視していたが、淡々と機体とのコンタクトを進めて行く。俺の新たな相棒……ストラズィール フォイル・セイランとのコンタクトを。


「決まりだな。やってやろうぜ?フォイル・セイラン。俺達の初陣だ!」


 ――では共に行こうぞ。己の覚悟持ちて、因果にさえも挑む戦いへ――


 心にこいつの因果とやらが流れ込んで来る。その時は判然とはしなかったけど、それがとてつもなく重い事だけは理解していた。ならばあの、零善れいぜんさんの技を習うと宣言した俺にとっては好都合。その因果とやらも背負ってやろう……そんな意気込みで相棒へ向けて首肯を返す。


 俺の言葉を感知し、機体に走る光が眩く弾けるのを目撃した俺と姫乃ひめの。彼女がコックピットから退避したのを確認し、閉鎖されるハッチを見やりながら思考を過ぎらせる。



 力が無かった故為す術なくボコられた、あの禍久 狂路まがひさ きょうじとの決着を付けるために。



†††



 五体目の機体へ魂宿す電光がはしり抜けた。だがその機体色に、他の機体と違う変化が伴う事となる。


「なんだぁ!?突然機体色が変わりやがったぞ!? おい、炎羅えんら……こいつは今までのやっこさんとは感じが違うんじゃねぇか!?」


『こちらでも確認した! 聞こえるか、大輝だいき君! その機体の反応に、異常は見られないんだね!?』


『ああ、問題ないっす。けど機体に秘められた何かが、いろいろと変化を付けさせてるんじゃないですかね。こいつが因果云々と言ってたから。』


 モニター室で、今までの機体反応とは異なる異常を目撃し、頑固整備長一鉄ががなるように憂う当主炎羅へと振り……彼と優しき荒くれ大輝との会話が通信で漏れ聞こえる。


 短いやり取りが交わされるや、荒くれが指定した機体武装データがモニター群へ映し出されるが、またもやそこで整備長が目を剥く事態となる。


「おい、待て大輝だいき! そいつぁ実装前に、充分な試験が必要なだ! 今持ち出すんじゃ――」


『分かってるよ、一鉄いってつさん。けどこいつが望んでるんだ。因果を背負うなら、それに相応しい得物が必要、ってな。だからこいつを……に当たる〈 〉を借りて行く!』


 優しき荒くれが機体の武装として要求したのは、データ上でも要試験テスト武装へカテゴライズされた巨大な片刃刀剣。刀身が、実際の業物わざものの如く波打つ姿は見る者の心を奪う。だが……一見すれば名刀であるそれは、気が付けば飲み込まれる程の気配を漂わせていた。


 そう――要テストと注される所以が、妖しい波紋輝くたたずまいを生み出していたのだ。


『機体がそれを望んだと言うならば、君が思う様に扱うと良い! 男爵級バロン・ガングの増援が次々押し迫っている中だ……あの禍久 狂路まがひさ きょうじ誘う公爵級デューク・デュエラは君に任せる!』


「うっす! フォイル・セイラン……出るぜ!!」


 事態は一刻を争うと、憂う当主が出撃へゴーサインを出す。待ってましたとばかりに、双眸を引き締めた優しき荒くれが、機動兵装と言う相棒を手に巨鳥施設アメノトリフネカタパルトへと躍り出た。


 その姿を映す背景は、いつの間にか立ち込める暗雲。あたかも妖刀が呼び込んだかの様な数多の雷鳴が、轟音と共に機影を照らし出していた。そして――


 雄々しき影が立ち上がるや、備えられた鞘より妖しき刀身がスラリと抜き放たれる。


『カカッ! 刀剣たぁ、初めてで選ぶ得物じゃないけぇ! だが……気に入った! ワシの弟子になるっちゅうなら、それぐらいのリスクは背負ってもらわんとのぅ! 大輝だいき……援護するけぇ、あの変異型の接敵せい!』


「了解です、霊善れいぜんさん! 皆樫 大輝みなかし だいき……推して参るっ!!」


 構えは不格好。だがしかし、宿す気概は暴君分家零善をして申し分無し。彼の身に付けた技は荒々しき我流を核とし、そこへ野獣の闘争本能を被せた御業。相手取る巨大霊災が、理知を考慮していてはらちが明かぬ故の純然たる力技である。


 暴君分家も求める程の野獣の力宿せし少年は、抜いた妖刀を己の敵である存在へと突き付けた。自身の人生を踏みにじる蛮行に手を染めた半グレ……しかし無残な姿を晒す事となった、哀れな有象無象の成れの果てへ向けて。


「あの時はよくも、俺達兄妹の人生を台無しにしてくれたな、禍久まがひさ! けどその哀れな姿に免じて、俺がちゃんと相手してやるから、心置きなく冥府の底へ堕ちて行きやがれっ!!」


 飛ぶ咆哮。猛る五畿目のストラズィールは、他の子供達の駆る機体が未だパーソナルカラーを持たぬ吊るし状態であるのに対し、機体が自然と浮かび上がらせたオリジナルカラーで纏われていた。


 うるしの如き深い茶。光映さぬ漆黒。そのところどころへ紅色べにいろの装飾をまぶすかの出で立ちは、さしずめ鎧武者。頭部を飾る一対のセンサー衝角が金色に輝く様相が、刀剣を片手に戦場へ舞い飛ぶ武士もののふを連想させる。その手に翳す妖刀ムラマサも相まった、


『……ガァァ、チカラ! チカラァァ! ウゴォーーーーーーッッ!』


 その咆哮を察知した哀れなる不逞が、声の主を視界に入れるや嘆きを響かせた。自身を焼き尽くす煉獄から逃れる様に……そしてそこから逃れるために、成さねばならぬ目的に全てを懸ける様に。



 、その人生を台無しにした哀れなる不逞――両雄が相まみえる事となった。

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