五つ目の力は野獣の咆哮
memory:53 ストラズィールⅢ、打ち砕く者 ミョルニル
先に力を開放した
堕天騎将を二回りも巨大にした体躯は、荘厳にして高貴。それが魔の軍勢と告げられなければ、それこそ光が齎した神の軍勢かとも思えるほどである。だがそれは決して大げさな比喩ではなく、元来
実質霊的高次元の意思を形成する肉体を、低次元へ定着させるための本体そのものでもあるのだ。
『
「うむ、この様な事態だ……貴君だけでは手に余るであろう。だが決して、貴君の力を過小評価している訳ではない故、今は眼前の異形共殲滅に力を注ぐのだ。」
『……はっ!心得ました! ではシザは、地球下降軌道に移る不貞の討伐に当たります!』
己の能力を過信していた訳ではなかった
「すでに大気圏を抜けた異形はロズウェルが追っている故、地球の勢力との共闘で対応できよう。ならば我らはこの、現在巨大なる障壁の抜け道となっている地点の死守に務めねばな……。」
冷静に事を見定める堅牢な魔将。だが視線の端にチラチラと映る、何かしらの反応を確認しながらの行動は、課せられた厳しい制限の中でのものである事実を
一方――
すでに数体の
奇しくもその追撃行動を優先した事で、
「くっ……このバロンの硬さでも難義すると言うのに! こちらロズ……アメノハバキリ機関よ、応答願う! こちらの情報を受け取り次第、緊急対応に移られよ!繰り返す――」
すでに先行した
さらに航空性能に劣った事で、距離を詰め切れない彼としては、後を地上の勢力へと託すしかなかった。
そんな彼の緊急通信を傍受した
「報告を! ウルスラさん、アオイさん……状況はどうなっていますか!?」
司令室扉を慌ただしく潜る
「
「今までの、グレムリン級やガーゴイル級はそれこそ様子見の小手調べ……! それぐらい、今こちらへと下降して来ている個体は危険でやがります!」
「……分かりました。至急子供達の出撃準備を――」
鬼気迫るポニテ姉の表情を見るや、
それは、訪れた事態対応の最善策を導き出した。
『おい、
「四機目が!? ……分かりました! ではどう転ぶか分かりませんが、その機体が出撃できる様緊急スクランブル準備を許可します!」
蒼き大地の危機に反応する様に、新たな霊装の巨人も主を求め動き出していた。
†††
「よくこんな所へ、その顔を出せましたねあなた。私達がどれほど息子の容態で心が折れそうになったか、想像できるのですか?」
病院施設の面会室で、予想通りの怨嗟渦巻く言葉を受け取った。ボクはその怨嗟に対し、反論の言葉なんて持ち合わせてなかった。
その原因がボクである事実に、なんら代わりはないのだから。
草薙さんが仲介してくれたから、それこそいきなり掴みかかられる様な事態はなかったけれど、事件の顛末を考えれば誰もがそういう行動を取ってもおかしくはない。
自分の子供が、死の淵を彷徨うまで痛めつけられたのだから。
でも……だからこそ、
何より、
直前の、ボクに対する信じがたき厚遇からの今。それが大きく天秤の上で揺れ、そして
今のボクが受けるべきは厚遇ではなく、贖罪を果たして行く試練であると。
その思いが思考を支配した時、自然と言葉が漏れていた。まだ草薙さんへその決意は語っていなかったから、彼も少し目を見開いていたのは傍目でも分かったけど。
「それは……仰る通りです。ボクが起こした事件に弁解の余地などないのは分かっています。けど……だからこそ
「……成すべき事? あなたが成すべき事は、ウチの
迷わず
そんな状況を動かしたのは、草薙さんへ届いた携帯端末からの通信。それも明らかに、緊急的な内容の籠もるものだったのです。
「……こちら
確かに緊急の通信ではあったのだけど、会話の最後で冷静さを取り戻した
今この地球に迫る危機の……その一端を。
「
「拘置所に裁判所……それ以外に一体なにがあると――」
「この地球を守るための……敗北すれば、人類滅亡も危惧される戦場です。」
語られる言葉で絶句したのは
さらに呆然とする親御さんらを置き去り、ボクへと言葉が投げられる。草薙さんの……対魔討滅機関を纏める指令としての言葉が。
「いいかい
「自立稼働……我らの人智を越える意思が、君の搭乗こそを待ちわびている。反応を示したのは、君が仮に搭乗したストラズィールの三号機に当たる個体だ。」
運命がボクを包んで行く。きっとこれは、最初から定められていたんだ。だってボクは――
「三号機……そうですか。あの機体が……〈ミョルニル〉が――」
無意識に発していた機体名。それはアメノトリフネ内で、自身が何となしに口にしていた……機体の名前。
その名を耳にした草薙さんがさらに目を見開いた時、そこへかけられる言葉がボクの心へと突き刺さったんだ。
「……ニュースで持ち切りとなっているため、私達もうろ覚えですが知り得ています。
「「もしあのアメノハバキリという機関で、
親御さんは怨嗟に満ちた瞳でボクを見た。けど……
病院施設の大きな駐車場区画へ、稼働状態のそれが運ばれる事となった。
それを曳航してくれたのは、アメノトリフネ防衛を
『事態が急を要したからな!
『でもナルナルとロズ君だけじゃ、あのガチ強な野良魔族相手に、長くは持たないっポイから! だから
普段ではあり得ない状況。一般市民の眼前へ舞い降りた巨大なる機動兵装。その頼もしき姿を見たボクはもう、全ての過去なんて吹き飛んでいた。あったのは――
「うん!ボクもこれから君達と行くよ! 傷付けてしまった友達からも、掛け替えのない応援を受けたんだ!だからボクは行く……ボクが犯してしまった罪を償うために――」
「そして応援してくれた友達の正義を、ボクが変わりに成して行く! これからこのストラズィール・ミョルニルと一緒に、命を守る正義を貫いて行くよっ!」
視界を占拠する巨大なる相棒と、命を懸けて贖罪を果たすと言う想いだけだったんだ。
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