memory:45 轟砲と剛腕唸る、ラルジュ・デモンズとの合同演習

 太平洋の空を漆黒に彩る暗闇と、時折浮かぶ雲が光をさえぎる。登る月は月齢満ちた満月……いにしえより、魔の勢力が最大の力を発揮できるとうそぶかれる日である。


 その洋上、巨鳥施設アメノトリフネそびえ立つ三体の巨人と……いるはずのない四機目の影が並び立つ。だが――


 その四機目は幾分、物質的な輪郭が曖昧な映像のようにも見えた。


『凄いですっ、これなんてゲームですか!? 是非ウチにも一台、――』


『ゲームではないし(汗)。つか落ち着けナルナル。青雲せいうんさんから聞いただろ? これはリアルタイム遠隔立体映像・ヴァーチャルシュミレートシステムだって。』


『いや、それにしても凄くない? 当たり判定がある立体映像とか、実現不可能よ? 差し詰め最近流行りの、スピリティバースと現実の融合みたいな。』


 対魔討滅機関アメノハバキリの子供達が驚愕する事には、そこに現れた四機目の機体は精巧な立体映像であり、それを投影するのは機体より小さな遠隔ドローン投影機体。しかしながら、貫きの少女沙織が口にした当たり判定の下りは、ドローンとVR上で操作する機体との各種センサー類リンクを意味する。当然その機体操作を行うは、一人シュミレートルームへ移動した居た堪れぬ拳士闘真である。


 それは穿つ少女音鳴の一言がキッカケとなり急遽発案された、。それを実機との合同演習へ組み込んだのだ。


『準備はいいかい〜〜?闘真とうま君〜〜。機体操縦方法は教えた通りだよ〜〜。そしてこちらが攻撃を受けたとしても、振動を体験するぐらいだから〜〜あまり焦る必要はないからね〜〜。』


「はい、教わった通り……だいたいは把握しました。」


『ボウズ、お前さんがもし機関に協力するとした場合、現時点では不完全な機体完成を急がなけりゃならねぇ。乗るかどうかは別にして、この演習で得たデータをそのまま、ロールアウト待ちのストラズィールへ反映させる。』

『先の判断はお前さん次第だが、協力を頼むぜ?』


「了解です、一鉄いってつさん。事前体験と言う事ですので、気楽にやらせて頂きます。」


 シュミレートルームの個体へ案内された居た堪れぬ拳士は、通信を格納庫のデータ室と施設外で待機する子供達の機体へリンク共有する。コックピット型訓練設備そのものがVRシステムとして機能する事で、あたかも仲間と同じ戦場に立っている様な状況を体験していたのだ。


 と、機関側子供達も緊張の糸を張り巡らせる瞬間がやって来る。モニターでは温和な魔太子ロズウェルが提示した時間。月が洋上へ淡き光の帯を生む宵の刻。


 怪しく輝く光源を引き連れ舞い降りる影が、巨鳥施設アメノトリフネ海域へと舞い降りた。


「なるほど……これは確かに、強力な戦力と言えるでありますな。あちらから提供されたデータから察するに、あの個体は幾重にも重ねた有機金属の鎧と、機体にそぐわぬ剛腕が攻撃の要でありましょう。」


『そうですね。けど背中に背負ってる二本の巨大な筒、か? あれはやっぱり、超火力砲の類ですかね、乱人さん。』


『ううう、うわぁーー! 双頭カノン砲来たーーーっ! これはあれですよ、ガチなスーパーロボットで――』


「うっさいでやがります、ナルナル! 今、参骸さんがい一佐と戦力分析してるでやがりますから、少し黙ってるでやがります!」


『……ナルナルとウルスラさん、仲がいいのか悪いのか分かんないっポイ。』


 巨鳥施設アメノトリフネ、さらには子供達が搭乗する機体及びシミュレーターモニターへ投影される影は、満月の光浴びて怪しく煌めく黒翼備えた暗緑の鎧纏う高貴の存在。先の堕天の霊機エリゴール・デモンズの如き魔を体現する有機機械を思わせる翼が大気を孕む。

 地上のいかなる技術とも異なる気炎を機体より吐くは、重厚な出で立ちの魔将。


 温和な魔太子が駆る剛緑の重戦騎〈ラルジュ・デモンズ〉である。


「お待たせしました、地球は光の同胞方。では定刻となりましたので、合同演習を始めましょう。打ち合わせ通り……合図はお任せします。」



 そして、魔太子の口より合同演習開始宣言を促す通信が響いた。



 †††

 


 実機での搭乗訓練を望んだはずが、とんだ訓練様相となってしまった。

 けど実の所、奨炎しょうえん君達が実際にストラズィールを動かす様を目撃し、足が震えていたのは隠せない。父さんに勝つ事を厳命された大会でさえも、こんなに身体が緊張するなんてなかった。


 そう……これは恐怖から来る震えじゃない、確信していた。


『ボウズ……いんや闘真とうまか。一人シミュレーター操作だからって気を抜くなよ? 現在お前さんが搭乗する予定の機体、起動兵装と言いつつ腕がない様な惨状には頭を悩ませたが――』

『腕部建造は急がせてる。せいぜいお前さんが搭乗した時に見合う様な、データ取りを期待してるぜ?』


「はは……それはもう、あの機体にボクが搭乗する前提の訓練じゃないですか。」


 そんな武者震い渦中の自分へ送られる、整備長のしたり顔からの注釈は、すでにボクが機体搭乗した時の事を想定した様な会話。けどその言葉は、今のボクの深層心理を大きく揺るがしていたんだ。


 と、一鉄いってつさんとのやり取りに終止するボクの聴覚へ響いたのは、現在合同演習開始を促す魔族とか言う存在の少年。ちょっとボクのやり取りが、流れに水を差してしまった様だ。


『そちらの……シュミレーター先の。準備はいいかい? ボクも……ああ、これでは紛らわしいね。こちらはロズと呼称するとし、ロズとしては手早く演習を済ませたい所なんだ。』

『なにせウチの陣営へと戻るためには、一度大気圏外まで飛ばねばならない。向こうで何かあった際、間に合わなくなる事も考慮願いたい所だ。』


「あ、ゴメン。ロズ君……でいいのかな。こちらは準備出来たので初めてくれても構わないよ。」


 冷静なる魔族と呼ばれた彼は、さして怒りを覚えている風でなく、彼自身が効率を重視するたちと察した。それだけでも、同年代と思しき異種族が達観している事に驚愕を覚えたものだ。


 程なくボク達の会話終了に合わせた、草薙さんの号令がかかる事となる。


『それでは事前に打ち合わせした通り、ルミナーティル・マギウス代表としロズウェル君のラルジュ・デモンズが。我がアメノハバキリ代表からは音鳴ななる君、沙織さおり君、奨炎しょうえん君……そしてシュミレートから参戦の闘真とうま君操縦によるストラズィールシリーズの合同演習を行う事とする。』 

『それでは、始めっ!』


 かくしてボク達は、ストラズィール隊と敵方ラルジュ・デモンズに別れた合同演習を開始したのだけど――


 それは、ボクの想像を遥かに超える戦いの始まりでもあったんだ。


 開始合図が響くや突撃するサオリーナ。機体は強襲突撃に特化したと聞いているそれで、ラルジュへと突っ込んで行く。


「……ダメだ。それじゃただの的だ。」


 想像を超える戦い……確かに40mに届く巨大な機動兵装が地球の空を舞う姿はそうなのだけど、その中にある一つの情報がこの視界に飛び込んで来る。


『なるほど、これがあのシザの鼻っ柱をへし折った突撃! だが……ぬるい!』


『やあああっ……って、ぽい〜〜!?』


 響くロズ君の通信はオープンチャンネル。それと同時に、サオリーナの突撃が無かったかの様に弾かれる様が、彼女の声と共に漏れ聞こえて来た。


『沙織、お前は突っ込むな! 突撃は、敵の正面から仕掛けても狙い打たれるだけだっ! ナルナルっ!』


『分かってますよ。ターゲッティング……ラルジュ・デモンズ。撃ち抜きます、私的に!』


 続く奨炎しょうえん君の声は、ちゃんと戦いの特性を理解した注し。続いて反応するのは施設カタパルト上、片膝付きで構える音鳴ななるさん。長大な狙撃用カノンでロズ君を狙い撃つ。


 基本的に実機での訓練な三人には、訓練用の模擬武装が備わってると聞いた。対するボクはシュミレート参戦で、当たり判定のある立体映像が敵を穿つ事となる。確かに、リアルとシュミレートでの経験差は拭えないのだけど――


『まだまだだ、地球の同胞方! 今の君等では、今後訪れるイレギュレーダを超える事は出来ない! このままではな!』


 ボクでも理解に足る物が思考を支配する。それは奨炎しょうえん君達に無くて、自分が持ち得るモノの存在。


「彼らはボクより、ストラズィールによる戦闘経験はある。けれど、ロズ君が言ってる事は分かるよ。みんなには、圧倒的に不足してるんだ。」


 三機の機体のそれぞれの特性を、実機戦闘で確認したボクは、改めてそこに不足しているモノを見出した。今の彼らが有する戦闘経験比では、三機の何を以ってしてもロズ君のラルジュには勝つ事が叶わない。


 詰まる所、。そう思考した時、モニター先で動きに転じたラルジュ・デモンズへ向け、最も必要な対応策が脳裏に導き出された。


『ならば君達がここから巻き返しがなるよう、ロズも少々本気を出させて貰う! 元来拠点死守の役目を担う剛緑の重戦騎 ラルジュ・デモンズの、鉄壁の防御に対成す轟砲の一撃を食らうがいいっ!』


 視界でラルジュが背に背負った轟砲を肩口に翳すや、月光を遮る様にほとばしる闇の電光と思えるそれが蓄積されて行く。


「させない……ボクが! ボクに出来る事は……――」


 三人がその攻撃に驚愕という油断を生んだ隙。それを無きものとするためシュミレーターを操作する。



 刹那、立体映像機体でも、ラルジュの正面へと突っ込ませた。

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