memory:39 救われなかった少年と救われた少年
自身としては胸クソ悪くなる様な過去だったけど、数日間アメノトリフネで生活し、異形の存在と戦うに連れ大きな変化が訪れていた。
「誰もが能力を恐れ、そして利用せんと動く世界に、俺は絶望を覚えていた。きっとあの
ドメスティック・バイオレンスなんて、一言でなんて表せないのは理解してる。そもそも俺がクソババァから受けてた仕打ちもその
そこであの
吟味し、会話に許される言葉を選んで行く。
するとブツブツとコックピット内でボヤいていた俺の声が、どうやら聞こえてたらしいナルナルがガラにもなく介入して来る。俺と沙織が近しいとして、ナルナルだけは、取り巻く環境に於ける問題のベクトルが少し違ってたが。
『
「つか、なんで勝手に人の未来を决定してんだよ(汗)。よりにもよって
『ないとは失敬ですね。……無かった(汗)。』
「そら見ろ。」
介入ついでに、言うに事欠いて俺の未来が
それ以降俺が振られる案件は、そんな未来さえ予見させる物ばかりだった。
まあ、未来の事なんて誰にも分からない今は、まず異形の魔を退治する傍ら、家族に迎え入れられるはずの友人候補を如何にして救うかの熟考に努めた。
「……
微妙に意識の片隅へ引っかかるナルナルの言葉を振り払い、警戒も新たに待機任務を全うする事にする。
そして――
その日は意外にも魔生命襲来がない、穏やかな日が過ぎていったのを覚えてる。異形とやらにも休みでもあるのかと、くだらない慢心に浸りながらの午後。
いつもとは違うパターンの受け入れのため、俺は
「すまないね、君ばかり負い目を背負わす形になって。」
「構わないよ?
「そう言ってくれると助かるよ。では輸送機の準備ができ次第、本土へ渡る事とする。」
『頑張って来て下さいね?未来の警察24時。』
『え?何それ。そんな話はあたし聞いてないぞ? ナルナル、そこんとこもっとクワシク。』
「クワシク聞くなよ、沙織(汗)。ナルナルが勝手に言ってるだけだから。」
俺が
けれど少し俺も緊張した事には、これから向かう先は拘置所。普通に生きてるウチでも世話にはなりたくない施設だ。亜相とか言う高校生の前に、俺の方が犯罪者の末路事前体験になっちまったよ……。
などと思考をぐるぐる巡らせたまま、輸送機は一路日本国本土へ。機内でも緊張が抜けない俺は、
程なく――俺は新たな友人候補が収監されている拘置所へと、真っ白い鋼鉄の白馬に揺られて赴くのだった。
†††
宗家特区の行政中央区にある拘置所へ、曇天の中
天に向け跳ね上がるドアを
「これは当主
「出迎え感謝致します、
「うっす。
気さくなデカの疑問へ毅然として対応する憂う当主。自己紹介と振られた見定める少年も、すでに解けた緊張の中、
そもそも雲上の存在である守護宗家一家は当主直々の訪問で、むしろ緊張していた側である気さくなデカ。しかし、現在収監中の子供の心情を配慮した、憂う当主の計り知れない器に感服を抱くや、緊張は畏敬の念へと変換された。
「なるほど……初対面でもしっかりとした礼節に加え、
「お戯れを。あなたの様な、市民と向き合う誇りある法の番人がいなければ、この国は瞬く間に犯罪の
そして抱く念のまま口を突いた、自身で己を見下した様な発言を、憂う当主は最大の賛美を以って否定する。もはやそのやり取りだけで、当主どころか同行する少年の格までがうなぎ登りであった。
程なく双方の信頼関係が築かれた頃、早速と取り調べ室へ案内された二人。通常は一般人が立ち入る事ができぬそこへ、特別の許可の元入室し二人が座したのを確認した気さくなデカは部屋の外へ。
大人数で押しかけて、精神的に追い詰められた少年の心に、過度の負担をかけないための配慮であった。
僅かな時。曇天から無数の雨粒が落ち始めた中で、拘置所収監中の少年が担当官に連れられ取り調べ室へ赴いた。そこで憂う当主と見定める少年が目にしたのは、窓の外で降り出した雨の様に、酷く淀み、悲痛な失意の中にある少年の姿だった。
「……?
か細く溢れた、聞き取るのもやっとの名乗り。だが失意の少年は、自身も想定していない状況へささやかな反応を顕としていた。いつも自分へ労りを向ける
そこが関係者意外立ち入り禁止である事を知る彼も、疑問符しか浮かばなかった。
眼前の少年の小さな反応。それを見落とす見定める少年ではなかった。
そのまま首肯を憂う当主へ送り、当主も彼が見抜いた少年の状況を踏まえてのスカウトを開始したのだ。
「このような場所への急な訪問にも関わらず、対面に応じてくれた事に感謝するよ、
「……はい、それぐらいは。けどその当主様が、ボクの様な犯罪者へ一体何のご用事ですか?」
短い挨拶で口火を切った憂う当主。が、その名に反応した
しかしそれを口にした少年が纏う悲しみと絶望は、覚悟はするも望まぬ結果であると――
見定める少年の直感が深層まで読み解いて行く。
僅かの言葉を交わした憂う当主は、以降を機関が誇る希望へ委ねる様に間を空けた。その期待に応えるため、変わって口を開いたのは見定める少年であった。
「俺の名前は
「って、気が早いな。それの事前体験勧誘のために来たんだ。」
「ロ……ロボット? 一体なんの――」
「あんたが自分を自虐する理由は、この際横に置いておく。だから一度だけで構わない……俺達の所へ来てみねぇか? 例えその事を、世間がどう言おうと知ったこっちゃない。俺達は全力であんたを、亜相 闘真を歓迎する。」
当主は敢えて名乗りのみに留めていた。眼前の少年の心を開けるのは同世代の少年だけだと踏んで。見定める少年も、
強引であろう。が、それを放った少年の真っ直ぐな瞳は……居た堪れぬ少年へささやかな微笑を呼んだ。
「……君みたいな人が、世の中にはいるんだね。違うか……きっとボクにお節介を焼いていた彼も、君と同じだったんだろう。彼も――」
か細く漏れた想いの吐露。罪に汚れた少年は、やがて見定める少年に己を想ってくれていたはずの友人を重ねると――
固く閉じた双眸から、声を殺す様に嗚咽を漏らしたのだった。
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