memory:35 交わる光と闇の因果
だが同時にそれは、機関を存続させるために必要な諸々の手続き倍増を意味する。それを踏まえ、子供達を
「お疲れさまです、当主
「ああ、すまないな
「致し方ありません。それが日本と言う国家。厳正な審査に山積みの書類提出の試練を越えてなお、世間の目という最大の難関が押し寄せるお国柄です。それをすっ飛ばしては、防衛機関の存続さえ危ぶまれる所ですからね。」
防衛省施設から出たオレを待つ
「では、子供達受け入れの事前調査を任せる。が、君に任せる件は警視庁からの留置所と、また厄介な場所を回らねばならない案件だ。」
「受刑を予定された子供を保釈する様なモノです。それこそ、世間の目を最も警戒せねばなりません。ですが、その件についてはお任せ下さい。あの輩な八汰薙第一分家が動いているのです……難事の片持ちぐらいはしないと、後々が厄介ですからね。」
「はぁ……
白き愛車のドアをカチ上げつつ
画して、頼れる
それはここが先進諸国であるのか疑いたくなるような、法治の乱れが渦巻く場所を通ると同義だった。
「荒れているな。警察もここまで踏み込みたがらないのが分かる。その分、裏方専門の宗家が自治に乗り出さねばならないなど……先進諸国の名が泣くだろう。」
甲高いエキゾーストを響かせる、2ローターNAエンジンを響かせ荒廃の迫る街並みを横目に宗家特区へと駆ける。そのまま建設中の、宗家が擁するメガフロートの航空機発着場を目指した。
車内デジタル計で、機関へのフライト予定から充分な余裕があるのを確認したオレは、速度を落とし近くの湾を一望出来る堤防そばへと車を止めた。
それは脳裏へ、かつて感じた感覚が過ぎっていた事に起因する。ある日突然姿を現した、あの超常の存在と出会った時の感覚だ。
「オレを見ていたのか? 確か、
「おや、気付かれていたようだね。存外に君は、高次の存在に対する感覚が鋭いと見た。」
「高次、か……。自覚はないんだが、オレは別件で出会っているからな。あの機関を任された際、君とは違う高次の存在と。」
「ふふ……星の観測者アリス、だね? 」
愛車から降り立ったオレの言葉へ、当たり前の様に反応したのは紛う事なきあの
オレが口にした、アリスという神格存在を名指しで言い当てた時点で、彼が何であるかの確信に近付いた。
「アリスを知っていると言う事は、君は
彼の言葉でそれが何であるかを悟るや、相応の対応をせねばとの考えに達したオレは直後、
「構わないよ?今までの話し方で。僕はそれほど、
「僕は是非、君と親友になりたいと思うんだ。返答はいかに?」
「……オレと、親友? 」
飛び出た言葉は想定の遥か斜め上。けれど――
それを発した彼が、視線へ耐え難き憂いを乗せていたのを感じたオレは、断る事などできなかったんだ。
†††
「……そちらに何らかの事情があるのは察した。そして普通でいいと言うなら、対応は今まで通りとしよう。その……親友と言う関係も、依頼と言う形に違和感が拭えなくもないが――何から始めようか?」
「ありがとう。それに警戒する事はないよ。親友の件も重く考える必要はない……早い話が、ちょっとハメを外すのに付き合って欲しいと言う訳さ。」
神格存在に位置する気配と、無邪気な子供の様な純粋さを持ち合わせた古の君へ、戸惑うも耳を傾ける憂う当主はようやく嘆息のまま警戒を解く。そして親友を宣言した彼を、愛車の助手席へと案内した。
「幸いにも時間の猶予はある。ならば君を……
「ふふ……いいね、乗った。僕としても、光に属する人類が生み出した文化には、興味が付きない所だよ。ではお邪魔して――」
憂う当主に誘われるまま、助手席側でカチ上がるドアを
宗家の得意とする特殊改良で、自動開閉の叶うガルウイングドアが閉まるや、憂う当主は
憂う当主も、相手が神なる存在であればドライブに加減の必要もないだろうと、敢えて己の思うままに愛車を暴れさせたのだ。
「ははっ……存外に心地いいね、この自動車と言う文明の力は。僕もここまで低次元世界で、魂を震えさせる事象に出会ったのは初めてだ。」
「だろうな。神格存在に属すると言うならば、人間の文化など稚拙にして矮小極まりないものだろう。だが低次元世界でも、魂を込めて生み出されたものは時として、言葉では表現出来ない事象を齎すものさ。」
宗家特区幹線道路に入った事で強めたアクセルが、有り余るトルクを呼び空転するタイヤ。しかしそれをキッカケに、車体が斜めにスライドするもカウンターステア――流れる車体に対しての逆ハンドル操作を敢行する憂う当主。
人馬一体を体現する、華麗なるマシン捌きが披露された。
普通の何も知らぬ人間であれば、絶叫と恐怖に打ち震えたであろうが、同乗するは雲上の存在。低次元に於ける刹那の物理事象如きで、右往左往するはずもなかった。
むしろ不自然な方向へ流れ行く車窓の景色に、感慨深ささえ抱いていた。
そのまま特区の
程なく開けたアスファルトのスペースへ躍り出た白馬が、八の字を描くドリフティングから定常円旋回を繰り返し、岸壁となる場所で華麗なるスピンターンで締め括った。
「これぐらいならいつでも付き合うが、俺もそれほど暇がある訳ではない。今日はこれぐらいで手打ちとしてくれるか? 」
「とんでもない、とても楽しい時間を過ごさせて貰った。実の所、僕も神格存在として生まれた関係上、君たち低次元人類の〈遊ぶ〉と言う感覚に
未だタイヤスモーク舞う
「よければ君の空いた時間で構わない。また僕の親友として、刹那の時を過ごして貰えないだろうか、
「
「ふふ……人間にしておくのが惜しいほどだよ、君と言う存在は。今日はありがとう。では――」
本日の締めとなる会話を一頻り交わした二人は、共にカチ上がるドアを
「はぁ……存外に神格存在とやらも、せっかちな事だな。」
すでに相手を神たる存在と仮定した憂う当主も、その事象にさほど驚く事もなく嘆息を漏らした。
そこから予定時間ちょうどを示す頃には、対魔討滅機関と言う、もう一つの家族が待つ根城への帰還を見る憂う当主であった。
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