memory:45 轟砲と剛腕唸る、ラルジュ・デモンズとの合同演習
太平洋の空を漆黒に彩る暗闇と、時折浮かぶ雲が光を
その洋上、
その四機目は幾分、物質的な輪郭が曖昧な映像のようにも見えた。
『凄いですっ、これなんてゲームですか!? 是非ウチにも一台、ドローン投影型ロボットステム筐体をっ――』
『ゲームではないし(汗)。つか落ち着けナルナル。
『いや、それにしても凄くない? 当たり判定がある立体映像とか、どこぞの世界最大映像会社でも実現不可能よ? 差し詰め最近流行りの、スピリティバースと現実の融合みたいな。』
それは
『準備はいいかい〜〜?
「はい、教わった通り……だいたいは把握しました。」
『ボウズ、お前さんがもし機関に協力するとした場合、現時点では不完全な機体完成を急がなけりゃならねぇ。乗るかどうかは別にして、この演習で得たデータをそのまま、ロールアウト待ちのストラズィールへ反映させる。』
『先の判断はお前さん次第だが、協力を頼むぜ?』
「了解です、
シュミレートルームの個体へ案内された居た堪れぬ拳士は、通信を格納庫のデータ室と施設外で待機する子供達の機体へリンク共有する。コックピット型訓練設備そのものがVRシステムとして機能する事で、
と、機関側子供達も緊張の糸を張り巡らせる瞬間がやって来る。モニターでは
怪しく輝く光源を引き連れ舞い降りる影が、
「なるほど……これは確かに、強力な戦力と言えるでありますな。あちらから提供されたデータから察するに、あの個体は幾重にも重ねた有機金属の鎧と、機体にそぐわぬ剛腕が攻撃の要でありましょう。」
『そうですね。けど背中に背負ってる二本の巨大な筒、か? あれはやっぱり、超火力砲の類ですかね、乱人さん。』
『ううう、うわぁーー! 双頭カノン砲来たーーーっ! これはあれですよ、ガチなスーパーロボットで――』
「うっさいでやがります、ナルナル! 今、
『……ナルナルとウルスラさん、仲がいいのか悪いのか分かんないっポイ。』
地上のいかなる技術とも異なる気炎を機体より吐くは、重厚な出で立ちの魔将。
温和な魔太子が駆る剛緑の重戦騎〈ラルジュ・デモンズ〉である。
「お待たせしました、地球は光の同胞方。では定刻となりましたので、合同演習を始めましょう。打ち合わせ通り……合図はお任せします。」
そして、魔太子の口より合同演習開始宣言を促す通信が響いた。
†††
実機での搭乗訓練を望んだはずが、とんだ訓練様相となってしまった。
けど実の所、
そう……これは恐怖から来る震えじゃない、武者震いだと確信していた。
『ボウズ……いんや
『腕部建造は急がせてる。せいぜいお前さんが搭乗した時に見合う様な、データ取りを期待してるぜ?』
「はは……それはもう、あの機体にボクが搭乗する前提の訓練じゃないですか。」
そんな武者震い渦中の自分へ送られる、整備長のしたり顔からの注釈は、すでにボクが機体搭乗した時の事を想定した様な会話。けどその言葉は、今のボクの深層心理を大きく揺るがしていたんだ。
と、
『そちらの……シュミレーター先の。準備はいいかい? ボクも……ああ、これでは紛らわしいね。こちらはロズと呼称するとし、ロズとしては手早く演習を済ませたい所なんだ。』
『なにせウチの陣営へと戻るためには、一度大気圏外まで飛ばねばならない。向こうで何かあった際、間に合わなくなる事も考慮願いたい所だ。』
「あ、ゴメン。ロズ君……でいいのかな。こちらは準備出来たので初めてくれても構わないよ。」
冷静なる魔族と呼ばれた彼は、さして怒りを覚えている風でなく、彼自身が効率を重視する
程なくボク達の会話終了に合わせた、草薙さんの号令がかかる事となる。
『それでは事前に打ち合わせした通り、ルミナーティル・マギウス代表としロズウェル君のラルジュ・デモンズが。我がアメノハバキリ代表からは
『それでは、始めっ!』
かくしてボク達は、ストラズィール隊と敵方ラルジュ・デモンズに別れた合同演習を開始したのだけど――
それは、ボクの想像を遥かに超える戦いの始まりでもあったんだ。
開始合図が響くや突撃するサオリーナ。機体は強襲突撃に特化したと聞いているそれで、ラルジュへと突っ込んで行く。
「……ダメだ。それじゃただの的だ。」
想像を超える戦い……確かに40mに届く巨大な機動兵装が地球の空を舞う姿はそうなのだけど、その中にある一つの情報がこの視界に飛び込んで来る。
『なるほど、これがあのシザの鼻っ柱をへし折った突撃! だが……ぬるい!』
『やあああっ……って、ぽい〜〜!?』
響くロズ君の通信はオープンチャンネル。それと同時に、サオリーナの突撃が無かったかの様に弾かれる様が、彼女の声と共に漏れ聞こえて来た。
『沙織、お前は突っ込むな! 突撃は、敵の正面から仕掛けても狙い打たれるだけだっ! ナルナルっ!』
『分かってますよ。ターゲッティング……ラルジュ・デモンズ。撃ち抜きます、私的に!』
続く
基本的に実機での訓練な三人には、訓練用の模擬武装が備わってると聞いた。対するボクはシュミレート参戦で、当たり判定のある立体映像が敵を穿つ事となる。確かに、リアルとシュミレートでの経験差は拭えないのだけど――
『まだまだだ、地球の同胞方! 今の君等では、今後訪れるイレギュレーダを超える事は出来ない! このままではな!』
ボクでも理解に足る物が思考を支配する。それは
「彼らはボクより、ストラズィールによる戦闘経験はある。けれど、ロズ君が言ってる事は分かるよ。みんなには、純粋な戦いに於ける経験が圧倒的に不足してるんだ。」
三機の機体のそれぞれの特性を、実機戦闘で確認したボクは、改めてそこに不足しているモノを見出した。今の彼らが有する戦闘経験比では、三機の何を以ってしてもロズ君のラルジュには勝つ事が叶わない。
詰まる所、ここに四機目が必要である現実を。そう思考した時、モニター先で動きに転じたラルジュ・デモンズへ向け、最も必要な対応策が脳裏に導き出された。
『ならば君達がここから巻き返しがなるよう、ロズも少々本気を出させて貰う! 元来拠点死守の役目を担う剛緑の重戦騎 ラルジュ・デモンズの、鉄壁の防御に対成す轟砲の一撃を食らうがいいっ!』
視界でラルジュが背に背負った轟砲を肩口に翳すや、月光を遮る様に
「させない……ボクが! ボクに出来る事は……――」
三人がその攻撃に驚愕という油断を生んだ隙。それを無きものとするためシュミレーターを操作する。
刹那、立体映像機体でも強い当たり判定のある剛腕を構え、ラルジュの正面へと突っ込ませた。
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