memory:70 少年は仁義に猛る
客間へ掲げられた大モニターで、俺は信じられない物を見た。
それも見るも無残な姿が突き付けられた事で、思考へ動揺が走ったのを覚えてる。
「おにーちゃん……あれ、
「いやいやおかしいだろ……奴は人間だぜ!? それが――」
暗転する思考。俺達は異形の魔の存在と戦うために、ここへ集まったはずだ。決して同じ同族を殺めるために強大な武力を翳すためじゃない。
そんな困惑に揺れる俺へ、モニター越しの通信が投げかけられる。それは俺が教導を乞うはずの
『
「生ける屍って……なんだよそりゃ!」
『展開が急すぎて
「……俺が、相手取る!?」
そして語られる真実は、
同時に俺も理解する。俺が学ぼうとした技は、眼前のそれを否応無しに相手せざるを得ない過ぎたる力。けど――
今さらそれを投げ出す程の腰抜けには、決してなりたくはなかった。
『こいつ……めちゃ手強いぜ!? ナルナル、狙い撃て!』
『分かってます、けど……そこに人間がいるんですよ!?』
『
『いやでも、人間の姿されたら……って!?
『サオリーナ、下がるんだ! ボクと連携して――』
そしてあちこち通信で漏れ聞こえて来る、俺達を家族として迎え入れんとしてくれる仲間達の悲痛。確実に、異形の額へ張り付いた人間の虚像が影響して、戦況がジリ貧になって行く。
見た事もない巨大なる機神と、同じく巨大な魔の異形との戦い。その目に映り込む、確実に形勢不利な状況を目の当たりにして、俺は無意識に言葉を漏らしていた。
「……だめだ。今のあいつらじゃ、アレを倒す事は出来ない。」
「……? おにーちゃん?」
あいつらは、俺達を迎え入れる程に優しい心意気を持っている。だからこそ、たとえ異形が相手だろうと、人間の姿を晒した敵に手を出すなんてまかり間違ってもあり得ない。
なら誰がやる?
そんな相手を叩きのめせる奴は?
〈俺がこれから相手取る真の敵〉……脳裏を掠める
「おにーちゃんは、いつも
「……
俺の背を押したのは、いつも俺が守っていたはずの
もうその言葉を聞いたなら、迷う必要なんてない。そもそもここを守る事が、
ぶっつけ本番だろうと、俺の足は大格納庫と呼ばれる場所へと走り出していた。
†††
かつて両親に裏切られ、半グレの謀略の餌食とならんとした少年は、その双眸へ仁義と言う名の覚悟を宿していた。妹を己の手一つで守り続けた心意気は、いつしか大切な仲間との絆を生み――
気が付けば、少年は同じスネに傷を持つ少年少女達が集う場所へと迎え入れられていた。
「こちらであります、
「言い難いだろそれ!
「自分も
まだ会話もままならぬ二人は、自己紹介も手短に目的地へと駆ける。が、格納庫で詰める大人からすれば、
「おやっ!? まだ
「
「うむ……それは確かだね〜〜!」
格納庫で優しき荒くれを引き止める
『おう、
「……れ、
「
『おう、よう聞け! お前今から出るつもりなら、ワシが援護したるけぇ安心せいや! このままじゃあのガキ共、すぐにでも大敗を期す恐れがあるけぇのぅ!』
「感謝するっす! すぐにでも、あのストラズィールとか言うロボットで出るっす!」
『カカッ! 気張れよ、少年!』
次いで
「
「整備長……
「……いいじゃねぇか! 機関の坊主に嬢ちゃん達並の気概は、充分備えてやがんな! なら
「うっす!!」
巨大なる機体へと駆ける優しき荒くれへ、声を張り上げ覚悟を問う頑固整備長。それも杞憂に終わる事となり、憂う当主への恩義に報いるとの少年の言葉へ、感嘆と共に協力を宣言するおやっさんがそこにいた。
そのまま機体コックピットへ上がる昇降設備まで、案内を成した寡黙な娘少尉が、起動に必須となる品を荒くれへと手渡した。
「これを!
「分かった。こいつの起動の仕方はわかんのか?姫乃。」
「それぐらいは、パパ一佐から指南されているであります!」
「お……おう、パパ一佐か(汗)。
「了解であります!」
若干空気が緩い方向へ乱れるも持ち直し、一気にコックピットへと駆け上がる二人。やがて搭乗者を待ちわびる巨人コックピットの、開かれたそこが二人の目に飛び込んだ。
未体験となるそれも、鑑賞に浸っている場合ではないと滑り込む優しき荒くれへ、寡黙な娘少尉が言葉を投げる。
「一つだけ……あの魔の異形には、人間を形取るモノが張り付いた状況。それをあなたは、打ち倒す事ができるのでありますか?」
「……多分そりゃ俺にしかできねぇ。違うな……俺がやるのが都合がいいはずだ。少なくともあの相手……デューク級だったか? あそこに生えてやがるのは、俺達兄妹の人生をクソ親とグルになって貶めた相手――」
「
「……っ!? クソ……親。申し訳ないであります……自分は踏み入ってはならぬ領分へ……。」
「ああ、気にすんな。
眼前の輩な少年の、正反対な人生に言葉を詰まらせる寡黙な娘少尉。だが時が時と、話を後回しに事を進める優しき荒くれ。気持ちを切り替え首肯する少尉も、急ぎ起動方法を伝達して行く。
今までの少年少女らとは些か異なる、人ならざる者が目覚めを待つその中で。
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