memory:36 海上の学び舎
今日は異形……
例によって例の如く、どこぞの引き篭もり姫は御殿に篭もったままだけど。
『海上施設で、こんな山の幸が味わえるとは思いませんでした。ウマシウマシ……。』
「ナルナル、山菜料理とか普通に食べるんだね(汗)。私はファストフードが恋しくて恋しくて。あ、でも家庭料理とかをそのまま出してくれるのは嬉しいっぽい。」
「沙織は親が、ほとんど家にいなかったんだっけな。そりゃまともな家庭料理も食えねぇわ。」
「つか
大衆食堂
そんな友人水入らずな所へ、珍しく食事の時間が重なった
「どうだい、この食堂は。機関で勤しむ者は日本出生者も多いからね……この雰囲気は、皆へのささやかな贈り物でもあるんだ。」
「うひゃっ!? え、え、炎羅さん! 今日は予定、ああ、空いたんですね!?」
「何で沙織がテンパってんだ?」
『
「ぽい〜〜!? 余計な事は言わんくていいの、ナルナル〜〜!」
『あわあわ、画面を揺らさないでサオリーナ!? 食べたものが戻って来ちゃう!』
その
噴き出す俺につられる様に、同じ時間の昼食となった機関の人達からも笑いが溢れる。機関に満ちる暖かさには、新鮮ささえ覚えた。けど――
そこで僅かに不協和音を奏でる者が若干名、存在していたんだ。
それは俺達の視界に入る席をわざわざ選び、荒々しく座して食事にありつかんとする小柄で色白な影。確かオペレーターを熟している双子の片割れで、ウルスラとか言うロシアンハーフの少女だ。
「
次いで響く悪態は、俺達に聞こえるか否かの声量で吐き捨てられる。
勘の鋭い
けれど
「やってみます」との視線を頼れる兄貴分へ投げ、そのまま視界にウルスラ女史を捉えて思考する。
彼女の今までの対応は、俺達が認められた事を渋々了承していた感じは傍目でも明らかだった。数度の戦闘通信を聞く限りでも、感情的になり易く表面を取り繕うのが苦手ゆえの反応だ。ただ……なぜ執拗なまでに突っ掛かるかはまだ見えて来ない。
俺達が、ストラズィールの搭乗者に選ばれた事が起因しているとは踏んでいた。けどまだその先に、彼女自身の問題が隠れている気がしていたんだ。
そこで――
「俺達はガキンチョだぜ?ウルスラさん。だから間違いも犯せば、悩みもする。ボロなんて四六時中出してる様なもんだ。けどあんたは、ボロを出さない自身があるのか?」
唐突な言葉で、沙織とナルナルの視線が俺に集中する。同時に、俺の言葉が
ここに厄介になる以上、俺達の衝突は避けられないだろう。だからこそ――
その不穏を早めに処理する心積もりで、彼女との会話に望む事とした。
†††
子供達迎え入れと、滞りない魔の異形討伐。事は順調に運んでいる様に思われたが――
燻る不穏の因子はささやかながら、機関内にも存在していたのだ。
「調子に乗ってんじゃないでやがりますよっ!」
椅子を弾く勢いで立ち上がる、双子の片割れである
しかし幼き頃自覚して以来、当たり前の様に社会の負の面に晒されて来た少年にとって、少女の癇癪はむしろ心地良ささえ感じるものであった。
「悪いな。俺も今まで生きて来た中で、さんざん忌み嫌われ、遠ざけられた身。調子に乗ると言うのがどういう事かは分からない。なにせ人と接しようにも、相手から遠ざかるんだ……それ以前の問題だろ?」
「……っ!? そ、そっちの人生談義なんて聞いてないでやがります!」」
「おねーちゃん、何をやっているですの!? ケンカなんて止めるですの!」
少年が口にする、誰もが自分を遠ざける社会の孤独は、成人とてそう耐えられるものではない。彼はそれを、幼い時分より嫌というほど経験したからこそ、感情をむき出しにして食って掛かる少女へ好感さえ抱いていた。
己へ確と目を向け、本心で意見してくれているから。
そして見定める少年が努めて冷静に放つ言葉へ、己の生まれを混ぜた事でポニテ姉が一瞬言い淀んだ。彼女も想定していない少年の過去内容ではあるが、それは相手を見定めるために発された言葉の陽動である。しかし、激昂のあまりそんな事さえ見抜けぬポニテ姉は一層癇癪を激化させた。
駆け付けた
その勢いに任せ、理知ある人として口にすべきではない言葉を放ってしまったのだ。
「あたしはロシアの機動兵装研究機関にいた頃から、このストラズィール搭乗候補に選ばれてたでやがります! それが、お前達みたいなポット出にお役を掻っ攫われるなんて――」
「そのあたしがどれほど機関の期待を背負ってたか、お前に分かる訳ないでやがります! お前達なんて、あの異形の魔モノに落とされてしまえば――」
食堂が静まりかえる。それはポニテ姉の放った言葉だけが要因ではない。それと同じタイミングで響き渡った、頬を叩く音が関係していた。
「おねーちゃん、言っていい事と悪い事があるですの。皆も私達と同じ人間なんですよ? なのにそんな事言うのは、私も悲しい……。」
「アオ、イ……。」
刹那の出来事に、姉も事態を悟れずにいた。遅れて自分の頬が痺れて来た時、ようやく己が妹に頬を叩かれたのに気付いたのだ。
目にした状況で言葉を
「悪かったな、ウルスラさん。あんたは、その機関の威信を背負ってここに来たんだろ? なら俺達に役目を掻っ攫われたと思うのは当然だよな。けど――」
「あんたはあのストラズィールで、何がしたかったんだ? 世界の破壊行動か? 違うだろ? この蒼く澄み渡る地球を守りたいから、ストラズィールに乗る事を選んだんじゃないか?」
「あ、当たり前でやがります。誰が夢にまで見たストラズィールに乗って、大事な故郷を滅ぼしたりするでやがりますか。あたしはストラズィールに乗って、この手で世界を守ってやりたかったですよっ!」
咆哮が
「んなっ!? 何しやがるですか、この――」
「ごめんなさい、ウルスラさん。私達があなの役目を奪ってしまって。でも、ここを……地球を守りたいのは私も同じ。だって、このアメノトリフネにいる人達が私を見てくれるから。この人達のためになら、こんな世界も捨てたもんじゃないと思えるから。」
『そうですね。詰まる所そこへ、あなた……ウルスラさんも入っていると言う事です。なのであなたのその気持ちを、どうか私達に預けてくれませんか? ストラズィールで、この世界を守りたいと願う素敵な気持ちを。』
貫きの少女に続く様に、
「ぷっ……。せっかくいい言葉で締めようとしてるのに、引き篭もったタブレット映像越しでは、ぜんぜん決まらないでやがりますよ?ナルナル。」
『う、うるさいですね!』
ポニテ姉の双眸が緩み、穿つ少女が癇癪も嘆息で締め括る。
そこで確かに空気が変わる音がした。張り詰めた雰囲気が和らいで行くのを、見定める少年も感じていた。食堂の騒ぎを聞き付けた
事態解決に「どうっすか? 」のドヤ顔を送り付ける見定める少年と、それを見やる
子供達は勉学以上の経験を、ここ
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