memory:59 陰り募る高位なる者
ルミナーティル・マギウスの全面的な協力を漕ぎ着けた我がアメノハバキリ。確かにその交流会議では戦慄を叩き付けられたが――
この機関に属する子供達の順応力には驚かされたものだ。
『ああ、ロボットモノな展開だとばかり思ってたら、そこに魔族とか絡んでくるとは……。私も想定の遥か彼方でしたよ。』
「……うん。私全然分からないっポイからね? そこんとこ、ウルスラさんにアオイさんはどうなんですか?」
「こっちに振るなでやがります(汗)。あたしだって、あんな展開は青天の霹靂でやがりますよ。マゾクなんちゃらでさえ理解に苦しむ所、マシーテー??ルシファーとか、一体何なんでやがりますか。」
「おねーちゃん、
「各世界に魔王を配してとか言ってたから、その頂点に君臨する神であり魔王……って事じゃねーか?」
「皆、順応力高すぎない? ボクはまだ、事の触りにも着いていけないのだけど。」
その順応力もさる事ながら、食堂施設で朝食を囲む彼らはすでに打ち解けた空気に包まれる。そこへウルスラ君にアオイ君……さらには正式に機関へ加わったばかりの
加えて――
「こちらと聞いて伺ったであります! 不肖ながらこの
『「「堅い〜〜。」」』
「なっ……何をするで――
「「「ブフッ……!?」」」
交流のためと、同世代の集まるテーブルへ足を運んだ
「姫乃があんなにも皆に厚遇されるとは……。やはりあの子を、この機関へ呼び寄せて正解でありました。」
「厚遇……ですか(汗)。初対面から弄り倒されている様に見えますが。」
その風景は、実の娘を何より案じる
食堂へ代わる代わる足を運ぶ機関員も、目にする光景を慈しむ様に、子供達への気さくな声がけをして行く風景。それだけでもあのロズ君が口にした、デヴィル・イレギュレーダを生む原因が我ら人類にあると言う現実を忘れさせてくれる。
そう……今だけはそれを忘れさせてくれるのだ。
朝食時間に子供達の状況確認を終えたオレは、そのまま再び日本本土へのフライトとなる。事態が混迷を極め始めた事もあり、アメノトリフネで事の取りまとめに当たりたい所だったが……すでに通信で、あの宗家が誇る狂犬の零善殿より臨時の報を受けた所。
天より襲い来る異形へ対する我等ををあざ笑う内紛問題……言わば身から出たサビが、事態へ急変を齎しつつあったからだ。
「すまないな、
『皆まで言わずとも了解していますよ、
「……ああ。
程なく離陸を見る輸送機で、
かつて宇宙よりの来訪者を、人道的に救済した我が義父たる
逃れられない8年前の悲劇が、オレ達の今を蝕み始めていたんだ。
†††
何気ない日常が包む日本国本土で、闇から闇を伝う様に陰謀が渦巻いていた。だがそれを
そう……人類の中には、である。
「下っ端の族共から定時連絡は届いているぜぇ、
『話が早いな。迂闊に動けば、宗家の手が回る。あの憎き草薙家は、腐っても対魔討滅機関……己の本丸内で事が置きたとあれば、問答無用で私設の特殊部隊を差し向ける。歯がゆい事この上ないわ。』
先に族のナンバー2よりの連絡を受けた男が、天月家棟梁である烙鳳の名を口にし、
そこは廃れた雑居ビル。辺り一面の壁へ、スプレー文字による他者への罵詈雑言が書き殴られる風景。一般人も恐れて近寄らぬそこで、破れた長いシートへどっかと足を投げ出し座す男がいた。
上半身から顔の半分までタトゥーを入れた風貌に、耳と言わず唇に鼻と、至る所に毒々しいピアスやカフスを飾る姿は一目でアウトローと判別出来る。体躯もむき出しの筋繊維の鎧に包まれた、身の丈でも180cmに届く影は
「ああ、分かった分かった。あんたの要件通りに動いてやるから、時が来れば連絡頼むぜぇ? っと――」
ギラつく双眸に薄ら笑いを浮かべる男が、協力者との連絡を終えると、手にした携帯を投げる様に側へ居座る取り巻きへ渡す。取り巻きには女性も含めた数名が並ぶが、何れも身体の其処彼処へタトゥーを入れたアウトローであった。
すると乱暴に連絡を終えた
「おめぇはよぅ……この俺っちが指示した通りに、動けなかったらしいじゃねぇかぁ。」
無意味に間延びした語尾とは裏腹に、言葉へと込められる殺意で、変形するほど殴られた男の顔が一層恐怖で竦み上がる。それを一瞥するや、タトゥーの不逞は興を削がれたと嘆息を漏らした。
「はぁ……腰抜けがぁ。おいお前ら、この能無しの始末は任せるぜぇ。なあに……腰抜けには腰抜けに相応しい役目があるから、安心しろやぁ?」
「ひぃぃっ!?」
「分かりやした。こいつはこっちに任せて下せぇ。」
程なく、引き摺られて行く腰抜け下っ端の姿も見えなくなった頃、タトゥーの不逞が取り巻きの準備したウイスキーをぐいっと煽り舌なめずりする。直後漏れ出た言葉には、
「フォイル・バーニングとか、ふざけた名前のチーム作ってやがんなぁ……あの
ウイスキー入りのグラス片手に、遠くへ視線を移すタトゥーの不逞は、顔はそのまま視線だけを取り巻きへと移し――
「確かあいつにゃ妹がいたな。面白れぇ……
ケケケと野卑た笑みを浮かべる不逞に、同調する取り巻き。その不穏なる発言は、雑居ビルの喧騒に消え誰にも届く事は無い。そう……ただの人間の耳には――
タトゥーの不逞も想像だにしない存在が、それらのいる雑居ビル屋上で立ち尽くす。双眸には、以前にも増した憂いを刻んだままで。
「ああ……こうやって人の悪意が世界を歪めて行くのか。ままならないものだね。我ら魔の者が深淵に堕ちぬ様永劫とも言える研鑽を続ける中、堕落した人の悪意が止めどない怨嗟と不穏をバラ撒いて行く。」
「これではもはや、あのデヴィル・イレギュレーダのいい餌場ではないか。」
憂う双眸で語るは高位なる者。
「我が定めは、この世界に於ける死と再生という輪廻転生の構築。そこへ異常が生まれれば、ボクは遥かな深淵へとこの身を委ねる他はない。それが輪廻の番人たるボク――」
「
深淵の狂気が、魔王 ヴェルゼビュードを
定めを思考に描いた
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