memory:44 新たなる邂逅、魔太子 ロズウェル

 時間は夕暮れ時を越え、太平洋へと夕日が沈み行く。

 そこで機関の紹介も兼ねた軽い食事を取る子供達は、その直後に居た堪れぬ拳士闘真霊装機神ストラズィール搭乗体験を控えていた。


「なんかあたし、置いてけぼりっぽい〜〜。」


 そこで食事を終えた怒り顔な貫きの少女沙織は、未だそれを引き摺る様に可憐な憤怒を居た堪れぬ拳士へ向けていた。


「その置いてけぼりの意味が、ボクにはよく理解できないんだけど(汗)。」


「気にすんなって、闘真とうま。沙織のこれが引き摺る理由は、――」


「そ、そそそ……そこをバラさないで欲しいっぽいっ!? って、あーー言っちまったーーっ!」


『うわ……サオリーナ、遂に自爆ですか。もう炎羅えんらさんへの愛が暴走列車ですね。麻流あさるさんにメッチされますよ? まあ、あの女神様にして大和撫子なお人がそうそういかれる事はないと思いますが。』


 馴染む食事風景。すでに三人の機関が誇る希望達の光景はクルー達も知る所。だがそこへ新たな息吹が吹き込まれた今には、機関クルー皆も羨望を抱かざるを得なかった。


 少年少女、選ばれた四人の救世の志士たる者達が揃う現状に。


 程なく食事を終えた三人は、機関食堂担当の労軽減と各々の食器を片して後、一時集合となる司令室へ赴いた。子供達に加え、訓練状況のモニタリングとテストのために堅物一佐乱人も着く。

 当然、食事までもが機体内で済まされた引き篭もり姫は、タブレットのままの同行である。


「ここには自衛官さんも詰めてるんですね。ホントにボクの知らない事ばかりです。」


「そうでありますな。人生は知らない事の連続であります。自分も自衛隊に所属しなければ、きっと三神守護宗家と言う存在を知る事もなかったでしょう。なにせ自分、地方の田舎出生であります故。」


乱人らんとさんそれ初耳です。地方からあの都会へ赴任した感じですか?」


「そんな所でありますな。ほらほら、すぐに司令室であります。気を引き締められよ、皆様方。」


 一佐と言う肩書きから、機関員の者でも距離を置かれがちな所。やはりそこは興味が付きない若者達。居た堪れぬ拳士に穿つ少女音鳴と、彼の素性をある程度弁えつつ問うた。そこで話を濁した堅物一佐の言葉で、子供達も踏み込んではならぬとの視線を交わし合い――

 拳士少年の、事前体験訓練の説明を受けるべく司令室の扉を潜る。


 そこまでは、いつもの機関に於ける風景であった。


 機関の子供達が司令室へ入るや、何かしらのやり取りが通信で行われ、取り込み中かと子供達の視線がモニターへ注がれ……思わず声を上げる彼らがそこにいた。


「おい、あれって……何かあのシザって奴に何処と無く――」


『つ、ツノっ!? ツノ生えてますよっ!?』


「さ、騒がないのナルナル!落ち着けってば。」


 三者三様。穿つ少女に貫きの少女沙織、そして見定める少年奨炎何れもが声を上げた事には、モニターへ映り込んだ人影が先に剣を交えた者に見えたから。正確には、その姿に近似した容姿への驚愕であった。


「あれは? 確かに、音鳴ななるさんの言う通りツノが見えるけど。あれは飾りとかではないの?」


 すると騒がしい子供達の到来に気付いた憂う当主炎羅が、モニター先の衝角備えた若き存在へ首肯。そのまま彼らの会話へ、子供達も加わる様に声を上げた。


「ちょうどいいタイミングだ。たった今あちら……正式に名乗りを頂いた天楼魔軍地球監視団〈ルミナーティル・マギウス〉より、機関を跨いでの合同演習の旨を話し合っていた所――」

「その合同演習へ、君達ストラズィール隊の正規の訓練として挑んで貰う事となった。」


『お初にお目にかかる、地球の同胞となるべき方達。ボクはあのシザ・ビュラの友人であり戦友……天楼の魔界セフィロトはビナーを治めし紫水しすい様の側近。ロズウェル・ジェイ・フェンベルドと申します。以後お見知り置きを。』


 次いで言葉を放った少年は、先の猪突猛進な忠義のために生きた魔の貴公子シザとは異なる、思慮深き雰囲気と冷静さを顕とした。



 そこから、居た堪れぬ少年の訓練体験へ予想だにしない急展開が待ち受けていたのだ。



 †††



 闘真とうま君のストラズィール搭乗体験を待つ最中。先日通信した事で知る所となった、天よりの使者とのやり取り。魔の種族たる、あのシザ君の友人と名乗る存在よりの信号を受け取った。


 それは我ら地球側の、決戦兵力たるストラズィールと彼ら……魔族らが宇宙での活動と戦闘を成すために用いる魔導外郭〈魔霊機動外郭ストラ・マガズィール〉との合同演習を行いたいとの内容。

 幾度かの戦いを越えた我が機関の希望達だが、今まで現れた魔の物が、小手調べとすれば力不足は否めない――


 そこまで思考しての合同演習承諾でもあった。


「通信時点では、地球衛星軌道上のイレギュレーダは確認されていないとの事だ。そのタイミングであちら……ルミナーティルのロズウェル君が急遽駆け付けるらしい。」


「なお演習内容は、あちらの魔導外郭一機に対し当機関の全ストラズィールで当たる予定でありますが……。もし君達から、何か提案があれば受け付けるであります。」


 演習と言う事で、主要メンツが集まる司令室に同席した参骸さんがい一佐が全体を仕切る方向だが、あちら一機に対して当機関の霊機全機とのカードは向こう様の提示した組み合わせだ。言い換えれば、あちらの機体がそれだけの戦闘能力を有していると言っても過言ではない。


 その点へいち早く勘付いたのは、やはりゲームやアニメから来る戦略的な知識に特化した音鳴ななる君だ。疑問を呈して来た。


『三機のストラズィールをまとめて相手取るって事は、あのシザ君との戦いみたいに、一機で強力な機体を準備している。そう捉えてもいいんですか?』


「うむ、流石は音鳴ななる嬢。的確な疑問提示であります。ただ今回は、かなり用意周到に事を詰めて来ている上油断がない。それに……アオイ嬢。」


「はいですの。こちらで先のシザ・ビュラ君が搭乗していた、魔導外郭であるエリゴール・デモンズの戦力数値をデータ化してみたですの。その結果、あちらが一切の油断無き状態でぶつかれば、我が機関のストラズィール現状では歯が立たない――」


「でやがりますね。そこに来てあのロズウェルと言う少年……なかなか手強いと認識した方がいいでやがります。シザって奴はどちらかと言えばクソ真面目な猪突猛進でしたが、ロズウェルとやらはこう……随分と頭が切れる感じがするでやがります。」


 音鳴ななる君の疑問へ一佐が返せば、その解をオプチャリスカ姉妹がデータと直感で示して来る。特に双子に関しては、子供達と打ち解けてからの覚醒が目覚ましい所。良い意味で新しい家族からの刺激を受けている様で安心したな。


「うん、なんかそれ分かるっポイ。あのロズウェル君って、奨炎しょうえん君と思考的な所が近くない? いろいろ分析とかしそうな喋り方とか。」


「喋り方で分析出来る奴かは分からんだろ(汗)。まあ会話内容からは、察する事も出来るんだけどな。」


「え、ナニソレ。あたしがおバカとでも言いたいの?」


『サオリーナ、棘(汗)。返しが痛々しいから。しかしですね――』


 当然と言えば当然なんだが、すでに音鳴ななる君、奨炎しょうえん君、沙織さおり君は機関でも戦いを幾度も経験し会話の一つ一つに著しい成長が伺える。対し、どうしても置いてけぼりを食らうのは闘真とうま君だ。

 彼としても長く話す事もなかったであろう同世代の少年少女が、日常を軽々越えた非日常の会話を当たり前の様にやり取りする。


 事前体験としては、ある意味都合の良い展開とも言えるのだが。


 そんな会話の中、合同演習で提示される三機では、ストラズィール体験に望むと宣言した闘真とうま君が置き去りになる状況。しかしそこへ、、他に類を見ない演習形態がお目見えする事となったんだ。


『しかしあれですね。合同演習はいいとしてですよ……このままじゃ闘真とうま君が演習に参加出来ないじゃないですか。せっかく機体へ乗り気だったのに、一人シミュレーターで訓練とかはないでしょう。何かこう――』

『シミュレーターでもいいから、そのまま私達との演習に紛れられる様な……って、あー。無茶振りですよね、ちょっとでしゃばりました。すみません。』


 溢れた言葉は、どうにも物理的に実現困難と思える代案。それを理解する当人も、口を付いて出た言葉を即座に訂正している。

 確かに、今彼女の口にした代案は、。ないが――



 アメノトリフネに内包される古の技術力体系ロスト・エイジ・テクノロジーを結集させれば、あながち無理無謀と言う訳でもなかったんだ。

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