memory:42 剣が守りしは、天と地が繋がる証
8年前――
宗家大学で
三神守護宗家は草薙家の当主にして生ける伝説。三種の神器を
当時の草薙家を纏めし
「今日も勉学に精が出るな、
「そんな……オレはまだまだ学ぶべき事が山程あります故。それに宗家後継と言うのは――」
宗家が運営する大学は、実に幅広い分野の知識を学べる事でも有名で、地球はおろか宇宙や古代史に関わる情報に至る膨大な情報の宝庫と知られていた。
それは言うに及ばず、大学からの先に守護宗家に関わるあらゆる企業や、御家絡みの機関へ進む者を育てるため。その大学を出たならば、食いっぱぐれの心配はないと
が――
その実態は、守護宗家が遥か
「お父様はああ言っておられますが、無理に宗家の宿命を継ぐ必要はないんですよ?
そんな、後の義父となる
何気ないやり取りが支配する大学生活の中。いつしか彼女の見目麗しさに惹かれたオレは、決意を口にし……やがてそれが
そこまでは、オレの人生でも障害などない平坦な道であったのを覚えてる。
平坦で、申し合わせた様な人生へ影を落とし始めたのは、宗家内各所で
「そして全てはあの時……
「宇宙との繋がりを模索する我ら守護宗家はすぐに、その機体に搭乗する少年を救助の後保護。その時点で少年と言う事実には驚愕すら覚えたな。」
過去の惨劇を夢に見て、目覚めたオレは滲んだ汗を拭いベッドを立つ。悲劇を洗い流すために個室備え付けの洗面台へ。それで流せるほど軽い物ではないと知りながら。
「宇宙で機動兵装に搭乗し、戦いに巻き込まれた少年。彼はまるで聖人君子の如き瞳をしていたと聞く。確か、エイワス・ヒュビネットと名乗った彼を再び宇宙へ返すため尽力したのが、義父
ぶり返す惨劇の記憶にオレは歯噛みする。当時のオレは、
宇宙と地球との繋がりを断ってしまわぬために。
「
父を失った
新たなる守護宗家の時代へと打って出る事を。
†††
「出てきたまではいいけどさ……ナルナル完全に不審者っぽい?」
「いいんじゃね? どうせこの施設内じゃ、皆の知る所なんだから。むしろ面白いからそっとして――」
「だから私は、お笑い芸人ではありませんっ!」
「……今の、聞こえてるんだ(汗)。」
引き篭もりから僅かな進歩を見せた穿つ少女であったが、奇しくも元々引き摺るコミュ障が災いし、不審者同然で三人を追う。それを知る機関員に、行く先々で目撃されるたび暖かい目で見守られながら。
すでに日常である少女の行動に、二人は盛大に嘆息。一人は嫌な汗に濡れるも、今まで感じた事のない柔らかな雰囲気を感じていた。
日常的な絶望。実の父よりの苛烈な暴力で、心さえも消え入りそうであった頃が嘘の様に。
それぞれの性格を表す様な施設内行脚の向かう先。そこで機関に先んじて協力する仲間達が、まず何を置いても見せるべき物がある場所へと歩を進めて行く。
言わずと知れたそこは大格納庫。まだ紹介の終えていないクルーもいる故の判断でもある。
「ちょっと
「そうね〜〜
「分かった。ここで待ってるよ。」
大格納庫入り口で待ちぼうけとなる三人を置いて一人、見定める少年が今も機体が
「機体の説明含めておやっさんに任せるから、ちょっと俺達が乗ってるアレを眺めててくれ。」
気難しい整備チーフの存在をチラつかせつつ、当の本人を探しに向かった。
そこから少しの時間、居た堪れぬ拳士は友人となった少年の言葉に従い視線を上へ。その視界に飛び込むのは、格納庫の機械天上が邪魔をして見えなかった施設内の全貌であった。
「……っ、これがロボット。もっと身近なサイズを想像してたんだけど……これ、凄く大きいね。」
双眸へ映り込む巨影は、首を大きく煽り見なければ確認出来ぬ全容。高層建築か、はたまた大地に足を付けた巨大クレーン
「バカげてますよね。私達、こんなとんでもロボットで敵対勢力相手に戦ってるんですから。」
「戦う……。その、君達が戦ってるのって?」
「うん、確かデヴィル・イレギュレーダって言うのが正式……って言って良いのか分かんないけど、地球の外から襲って来る存在っぽい。」
徐々に慣れ始めた穿つ少女も距離を縮めつつ、キョドる彼女へ苦笑を漏らしながら拳士の言葉に応える貫きの少女。
日常からは考えられない言葉を、当たり前の様に口にする同世代の少女達を見やる居た堪れぬ拳士は、そこからさらに巨大なる機動兵装を見上げて言葉を漏らしていた。
「魔を断つ者、ストラズィール。不条理と、暴力を打ち砕くスーパーロボット……。」
不思議と心へ入り込む単語に、居た堪れぬ拳士は巨大なる存在に引き込まれて行く。魔を断ち、不条理と暴力を打ち砕くその荘厳なる出で立ちへ。
「……ミョルニル……。」
なんとなしに放たれた拳士の声に被せる様に、機関の子供らも慣れ親しんだ怒号が響き渡る。見定める少年が連れてくる
「てんめぇ、あれほどストラズィールの整備調整には気を払えって言ってんだろうが! エネルギーバイパスの修理不備があちこちで出てんぞ! さっさと修理にかかれぃ!」
「さーせん、おやっさんっ!」
大格納であるのも忘却するほどに反響する怒号は、言葉を漏らした拳士少年すらもビクつかせた。が、己が家庭で受けてきた暴力からの怒声ではない、一級職人が弟子を
「おう、オメェさんが
「おやっさん(汗)。ボウズは勘弁ですよ。」
「ワシからすれば、オメェさんらはボウズで上等。まだ人生でも、学ぶ事が山程あんだろうが。」
すでに打ち解け、ともすれば師弟とさえ思える二人へ女子陣は少し驚きを以って……そして居た堪れぬ拳士は羨む様に視線を送る。と、拳士少年は自己紹介が遅れたと名乗りを上げた。
「はい、ボクは
「オメェさん、親御さんに暴力を振るわれてたんだってな。」
その名乗りへ被せたのは堅物整備長。だが彼らしからぬ行動に、見定める少年も真意を見極めんと双眸を細めた。次いで語られたのは――
「いろいろと事情が許すなら、ここに居座ればいいさ。このボウズに嬢ちゃん達はまだまだ未熟だが……今オメェさんの心を一番理解してくれんだろう。機関に詰める連中も気のいいヤツらばかりだ――」
「だからそんな、他人を見るような目はよしな。もっと大切な家族といる様に、心も身体も癒やして行くといい。」
先達であり、人生の先輩である整備長の言葉は居た堪れぬ拳士の心へと入り込む。面通しに当たって見定める少年が簡易に伝えた情報から、堅物整備長は単純明快な迎えの言葉を準備したのだ。
たったそれだけの言葉を耳にした拳士少年は――
忘れていた熱い雫が
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