memory:52 魔王……降臨!
居た堪れぬ拳士が暴力を振るってしまった相手……
「
「あ、いえ。お気遣いなさらず。」
だが、乗り合わせとなる
そうして大した会話もなく
駐車場に降り立つ憂う当主は、宗家傘下の医療責任者へ連絡を取り、特別に許可を得た部屋で
「ああ、そうだ。こちらで
カチ上げた車の外から漏れ聞こえる名で、居た堪れぬ拳士の心が暗い影を落とす。彼は自意識が喪失しそうな状況で、己の行動を記憶していた。血まみれで倒れた友人と、嗚咽の中でそれを抱きとめる家族。直後――
――なんでこんな事に――との恨みさえ宿る視線が、彼の心へと突き刺さっていたから。
すると、黙し座していた娘自衛官がふと言葉を漏らした。さも拳士の心が、乱れているのを見透かした様な面持ちで。
「恐れるは正しい事であります。あなた……
「それと同じぐらいに、今の
唐突に聞こえた言葉に、それを発した主を視界に捉える居た堪れぬ拳士。その視線の先には、弱者のために己の全てを懸けて訓練に挑んで来た、自衛隊が誇る
「その希望は、自分がパパ一佐へ抱いていた想いにも似たものを感じるであります。日本国内と言わず、世界のあらゆる力なき弱者のために、人生の全てを掛けていたパパ一佐……パパの大きすぎる背中を見ていた自分の幼き頃の想いの様な。」
「あ……あの一佐の事を大切に、そしてそれほど誇らしく想っていたのですね? その……
ようやくほぐれた緊張から出た、最初の会話とも言える下り。それを耳にした娘自衛官は……変わらぬ視線はそのまま前へと向き直ってしまう。そこで視界入る、真っ赤に茹で上がった頬や耳を、居た堪れぬ拳士へと晒しながら。
そして――
「自分の事は、今はいいであります。それよりも
「選んだならば、それに誇りを持って口にするべきであります。人生は、一度きりでありあす故……。」
心を見透かした様な言葉の羅列が、拳士の聴覚を響かせ、心が大きく揺さぶられる。
「一度きりの人生……。誇りを持てる、後悔無き選択……。」
面談の連絡を取り付け振り向く、憂う当主が見守る中で――
居た堪れぬ拳士が双眸へ、揺るがぬ想いと確かな覚悟を宿していた。
†††
その宙域は、
監視態勢に尽力する魔軍の指揮官に当たる巨躯……
「シザ、ロズウェルよ。たった今、イレギュレーダの新たな発生を確認した。霊的重力変異が確認された宙域より、地球へと侵入する経路を奴らが取っている。だが――」
『……
『待てロズ!
同時にそれは、地球で対魔防衛に臨む
「うむ……ロズウェルの推測通りだ。確かに異形共へ、今までの群体以上の実体化数を確認した所。そこへ先に発生した、強力な防御を成す爵位級の異形が混ざり込んでいる。」
『レッサー・デヴィルクラスのバロン・ガング……!? あの群体出現が、さらに増加傾向にあると! ならば
『流石にその点にはロズも同感です。今我らは
急く様に声を荒げる魔の貴公子と、今回ばかりは同意と声を重ねた温和な魔太子は、すでに地球大気圏上のデータ収集最中に幾度か異形の大量発生を駆逐しての今である。だが、日増しに発生数の増大する驚異に対し、高い警戒レベルが共有されていた。
気概を見せる魔の若衆。それを感じ取る魔将も同様との思考に至り、それら異形対応として早速の出撃令が下されんとしていた。
ところが……その事態へ急転直下が舞い込む事となる。
三人の聴覚を襲ったのは緊急アラート。弾かれた様に同じ事態を悟る魔の者達が、魔導外郭内モニターを睨め付けた。そこに映し出されたのは――
先に魔の若衆が幾度も手折った、
『な……に、デューク……!?
魔の貴公子が驚愕した事に、まだ新たに発生を確認した男爵級を数度討滅したばかりの時期に、それを上回る爵位を持つ異形が発生していた。それも未だ獣の上位を行く男爵級から進化した様な、言うなれば人形に近しい形態の異形――
「緊急事態だ! シザ、そしてロズ……直ちにあの
『……っ、通信ノイズ!? これは、地球の障壁へ奴らが干渉を……マズイ! 経路が拡大される!』
事態を悟る堅牢な魔将が通信を送るも、直後に訪れたのは超広域に渡って乱れ飛んだ通信干渉。それも彼ら魔軍が用いる、光に対なす魔の素粒子……
それが通信障害を生む中で、聡明さにすぐれた温和な魔太子が即座に反応した。
そのまま
「通信障害が出たと言う事は……ならばそちらはお前に任せるぞ、ロズ! では、行って参ります!」
すでに彼の、機体越しアイコンタクトを受け取った魔の貴公子が、状況を察するや魔将へも機体越しアイコンタクトを送り飛ぶ。重戦騎が公爵級へと飛ぶ中、それを取り囲む男爵級を制するために。
「……素早き判断だ、二人共。ではこちらも異常に対処するとしよう。もはやこれほどの魔の異常が確認されたならば、いつまでも魔霊的な制限を付け運用を
「宇宙側の憂いを払う。我が肉体であり魂である者よ……
堅牢な魔将の声を感知するや、彼が搭乗していた巨大なる魔導外郭頭部の双眸へ魔光が煌めいた。
重厚なる鎧を思わせる体躯へ、幾重にも施された幾何学文字の装飾が刻まれるそれ。直立した姿は巨大なる人であるが、背部へコウモリを思わせる大翼を一対備え、加えて頭部より二本の湾曲した衝角と思しきものを後方へと伸ばす。
全高では、
例えるならば魔王。否――
それは
「ではアスモデウス・デモンズ……いざ参るっ!」
蒼き星のすぐ外で、膨大なる魔の嵐が吹き荒れ始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます