memory:67 引かれ合う因果
その最後の機体搭乗候補であった二人が、洋上施設へ到着を見た頃。すでに太陽が太平洋を煌々と照らし出す、真昼を少し過ぎた頃の暑い日中であった。
「……
「なんだ? やけに態度の悪い奴が来たな。」
「あぁ? やんのか、コラ。」
しかし彼らの出会いは、まさかの一触即発。それも当然……少年の中でも、他人への警戒心が先に立つクセのある
「ぞ、ぞぞぞ……お族さんとかって!? 聞いて無いですよ
「ああ……せっかく珍しく、ナルナルがコックピットから出て来たのに。またこれ、ヒッキニトへ逆戻りっポイ……。」
「略し方!? 訳分からない略称で呼ばないで下さいよ、このサオリーナ!」
「あたしもサオリーナ、ではないぞ? ナルナルさんとやら。」
予想外の相手で縮み上がる
「また問題児でやがりますか……。この機関らしいでやがりますけどね。」
「おねーちゃん、言い方……。これから仲良くして行かなければいけない方ですの。もう少し態度を改めないと――」
洗浄作業を放棄したパイロットな子供達につられ、人海戦術へ駆り出されていた双子までもが集まる最中。険悪な二人の後ろから響いた声が、その場を一変させる事となった。
「お、おにーちゃん! 家族になってくれる人達との面会なんだよ!? こんな所でケンカしちゃだめだよ!」
場を沈めた可憐な声の主が、
「「「「か、可愛いーーーーーーーーっ!!」」」」
「ふえっ!?」
直後風になった穿つ少女と、貫きの少女に加え、淡色の双子が瞬く間に
「あなた、お名前なんて言うの!? 車椅子もマジでオシャンティー! なんか色々ありそうだけど、ここでは……って、ナルナルはヒッキニトしてればいいでしょうが!」
「いえこれは、解せぬ事態ですよ! そんな訳分からない人に、なってる場合ではないですね! この、二次元萌えガールの熱きロボット物展開しか興味ない私が、こんなにも惹かれる容姿はまさにリアル萌え! さあさあお嬢さん、この私に自己紹介を……ハアハア。」
「このヒキニートはキモいでやがります! こんなメスガキの相手などしていたら、可憐なその容姿が穢されるでやがります! さあこのウルスラと、二人で素敵な会話に洒落込むでやがりますよ!」
「もう、おねーちゃんもナルナルさんも! どっちもキモいですの! それにちゃんと自己紹介しなければ、この方が怯えてしまうですの!」
「わわわ……あのあの!」
訪れた嵐の様な惨状は、機関側の男子陣営へも呆れを呼び、いつの間にか険悪な空気さえ霧散していた。当の険悪さを生んでいた優しき荒くれが、眼前で撒き起こる事態に目を丸くしていたのだ。
目にした光景は、それこそ己を慕い続けた族のメンツが醸し出す様な……自分の妹を決して
「どうだい?
想像だにしない展開に呆然となる優しき荒くれへ、ここぞとばかりに憂う当主が口角を上げる。彼をして自慢にたる、機関の
「ああ……悪くない……。」
それに答える少年の心が晴れ渡る。気が付けば、その心から自分達兄妹を散々苦しめた、大人社会への憎悪が残らず吹き飛ばされていた。その双眸へ――
誰にも見せた事のない、穏やかな優しさが広がって行く中で。
†††
そんな中訪れた思わぬ邂逅は、他との協調を断って来た彼にとっての試練となってしまう。
「いかん……あのガキがあまりにまっすぐ過ぎて、思わず技の師を買って出てしもたけぇ。じゃからワシは、表の社会と関わりとうなかったんじゃ。」
「その辺は、当主
「迷惑な話じゃけ。」
日に日に昇る太陽の播く熱波も増し、
馬が合わぬ様でいて……守護宗家でも類まれなる、理論派にして知略に富む草薙の新たな新進気鋭を信じる二人。その根底に宿す共通理念があるからこそ、噛み合わぬ関係を超越した共闘が叶うのだ。
吐いたツバは飲めぬと、暴君分家が少年を如何に鍛え上げるかを思考する中。思い出したとばかりに、社会派分家が一つの提案をぶち上げる。
「ところで
「……と言っても、あのストラズィールとは比べるまでもなく小型で、戦力も大きく劣る個体となります。しかし現状、彼ら以外の施設防衛網には一抹の不安を感じた所、臨時で準備させていた次第です。」
「おい、待たんかいおどれ。それはアレか? その機動兵装へ、このワシが乗れとか言う算段じゃなかろうな。」
「それ以外に回答は準備していません。それらは、ストラズィールの様な機体が使えなくなった未来……そこで万一魔が
放たれた言葉で、盛大に嘆息する暴君分家。実質彼の様な者しか適任者がいないとは言え、辿り着いた答えには項垂れるもやむ無しの状況。対し、そこで淡々と、今後の霊的防災対策も見越して語る社会派分家は、暴君分家にとっても苦手な存在である。
それを表すかの様に、暑い日差しの中天を仰ぐ様に嘆息を繰り返す暴君分家へ、かけたメガネをクイッと直し、端末情報をツラツラと読み上げる社会派分家がそこにいた。
「機動兵装のサイズは10m手前であり、今後展開予定であるタケミカヅチ及びヤタガラスシリーズの母体となる試作機。機体固有名称に〈ヤクサイカヅチ〉と臨時仮称を与え、輸送艦による移送を予定しています。」
「ヤクサイカヅチ……日本神話に於けるイカヅチの神の総称けぇ。また大層な名を付けたものじゃけ。」
「守護宗家は代々、日本神話に
「カカッ!その点は大いに気に入った! ワシが
社会派分家から語られる守護宗家の習わしは、元を辿れば日本国の神話に於ける陰陽の関係へと辿り着く。世界の全てが陰と陽で成り立つ真理と、
故に力ある者は、過ちを犯すは神罰下りて絶命すると同義であると言う、覚悟の元その力を振るうのだ。力ある者……即ち、世界に於ける存在価値と引き換えに魔を穿つ力を宿した、宗家切っての狂犬は――
義宿る力を振るう権利を与えられた事への、歓喜に満ちた高笑いを響かせていた。
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