memory:61 不逞の魔手は幼き少女を蝕みて
降り出した雨の中、太平洋上特有の暴風雨に見舞われる
「太平洋の天候が変わり易いのは聞いた事があったけど……これがその実態っポイね……。」
『宗家特区から見る湾とか、もはや比べ物になりませんよ。』
洋上と打って変わる宗家特区――
そこも首都圏が近い事から、その後方に位置する山々の気候と海上の気候が影響し、頻発する天候変化にも富む状況。
そんな特区にほど近いマンションでは、止まぬ雨に憂鬱を爆発させる幼き少女がいた。
「もう……またお洗濯が部屋干しだよ、おにーちゃん! この雨さん、
「それを俺に振るなって。どうしろって言うんだ。部屋干しでも構わねぇから、さっさと干しちまうぞ?」
車椅子生活が常の
貧しく不自由であろうと続くささやかな日常が、収まらぬ雨足で夕刻まで暗雲を引き摺った頃。夜バイトの時間と、優しき荒くれが濡れる身体も厭わず
「おにーちゃん! ちゃんとカッパ着ないと、風邪ひいちゃう!」
「バイク飛ばすのにカッパなんて着てられるか。なるべく早く職場に着くから、お前こそ雨に濡れて風邪引くな。」
そこで不自由な妹が、マンション廊下から雨に打たれながら声を上げる。愛機に跨る優しき荒くれも、妹が雨に濡れる事を気にかけ返答した。互いに案ずる想いは同じと、思わず笑みを交わし合う兄妹は、様々な苦難も逞しく越えて行く未来の希望そのもの。
そんな二人を察したかの雨は、そこから少しの間小康状態となり――
優しき荒くれが夜バイト職場に着く頃には、フワリと舞う霧雨へと変わりつつあった。
天候に恵まれたと感じた妹は、その日も当たり前となった家事のスケジュールを熟して行く。兄のいない間の彼女は、一人で住まいを切り盛りするタフな女性であった。
しかしそんな彼女に万一が及んではと、優しき荒くれ不在の際は、
彼らはまさに、貧しくも逞しい兄妹との家族ぐるみの付き合いを成していたのだ。
だが――
気の知れた素敵なファミリーを地で行く彼ら。彼らにとっての、悪夢の様な悲劇が訪れようとは、その時誰も想像などしていなかった。
「なんだ
「当然っすよ。これ以上
ファミリーのウチ、立派にも定時制へと通うメンツである
彼らはその日の分担とし、優しき荒くれの妹を訪問し安否を確かめる役回り。二人にとっては、少女の笑顔を拝む事もささやかな楽しみ。それこそ彼らの妹の様に少女は愛でられていたのだ。
霧雨を切って走る二台のバイク。やがて目的地であるマンションが視界へと映ったのだが――
彼らはそこで、想定だにしない事件を目撃してしまう事となる。
†††
『宗家どもの動きを確認したが、夜が
「エゲツねぇなぁ……。確かにここいらの地方警察はあんたらを恐れて動けねぇがぁ、まさかそれが
『任せる。経過報告は忘れるな。』
そしてやり取りされる不穏は常軌を逸する。仮にも一時は守護宗家の一角を担う予定であったかの御家が、人混みに紛れて歳場も行かぬ少女を拉致する計画をぶち上げる。
すでに国家を守護し続けた威厳など、欠片も存在してはいなかった。
やがて
貧しかろうと逞しく生きる、兄妹が住まうマンション……一人家事に勤しむ不自由な少女の元である。
兄妹と家族ぐるみでもある
彼らの眼前には、総長である優しき荒くれの住まうマンション。だがそれを囲む様に集結する改造バイクの集団が、近隣住民も逃げ出す程に猛烈な爆音を上げ息巻いていたのだ。
だが、彼らはそんなものに意識を持っていかれたのではない。その集団の中で、決して見紛う事なき一人の少女が、力なく抱えられて拉致される瞬間こそに衝撃を受けたのだ。
「テメェ、クソ野郎!
見るが早いか、
「……ああ、雑魚は黙ってやがれよぉ。オイタが過ぎんぜぇ?」
「がぐっっ!?」
愛機を捨ててまで駆けた特攻隊長の横合いから、砲弾の様な蹴撃が飛ぶや、まともに受けた特攻隊長が弾け飛ぶ。瞬間響いた鈍い音と共に、族集団脇で構える取り巻きの方へ転げるや、そのまま横たわった。
「こ、
次いで反応したお騒がせ後輩も、死角から飛来した拳がボディへとめり込み、胃にある物をぶち撒けながら
その惨劇をニヤニヤと嘲笑しながら、攻撃を放った影が口を開いた。
「やっぱり口先だけだったなぁ、フォイルとやらはぁ。まあ
ゆらりと打ちのめされた二人を見下ろす体躯は、不逞の手足となるタトゥーの輩
「オメェら、あの
何かを嗅がされたのか……意識を飛ばした
全てが予定通りに運んだ頃、タトゥーの不逞の合図で
世間の闇で行われる陰惨にして外道極まる蛮行。それを成した者共はその一部始終を目にし、裏付けを行う狂気がいる事にも気付かずにいたのだ。
「
「分かっています。そちらはくれぐれも、タイミングを謝らない様に。でなければ、背後の
「わーっとるわい、じゃかましのぅ。はよ行けや。」
言葉を交わすは、族の集団背後で事を監視していた
念押す社会派分家へ、シッシと払う様な仕草で促す暴君分家は直後、
それを視認した嘆息の社会派分家も、
時間にして数分の後……事件は憂う当主の耳に入る事なったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます