memory:33 魔の貴公子と親愛なる兄、それぞれの顛末
子供達が僅かながらに熟したVRシュミレート結果より、一佐が見出した個々の能力。集中力とここ一番の度胸にすぐれる
人の言動から相手の本質を見抜くが常であった事で、戦況を読み取る術を身に付けていた
まさに知能を有した相手を敵にした際の要たる力が、三機目の霊機覚醒を呼ぶ事となったんだ。
「恩着せがましい事は言わない。今日出来た借りの分だけ、いつか来る窮地の助っ人を頼みたいんだ。俺達が弱いなんてのはハナから承知済み。それは機関の……アメノハバキリ機関の皆も理解してる。」
そんな中で、唯一対人対応に特化した
相手は高貴なる存在にして、西洋に於ける王に忠誠を近いし騎士そのものだ。それほどの者から一時的にでも協力を取り付ける鍵……不覚にも襲撃を許した魔の異形を討つ事で、愚直な彼に有無を言わさぬ状況を創り出した。
『アメノハバキリ機関……それがお前達が属する組織名か。名は……お前の名前はなんと言う。』
「ああ、悪りぃな。名乗ってなかった。けど、そんな暇さえ与えない襲撃を敢行したのはあんただ。高貴なる者だってんなら、その程度は汲むぐらいの矜持を見せろよ? 俺は
『わ、わわわわた、わたわた!? 』
「すまねぇ(汗)。彼女は対人が苦手でな。わたわた言ってる女子が
『んじゃ次、私? 私は
そして、魔族と称される者達にこちらの年齢概念が当てはまるかは兎も角としても、恐らくは同年代であろう
『……シザは今日借りを作ってしまった。魔族の騎士としては恥ずべきだが、あなた方の矜持を踏み躙ればそれこそ、下賤の輩と成り下がる。いいだろう……いつか借りを返す分には合意する。だが――』
「ああ、当機関はそれで構わない。但し、今後我らが君のお眼鏡に叶わぬと言うならば、遠慮する必要などないさ。これはこの地球で活躍する、各討滅機関の何れでも間々見られる、機関同士の暗黙のルールでもある。」
見事にシザの心を折り、開いて見せた
そこまでの会話を終えた高貴なる彼は、モニター回線を切断する。同時に、エリゴール・デモンズと呼称された黒き霊機を反転させるや、名乗りの通り風となって消えた。後に残された皆の機体反応以外に、敵存在らしきモノも確認されていない。
詰まる所の、状況終了だった。
「では皆、機体を格納庫へ戻そうか。手早くやらないと、
『うわ、それやべぇ!どやされる! 』
『ヤバイヤバイ! さっさと機体を戻しましょう! 』
『一鉄さんが怒ると、耳とお腹に声がガツンと響くっポイ〜〜!? 』
『ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと機体を戻しやがれぃ! 』
『『『来たーーーーーーっっ!!? 』』』
オレの言葉へ違う危機を察した子供達だったけれど、呼びかけの甲斐も虚しく怒号が響いてしう。その声は、司令室に詰めていたウルスラ君とアオイ君もさえ震え上がらせたな。事態が急展開過ぎて、置いてけぼりを食らっていた様だったから。
ともあれ状況終了を見たオレは、改めて気を引き締める。今後山積みな難題へ向けて、心と視線を切り替えて行く。
今いる子供達の今後、それら機体にこれから参入予定の子供達。敵対存在に、魔界からの来訪者。さらには司令室に詰める人員選別に機関施設運用のこれからと――
巡り巡る難題を整理しながら、本日の締め括りとなる
†††
異形の魔生命討伐のはずが、さらなる来訪者との死闘と言う事態へ放り込まれた
だがそこへ珍しく、引き篭もり御殿から出て来たブレないお嬢様も同行していた。
「良かったのかい? 君はまだ、対人が苦手だと思っていたんだが。」
「苦手ですよ。でも、
「自分で不審だとは思ってたんだ(汗)。」
「そこ! あくまでこれは特別ですよ、サオリーナ!
「「ぷっ……! 」」
憂う当主の疑問へ応える
しかし魔貴族との戦いは、確実に子供達の絆を深める結果を導いていた。
そしてシェルターへ訪れた一同は、少し気を引き締め相対する。見定める少年の兄を視界に入れて。だが――
機関側一同が案ずる事もないほどの雰囲気に包まれた、
「……何か心変わりがおありになりましたか? お出でになられた頃と、大きく雰囲気が違うように見えますが。」
空気を察した憂う当主。他でもない見定める少年の機体搭乗がなったのには、間違いなくその兄が絡んでの物と踏んでいた。その思考より発した言葉へ、想定通りの答えが返される事となる。
「俺があなた方を信用していない点は変わりません。変わりませんが……俺の弟が、成長している事は理解しました。ちょっとお節介が過ぎたかと思える程に。」
「そう、ですか。では? 」
「あくまでこれは、弟の意見を尊重した決断です。今後あなた方が弟へ危害を加える様な事さえなければ、彼をこちらへ預けてもいいと……そう考えた次第です。」
真摯な兄はシェルターへと訪れた弟と、そこへ寄り添う憂う当主に、友人と思しき少女達を一望し告げた。それもただ見た訳ではない……弟が助けたいと願った者達が、信じるに値する眼差しを有しているかを見定めたのだ。
弟がその身に宿した能力の如く。
耳にした言葉へ憂う当主も対応した。当然の結果が、見定める少年によって齎された事を踏まえて。
「承知致しました。あなたの言葉、肝に命じて置きましょう。我ら機関としても、人の目がある事を意識するのは重要と考えております。以後はその観察眼で、我ら機関を見定めて頂けたらと思う所存です。」
「此度はご理解、感謝致します。」
見定める少年を一瞥した憂う当主は、そのまま真摯な兄へも深々と
そして――
真摯な兄は宗家輸送機へと案内されて、家路に付く時間となった。
「兄貴っ! 俺――」
「いいんだ、今は何も言わなくて。これからはお前の生きたい様に生きろ。俺も陰ながら応援する。だから絶対に、命を無駄にするんじゃないぞ? 」
「……っ! 俺、俺は……! ありがとう、ありがとう兄貴っ!! 」
輸送機の轟音が撒かれる昼日中。陽光が、一人の少年の新たな旅立ちを祝福する。
見定める少年の言葉は、兄への今までへの感謝と、これからを見守ってくれる想いへ向けてのモノ。彼がこの日まで気付けなかった、偉大なる兄の……家族としての思いやりへ向けたモノである。
案じるも、強く生きろとの視線を送った真摯な兄は、やがて爆轟撒く輸送機で太平洋を飛び去って行く。それをカタパルト上で見送る少年は、双眸を僅かに濡らし、しかし会心の笑顔で立ち尽くした。
男の涙は人に見せるものではないと、機転を効かせた憂う当主は、怪訝な顔をした二人の女子の肩を押し機関施設内へ。
少年が、男として立ち上がる姿を目に焼き付けながら、諸々の後始末へ戻って行くのであった。
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