命の闇は世界を蝕みて
memory:66 新たなる家族は救世の巨人に見守られ
宗家が準備してくれた宿泊施設で、いろいろ考えての宗家への協力。俺の身体はいろいろボコされた後だったが、早い方がいいとの判断だった。まあそこで、
俺達はすでに、頼れる親類も何もがなくなっていたんだから。
「条件……だったね。詳しく聞かせてもらおう。」
いろいろと足早になった今。地球防衛への協力のため、俺と
すると身体を乗り出して来た
「すまねぇ。俺はあの
「ふむ……言いたい事は分からなくもない。が、オレが相手ではそれを充分に熟せないと思うよ? と言う事は――」
「まあ、あんたの読み通りさ。俺みたいなはみ出し者を認めてくれたあの人……
そして耳にした、
その人物から戦い方を学びたいなんて、正気の沙汰ではないはずだから。
逡巡からの盛大な嘆息。どんな事でも力添えする算段な彼は、致し方なしと携帯端末を手に取った。通信先は言わずと知れた
「
「うっす。
緊張が無いと言ったら嘘になる。俺をボコボコにした族集団を、赤子をあやすように地ベタへ這い蹲らせた狂犬。三神守護宗家でも比類なき武闘派。そして彼が口にした、表社会には生きた証さえ残せぬ影の人生で、ひたすら弱者の盾に徹した立役者。
そんな存在と、端末越しに話すと考えただけで、この手の震えが止まらなかったのを覚えてる。
『おんどれ、正気けぇ? ワシの戦い方を学ぶとか、普通は考えんけぇのぅ。』
「正気です。けど、それぐらいしないと俺の受けた恩が返せねぇ……そう思ったから、あなたを頼る事にしました。」
僅かの沈黙。そして狂犬と呼ばれた人より、俺への覚悟を問う言葉と、彼自身の思う所の両方が語られる事となった。
『……本気のようじゃけ、まあ受けてやらん事もないわ。じゃがこれだけは言っておくけぇ、耳かっぽじって脳髄へ刻んどけ。おんどれ……
『ワシのおる世界に踏み込めば、家族を守るどころではすまんけぇ……大輝は大輝の世界に踏み止まれ。光の世界で踏み止まれにゃぁ家族を守れん事だけは、死んでも忘れんな。これがワシの技を教える最低条件じゃけぇ。』
「ありがとうございます。キモに命じておきます。」
『カカッ!ええ心構えじゃ! これならおどれ、場合によっては守護宗家の末端分家の地位も明るいのぅ!』
それだけのやり取りを終えるや、ブツリと通信を切る
俺の思考は、今までにないほどに明日を見据える余裕が生まれていたんだ。
†††
前日の嵐が嘘の様に晴れ渡る太平洋上。その風雨に晒された
「いいか! 流石に昨日の海水乱舞は洒落にならん! 乾いて塩害が出る前に、とっとと施設全体を洗い流すぞっ!」
「「「アイ、サー!!」」」
が、
施設内の浄化設備で濾過された真水による、大規模洗浄が行われていた。
『ナルナル、こっちは終えたから鳥さん左翼を頼むっポイ!』
『はぁ……了解ですよ、サオリーナ。しかしこんな手間な作業も施設運用の一貫とは……ちょっとロボット物の良い面ばかりに毒されてましたね。恐るべし、雑務作業。』
『同感だよ(汗)。ボクこそこんな機動兵装使って、施設の大規模清掃とかやるハメになるとは思わなかったんだけど?』
「いいから手を進めろよ〜〜。日が暮れちまうぞ〜〜!」
『『『なんでアイツだけ、作業指示側なのさ……。』』』
しかし施設全長が2kmに達する事から、人海戦術にも限界があると、急遽
そこへ響くジェット音に、子供達含めた機関員皆が視線を上げた。
視界の先には、着陸態勢に映る宗家輸送機。それを視認するや、
「って、こらぁっ! ガキ共まだ、作業は終わっちゃいねぇぞっ! ストラズィール使わにゃ、この規模の海水洗浄が終わらねぇだろうがぁ!」
思わず怒号を張り上げた
怒りで地団駄を踏む頑固整備長を尻目に、緩やかにジェット音を撒きながら輸送機が滑走路へ近付くと、今度は輸送機側へ搭乗する子供達が驚く番であった。
「おにーちゃん、アレ! ほんとに巨大ロボットがいるよ!? 凄い……しかもこんな太平洋のど真ん中なのに、大きな島が!」
「分かったから落ち着け。にしても……マジもんだったのかよ。それにこのサイズ……俺はてっきり、よくて重機のちょっとデカイ版程度かと思ってたぞ。」
はしゃぐ
そしてふと思考へ引っかかりを覚えた優しき荒くれは、思い出した様に
「そうだ……
「それは案ずる事もない。ウチのSPから、君が
「そこで全てのバイクを押収保管のもと純正へと戻した後、盗難車両は警察経由の元、所有者への返還を買って出てくれた。残る所有者なき車両も、有志へレース車両として貸し出すとの事だ。」
それも、憂う当主の言葉で杞憂に終わる事となる。
彼の返答には二輪四輪関わらず、モータースポーツを愛する者たる情熱と配慮が多分に込められていた。己の生活を支え、時には心のモヤを晴らすために一肌脱いでくれた相棒が、同じくそれらを愛でるのを
程なく僅かな着陸のショックを感じ、座したシートの固定ハーネスを外す憂う当主が、二人を
そして――
「では
放たれた労りの意味する所を悟った兄妹は、視線を交わし微笑んだ。同時に彼らを包んでいた暗雲へ、一筋の光明が差していく。
二人が先も見えず繰り返して来た、耐え難き日々の先に輝く未来を導く様に。
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