memory:57 光と闇の共同戦線

 男爵級に公爵級と、立て続けに訪れる異形勢力増大に危機感を感じたオレは、トリフネへと戻るや緊急招集をかける。


 本土での闘真とうま君受け入れで奔走する間、麻流あさるが進めてくれていたロズウェル君からの情報共有に加え……機関へ本日付けで着任となる陸上自衛隊所属の、参骸 姫乃さんがい ひめの三尉紹介も兼ねた会議へと移る事とした。


「急な召集ですまないな、皆。ロズウェル君も参加に感謝する。そして……今日付けで当アメノハバキリへと転属となった彼女の紹介に移ろう。参骸さんがい三尉――」


「はっ! 自分の名は参骸 姫乃さんがい ひめのであります! 階級は三尉……陸上自衛隊宗家特区駐屯地より転属となり、ここアメノハバキリ機関へご厄介になる事と相成りました! 以後お見知りおきを!」


「「『か……堅いなぁ〜〜(汗)。』」」


 とまあ、予想通りの堅さに反応する奨炎しょうえん君達三人と、すでに面識のある闘真とうま君が嫌な汗に濡れる大ミーティングルーム。そこへ娘の晴れ姿を拝むためと、真っ先に部屋入りしていた参骸さんがい一佐が親バカな憂いを乗せた視線で見やっていた。そこへ――


、今日この時よりと同じ職場であります! 指導御鞭撻のほど、よろしくお願いするであります!」


「「「「ぱ……パパ一佐???」」」


 なんと親バカに応じる様なに交じる、響くや、集まる一同が目を剥いた。それには流石の参骸さんがい一佐も嫌な汗からの苦笑い。それを忘れていたと言わんばかりに、助け舟をこちらへ懇願して来た。


 想定してはいたが、特段心配はないだろうと一佐へ苦笑と共に視線を送り、その助け舟をしっかり出航させておくとしよう。


「彼女とのやり取りには、少し変わった感じを受けるだろうが……この機関においてはそれもさしたる影響もないと考えている。なので奨炎しょうえん君に闘真とうま君。そして音鳴ななる君に、沙織さおり君は言うに及ばず――」

「ウルスラ君にアオイ君も含め、姫乃ひめの三尉と仲良くやって欲しい。それではくだんの情報交換へと移るとしよう。ロズ君には、あまり長居が出来ない種族柄の事情もあるからね。」


 子供達に加え、機関員でも三尉と司令室で直接仕事を熟す双子へさらりと協力を要請し、魔軍よりの協力者である少年とのやり取りへと移行する。


 彼ら魔族と言われる存在は、地球は裏社会で密かに知れ渡る、闇の眷属上位に位置すると聞き及ぶ。現在は彼らの故郷にある魔界にも存在する超古代技術ロスト・エイジ・テクノロジーの恩恵で、昼日中での生存を可能としている様だが、それもかなりの負担があるとの事。


 故に、彼らへこの地上で日が登る内に長居させるは得策ではないとの判断だった。


「こちらをおもんばかる対応に感謝する。我がルミナーティル・マギウスでも、現在この地上で長時間の滞在が叶う様、技術的な改善を進めている所。何れは腰を据えての話し合いも叶うはず故、今回は早々の情報交換で容赦願う。」


 するとこちらの意を汲んだロズウェル君の、紳士たる礼が返される。あのシザ君とは少し異なるも、そこには共通する理念の様なモノが感じられた。


 魔族と呼ばれる存在は、古き文献でも高貴にして高潔であり、その行い一つ一つへ崇高ささえ宿すと記される。それは魔族が闇に存在する人間と対成すモノであり、最も深淵に近しき種族である事が由来するとも。


 記述の古さ故、詳細が不確かでもあった魔族と言う存在。だがしかし、今ここに魔族の代表として訪れた彼……ラルジュ・デモンズを駆る魔族の、ロズウェル・A・フェンベルド君が触りを口にする。


「ではまず、我ら魔族と言う存在の簡単な素性だけお話する。掻い摘んで語る故、後で情報整理などはお任せするよ。」



 今後予想される異形討伐激化へ向けた、



 †††



 天空より来たりし魔の者は語る。元来異界か地の底かにあると言われた世界が、その実は同じ世界である宇宙の……それも人類が住まう太陽系の一部となる場所に存在している現実を。


「我ら魔族の住まう大地云々の前に、地球側の魔族と呼ばれる者の解釈に対する誤解を解いて置かねばならないね。」


 大ミーティングルームの宙空モニターを前に、温和な魔太子ロズウェルが映像を並べて説明を開始。地球側の技術利用に不慣れな彼に変わり、データの投影調整諸々を同席した堅物一佐乱人が受け持つ形としていた。


 その一佐が映し出す映像は、おおよそ古の超技術体系ロスト・エイジ・テクノロジーからはかけ離れた空想を思わせる異形の映像群。しかし地球側の子供達に機関員は、奇しくも……詳しく知り得ていたのだ。


『これ、ロズ君も言ってた吸血鬼に狼男を始めとする、地球で闇の眷属って言われる者達ですよね。』


「おお……ナルナルが反応するとは(汗)。でも確か最近のSFロボットとかでも、神話上の神々になぞらえる者が元となってたり、吸血的な行為のみクローズアップされてたりするわな。」


「……二人ともなんで、そんなにホイホイ情報が出てくんのさ。あたしにはさっぱりっポイんだけど? 闘真とうま君も何か言ってやって(汗)。」


「え? そこでボクに振るの?」


 穿つ少女音鳴の意外な知見に見定める少年奨炎も感嘆を漏らすが、ついて行けぬ残り二人は顔を見合わせ疑問符を並べ立てた。その光景を見やる温和な魔太子は、まず話が分かる二人へと会話を振る。


「以後は名前で呼称するとして、音鳴ななる嬢の言う通りだ。ロズが先に口にしただろう? 地球で闇の眷属と言われる者達は現存する者であり、ロズ達魔族の下位種族に相当する。まあ彼らはこの地上で上位をうたっているだろうけどね。そして奨炎しょうえんだったね――」

「君の口にした……、これから話す魔族と言う存在を解する鍵となる。」


 そこで飛び出た単語に絶句する子供達とは裏腹に、機関に属する者達は来たかと静聴の構えを取る。彼らがその点に動じぬのは、対魔討滅機関アメノハバキリと言う場所に関わっている故。


 日本国の遥かいにしえより現存する伝説の名家が、代々八百万やおよろずの神々が誇る力の一端を宿す旨を伝えられているのだ。


 驚愕で呆然とする子供達を一瞥し、憂う当主炎羅へ首肯を送った温和な魔太子は真相へ切り込んで行く。遥かな太古、すでに分かたれて久しい光と闇の道を再び一つへと繋ぐ様に。


「今諸々の事情も絡んでいるゆえ、我らが慕いしお方々より部分的に語る事が許されている点のみ話しておくよ。我らの故郷は、君臨する闇の者の楽園ロストエデン――」

「最上層世界〈ケテル〉に、魔の天上の頂きである魔神帝ルシファー様を初めとした六大宰相を置き、下層世界へそれぞれ魔王を配している。その闇の楽園を、我ら魔族は〈天楼の魔界 セフィロト〉と呼称しているんだ。」


 やがて紡がれる真実の一端は、あらかじめ神話に絡む内容を想定していた機関員からさえも言葉を奪い去る。温和な魔太子の語る言葉は常人の知見を軽々凌駕し、


 宇宙の歴史に於ける真実の一欠が、その最初のページを対魔討滅機関アメノハバキリへ開け放つ。そして――


 そこから繋がる異形襲来の真相が、次いで放たれる事となったのだ。


「そのコミュニティを持つ我ら魔族は、悲しくも一部の光に属する存在らから悪魔と称される事がある。しかしその実は、我らの様な高位の霊質を、そこに該当しているんだ。高位なる魔の霊的素質も無く、ただ獣の如き本能で霊的下位に位置する者を捕食する異形――」

「そして……我ら魔族が生まれ落ちる間際の、不確定で生命とも呼べぬ、光に属する霊的存在の元来本質を同じとする。即ち、我ら闇の人類たる魔族に対成す光の霊的存在……姿野良魔族生命デヴィル・イレギュレーダの正体と言えるんだ。」


 襲う戦慄は、そこにいる一同の心へと刻まれる。が――


 そんな中、信じ難き言葉を放った張本人は双眸へさしたる不安も浮かべてはいなかった。それは至極当然の事。彼は語るべき真実を、いにしえから分かたれた同胞へと確実に伝える事が叶ったから。



 襲い来る異形の勢力を穿つために必要不可欠な、一堂に介していたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る