memory:49 アメノミハシラ
異例の魔の者との合同演習を終えた翌日。
「んん〜〜! ここの朝食、日替わりお味噌汁がサイコー! 昨日の豚汁も捨てがたいけど、今日のあさり汁がまたあっさりしてて朝食が進むっポイ〜〜!」
『確かに、ウマシウマシですね。こちらの卵かけご飯なんて、日本人にとってはツボでしかありません。おや?
「
「そこは気にすんなって。言ったろ?ナルナルはガチめのコミュ障な所がある上引きニートだ。」
「引きニートねぇ〜〜。」
『んなっ!? だから私は、引き篭もりはともかくニートではないし!?』
「引き篭もりは否定しないんだね(汗)。」
拳士も先日まで見知らぬ子供達。さらにはその彼らも出会って一ヶ月と立たぬ間柄であると言うのに、そこにはただの馴れ合う顔見知りの域を越えた、強き絆が生まれていた。
彼らは一様に社会の常識から隔絶され、自分がいる居場所さえ失いかけた者同士。だからであろう……出会った時間の少なさなど意に介さない信頼が、知らずに彼らを繋いでいたのだ。
共にある仲間を弄りあい、機関施設食堂に並んだ朝食メニューを一通り平らげた子供達は、僅かの休憩を挟み一路格納庫滑走路脇へと参集する。
当然そこには、
「慌ただしくなり申し訳ないね。ただ先より魔の襲来が見られていない状況を考慮し、早めの出立をと。そこは理解してくれると助かる。」
子供達――
例によって例の如く、端末越しの
「いろいろ皆に聞きました。なので状況も把握はしてます。お気になさらず。」
帰還を待つ居た堪れぬ拳士であったが、実質彼は戻ったとしても居場所などは存在しない。彼が戻る場所は、犯罪者を収監する拘置所である。誰も好き好んで戻りたいと願う場所などではない。
が――
「じゃあ
「そうね。軽い気持ちで戻って……とはいかない場所だけど、絶対あなたに辛い思いをさせないと誓うわ。」
『二人に同じくですね。例えここに戻らなかったとしても、連絡しあっていろいろ仲良くしましょう。』
「そうだね……リモートが得意そうな子が一人いるから安心だ。」
『ここで弄って来るとはいい度胸ですね、
やり取りへ親しい労りを乗せ子供達は笑い合う。光景を目撃した見送りの機関員達も首肯する。と……そこへ居並ぶ
「ところで
『えっ!?一佐に娘さんがおられるですとぅ!? それに、それに三尉って事は普通に自衛隊所属ってやつじゃ! そこんとこク・ワ・シ・クっ!』
「「食いついたな、ナルナル……(汗)。」」
「ふぅ……何もこの場で言わんでもいいでしょうに(汗)。もちろん異論はありません。自分は娘の進むべき道を尊重する腹積もりでありますゆえ。それにここの子供達とならば、自衛隊内外問わず煙たがられるあの子も心を開く事と期待しています。」
唐突に告げられた堅物一佐娘の機関合流案件。だがそれを苦笑ながらに了承した彼の言葉からも、そこにひとクセある事は想像に難くなかった。
程なく――
いくつもの案件を抱えた憂う当主により、拳士が一時帰還へと本土へと飛ぶ事となる。
†††
一方の地球衛星軌道宙域では――
合同演習で募る不満顔で戻る、
いくつもの傷を刻んだ、
『お前、えらく愉悦に満ちた戦闘を成して来た様だな。全く……こちらは数が倍増するイレギュレーダ共相手に、魔導外郭へ無用な傷を生んでしまった所だ。』
「愉悦とはお言葉だね、シザ。けどロズはあの戦いで、君が垣間見た彼らへの希望も確認してきた所。ただ――」
『ただ?何だ。』
「ただ彼らは、全てが未だ覚醒の域ではない発展途上。言わば
すでにやり取りは、地球機関に属する者を絶対的な殲滅対象から外した様な口ぶりで進められる。それを映像で一瞥した上級魔族たる存在……すでに合流を果たす
「シザに加えロズまでが、彼ら光側の善性にふれた様だな。
「故に地上で蔓延する、光と闇の何れもが正しさを押し通し、顔を突き合わせれば抗争に突入するなどと言う低次元かつ暴力的な解釈など言語道断。それでは、理知を持たぬ獣の弱肉強食社会に成り下がる。」
『『我らも同感であります。』』
語られる価値観は、低俗な人類では到達できぬ高位たる者らしき正論に満ち、同じ意向で事を進める魔の新進気鋭らも首肯と共に反応する。
魔が貫き通す理念は愚かな人類の遥か上級に位置する。だが地上では、
それを知る彼ら高貴なる魔の者は
たった数機も、魔の軍勢からすればそれだけで異形の群れを薙ぎ払う事の叶う戦力。それらが地球衛星軌道上から、蒼き大地を監視していた。
データ化された、異形の大群の侵入する経路を睨め付ける二人の魔の気鋭。と――
そこで今までにない異常を確認した
「ロズ……我らと光の志士らだけで、これまでイレギュレーダを討滅して来た。しかしそれはあくまで、奴らの地球侵入経路が絞られていたからに他ならない。だがこれを見ろ。」
『……っ、経路が……!?地球に現存する
地球の天空、衛星軌道上に位置する場所へ人知れず鎮座するそれは、地上の稚拙な科学では観測できぬ高次元に存在する。日本国は三神守護宗家に残る伝承で、〈アメノミハシラ〉と呼称されるそれは、
同時に、地上の種が宇宙へ上がるための手段として用いられた経緯を有し、しかしそれは遥か1万2千年前まで遡った頃に機能制限を課せられる事となる。
そう――かの太陽の大帝国ラ・ムーが存在したとされる時代に、である。
魔に属する者達にその観測が叶うのは、彼らが太古から地球人類と深く関わりがある故であり、今まさにそこに現れた異変へも最大の警戒が向けられていた。
「シザ、そしてロズ。貴君らはすぐにあれの調査に当たれ。地球側に張り巡らされた結界へこれ以上の抜け穴がが生じれば、もはや我らの手勢では手に負えぬ。万一の場合は彼らとの全面協力の元、異形の完全滅殺へ全力を注げ。これは地球人類だけではない――」
「我らが大兄者が一人……紫炎様の弟君にして、魔軍七大宰相副総裁、紫雲大兄者の命運が懸かっている。肝に銘じよ。」
『『はっ……! 天魔の宰相の御心のままに!』』
巨躯の魔将は声高に、そして揺るぎなき面持ちで宣言する。そこへ紛れる
そして因果がゆっくりと全てを巻き込んで行く。遥か数万年の時を越えて――
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