memory:46 力と力、轟砲を超える武の閃撃

 かくして開始された地球勢力と高貴なる魔軍との合同演習。だがその光景は、傍目から見ても分かる一方的なものであった。


 そこに関わるは、魔軍監視団ルミナーティル・マギウスよりの使者である温和な魔太子ロズウェルと、地球機関側の子供達との戦闘経験の差。加えた剛緑の重戦騎ラルジュ・デモンズ擁する圧倒的な防御と、現在霊装機神ストラズィールが有する攻撃特性との相性の悪さ。


 ひとえにそれに尽きると言っても過言ではなかった。


 しかしその勢力関係に一石を投じる事態が訪れる。それは他でもない四機目に相当する、世にも珍しい当たり判定を有した立体映像機体ヴァーチャル・ホログラフィ・ドライバーの参戦である。


「くっそ、こいつ硬てぇ! フラガラッハの持つ、汎用重機関砲じゃ役に立たねぇぞ!」


奨炎しょうえん君、もう少し上手く彼を誘導して! 射線上に二人がいて狙撃出来ない!』


『……わ、私の攻撃も全然避けられるし弾かれるっぽい! って、うきゃっ!?』


 合同演習開始より、攻撃が届かぬ三機の霊装機神ストラズィール穿つ戦騎ゲイヴォルグの狙撃も、貫きの戦騎ガングニールの突撃も……そして応える戦騎フラガラッハが備えた汎用武装も。何れの攻撃もが、魔軍の重戦騎装甲を抜く事が叶わない。


 すでに演習を行う根底が揺らぎ始めた頃合に、それをさらに知らしめんと、温和な魔太子が動いたのだ。


 鉄壁の防御を持つ彼の戦騎はいたずらに攻撃に転じず、敢えて防戦とする事で地球機関側の子供達の戦力を図っていた。が、導かれた結果に業を煮やした彼が、遂に切り札となる背に構えた剛砲を抜いたのだ。


『この程度か、地球の機関の力は!? これでは埒があかない……なら、ロズも少し本気を出すとしよう!』


 すでに幾度も、攻撃をいなし続けられた機関側子供達は、データで確認されていた剛砲が抜かれるや戦慄する。今まで相手取った、半端な野良魔族の有象無象など置き去りにする、真の魔族と称されるモノの実力が展開される時が訪れたから。


 刹那――

 響いた声は、三人の子供達へ生まれた隙をかき消す事に成功する。


『ボクが突出するから、みんな援護を!』


 それは事前体験最中であり、己の機体さえ所有していない居た堪れぬ拳士闘真の声。実質機体の無い彼は立体映像機V・H・Dでの参戦であるが、子供達にとってはまるで四機目が存在しているかの頼もしさが生まれていた。


「来るか、シュミレーター先の! 確か提示された四人目……闘真とうまとか言ったな! だが突っ込むだけでは、先の沙織と言う者が駆る機神の二の舞――」


 剛砲を掲げつつ、迫る四機目を警戒する温和な魔太子。彼は眼前の機体が実態無き仮想機体であろうと、一切警戒を緩める事はなかった。


 魔太子の油断なき対応は、魔族と呼ばれる者の置かれた状況を表していた。彼らにとっての戦いは日常であり、相手が実像か虚像かなどはさしたる意味をなさないのだ。


 警戒を以って、飛ぶ立体映像機を実際の敵とし睨め付ける。剛砲のエネルギー充填は、三機の霊装機神ストラズィールに対する、戦力的優位から来る判断であった。


 その彼が、警戒を移したのだ。そこに見え隠れする、戦いを成す者の気迫を感じ取ったから。


 居た堪れぬ拳士は事前のVR機体調整の際、攻撃に於ける当たり判定の数値を腕部に脚部へと集中し強化していた。そこが直撃すると、相手機体へダメージを示すフィードバックアラームが届くのは打ち合わせ済み。

 

 言うに及ばず、それは格闘技能を持つ拳士にのみ適応する機体調整である。


 警戒の魔太子を、立体映像機V・R・Dで挑む居た堪れぬ拳士が真っ向から迎え撃つ。重戦騎が轟砲エネルギー充填をキャンセルして振り抜く剛腕が、立体映像機V・R・D を捉えるか否か――


 その一撃をひらりと交わし、ふところへと飛び込む虚像の巨人。魔太子も目を剥くその動きは、格闘技に於ける有名な大会で幾度も火花を散らした、拳士自身が成す技そのものだった。


「せいやーーっっ!!」



 剛緑の重戦騎ラルジュ・デモンズ懐へと滑り込み放たれた拳打の応酬は、拳士の指にハマった鈍き光を呼んでいた。



 †††



 敵対存在となる恐れも考慮せねばならない、ルミナーティル・マギウスとの合同演習。しかしそこへさしたる不安を感じていなかったのは事実だ。


 鍵となったのは、彼らが天楼の魔界セフィロトより訪れたと明言した事。その彼らが現れた同時期に、オレの傍へと現れる様になった存在がいるから。


 そこから導かれる解は、彼らルミナーティル側の魔の子供達と、あの紫雲しうんが同種の存在と考えるのが最も正しいはずだ。ロズウェル君に加え、話ではシザ君も共に崇拝する存在があり、それらがの同一文字を充てられている点こそがその証だろう。


 そもそもが、日本に於ける漢字表記と読み……関係がないとする方が不自然でもあった。


参骸さんがい一佐はどう見る、彼らの戦闘数値は。」


「ふむ、確かに連日のイレギュレーダとの戦いで機体への慣れは感じられるでありますが、戦闘経験……純粋な戦いと言うモノの本質である、実戦経験の点で言えば見劣りする所――」

「それをあの魔の子供は、実に明確に突いて来ているでありますな。その点を踏まえ、あちらの存在を子供のくくりで測っていては、事を見誤る恐れもありましょう。」


 司令室でのやり取り。データ収集に徹する双子と、オレに麻流あさる参骸さんがい一佐を中心に陣取り、視覚情報による分析を行う。さらに格納庫に詰める御矢子みやこ青雲せいうん一鉄いってつのおやっさん側で、シュミレーター経由による多方面からの戦況観測を行っていた。同時進行として、残るロールアウト待ちの機体調整も進める方向だ。


 その中で一佐へと言葉を振れば、何やら思う所を視線に宿して解を寄越した。その理由に心当たりがあったオレは、念の為心当たりをつまびらかにしておく。


「一佐……あなたは今、入隊後あなたに着いて来ようとした娘さんを思い出しておられますね?」


「……当主炎羅えんらに、隠し事はできませんなぁ。まあ、思い出していないと言えば嘘になります。幸か不幸か、あの子は私を追って自衛隊へと入隊し、。いやはや、男子三日会わざればと言いますが、それは娘にも当てはまる場合があるのですな。」


 彼の娘は現在自衛隊入隊後の仮配属を終え、正式に各所への転属を待つ頃と聞いていた。しかしなんと彼女は、参骸さんがい一佐もいるこの機関……実質希望しているとの事だった。


 一佐が口にした子供の括りでは測れぬとの言葉はまさに、己の娘を投影しての発言と理解した。


 そこからは沈黙を以って、成さねばならぬ今へと戻して置く。いたずらに機関員の私情に立ち入らぬ様、眼前の問題への対処を優先させるためだ。


 と、オレ達の会話と入れ替わる様に響く声。一人特殊な立ち位置での、合同訓練参加となった闘真とうま君の咆哮。しかしその声は、先に拘置所で収監されていたのが嘘の様な裂帛の気合満ちる物だった。


 それを耳にしたオレは直感する。何のことはない、我が三神守護宗家は代々魔の討伐に於いて、武門を極限まで磨き上げて来た組織。

 誇るべき血統を持たぬ自身でさえ、その身を守るための護身術を徹底的に叩き込まれた経緯もあり、気付くのは容易とも言えた。


 その現状から一つの閃きが降りて来たオレは、咄嗟に通信を格納庫組へと飛ばす。これより目にする戦いこそが、後に


青雲せいうん闘真とうま君の戦い方を徹底的にモニタリング開始だ。彼が格闘家であるなら、機体の調整は今までと方向性も異なって来る。今までのリアル・プログレッシブ・ムーバブルフレーム寄りシステムを、スーパー・プログレッシブ・ムーバブルフレーム寄りへ――」

「早い話が、からへの構築システム変更を想定し事に当たれ。」


『ああ、了解だよ〜〜。それは腕が鳴るね〜〜。こちらとしても、全体で不足する防御力と、一撃の大打撃を齎す戦力増加は心強いからね〜〜。なら〜〜?』


 御矢子みやこ青雲せいうんもモニター先で首肯し合う。今までの機体はリアル指向での機体調整を成してきたが、スーパー系機体調整と聞いた機関の雄達は、揃って口角を吊り上げている。その機体整備を任されるおやっさんは、顰めっ面をさらに歪めているが。


 そんな事もつゆ知らずな青雲せいうんが、言葉に含みを持たせて来る。現状機体調整が進む一機……あの闘真とうま君に反応を示した機体の、最終的な仕様決定を仰ぐ含みだ。


「許可しよう。今後を考慮し、現在調整中の機体を速やかなロールアウトへ向け整備。加えて、建造途中である腕部には、。」

……ロスト・エイジ・テクノロジーの粋を結集し、その機体への量子無線誘導・半自立型射出式 飛翔剛腕〈ハンマーナックル・ブレイカー〉搭載を急がせるんだ。」


 スーパーと銘打つ機体代名詞の必殺武装を、彼の物として搭載する。



 亜相 闘真あそう とうまと言う少年が、如何なる悪をも撃ち砕く必殺の拳を放つ瞬間を夢見て。

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